表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/88

第56話:歌のレッスン選考

 《アイドル・サマー・シャッフル・フェスティバル》は第二週目に突入する。


 朝一のリゾートホテルの中庭に、一次選考を突破した男女六十人のアイドルが集合。

 総合プロデューサーから参加者に対して説明がある。


「えーと、それでは第二週のレッスン……歌のレッスンを始めたいと思います……」


 第二週の強化トレーニングは、前世の歴史のとおり歌だった。

 つまり第二週の選考を突破するためには、歌の選考をクリアしなければいけないのだ。


「えーと、それでは今回も男女で……」


 参加者は六十人の大所帯。また男女に別れてレッスンとなる。


「えーと、それでは男性陣は、こちらに移動を……」


 リゾートホテル本館にある広い個室に、オレたち男性陣は移動していく。

 特に何の音響機材もない場所だ。


(なるほど。たしか最初は発声練習やボイストレーニングを行うから、何も機材がないのか?)


 メジャーデビュー前の新人アイドルは、歌の基礎的な技術が高くない。

 そのため最初はボイストレーニングからスタート。これは例年のアイフェスと同じ流れだった。


(ボイストレーニング……か。女性陣は大丈夫かな? いや、でも今は自分のことに集中しないとな……)


 朝一のエリカさんの『歌苦手』というカミングアウトは気になる。

 だがオレの方がアイドルとして総合力は、彼女よりも低い。


 他人の心配よりも、まずはわが身の安全の確保。

 オレは集中力を高めて、ボイストレーニングに挑むことにした。


 ◇


「えーと、それでは、まずは……」


 総合プロデューサーの挨拶から、ボイストレーニングが開始となる。

 プロの歌トレーナーが、参加者数人単位でレッスンしていく形式だ。


 オレは順番待ちをしながら、他の参加者の歌の評価を確認していく。


(ふむふむ……なるほど。歌のレベルはこんな感じか……)


 何組かの歌を聞き終えて、ある程度のレベルは判別できた。

 参加者はダンスと同じように、大きく2段階のレベルに分けられる感じだ。


 ――――◇――――


 《今回参加している中位グループの平均値》


 ダンス技術:D+

 New! 歌唱技術:D+

 表現力:D

 ビジュアル:B-

 アピール力:C-

 天性のスター度:D+

 ☆総合力:C


 ◇


 《今回の中で上位グループなアイドルの平均値》


 ダンス技術:C+

 New! 歌唱技術:C

 表現力:C-

 ビジュアル:B-

 アピール力:B-

 天性のスター度:C+

 ☆総合力:B-


 ――――◇――――


 オレ目線では、こんな感じの評価になる。

 前回のダンスの時では判断できなかった“歌唱技術”の情報を、今回は得られたことができた。


 ちなみに前回のダンスグループにもいた“下位グループの人たち”は、第一回目の選考ですでに落選している。


(さすが上位グループの人たちは、歌の基礎もできているな……)


 上位グループの数人の人たちはビジュアル良いだけはなく、ちゃんと歌の基礎も身についていた。

 彼らは総合力も高く、おそらくは最終選考までは残っていくだろう。


(うーん、それに比べて中位の人たちは……)


 一方で中位グループの人たちは、歌の基礎ができていない。

 たしかに“カラオケ”は上手いのかもしれないが、アイドルとしてのボイストレーニングを積んできていないのだ。

 このままでは彼は最終選考までは残る可能性は低いだろう。


(あっ……次はあの三人組だ!)


 先日“撮影前のウォーミングアップ運動”をした熱血三人が、歌のレッスンをスタートした。


(あの三人の歌はどんな感じなのかな?)


 仲良くなった相手だが、この場でライバル同士。オレはこっそりと観察をしていく。


 ――――◇――――


 《熱血三人組の平均値》


 ダンス技術:C+

 歌唱技術:C+

 表現力:C-

 ビジュアル:C+

 アピール力:Cプラス

 天性のスター度:C+

 ☆総合力:C+


 ――――◇――――


 オレ目線では、こんな感じの評価になる。


(なるほど。三人ともなかなか平均的で、総合力も高いな……)


 中位グループよりは全ての能力において、彼ら三人は上をいっていた。

 またビジュアルこそは上位グループには劣るが、上位にも歌の技術は負けていない。かなり技術力が高い。


(難点といえば“表現力”や“アピール”が弱いところかな? それさえ改善できれば、最終選考までワンチャン残れそうだな)


 きっと地道な歌とダンスの基礎レッスンを、三人とも積んできたのだろう。華やかさは弱いが、アイドルとして十分に才能があるように思える。


(やっぱり一次選考に残った人たちは、みんな凄いな……ん? あれ? やっぱり、今日はマシロ君はこないのか?)


 今日の春木田マシロは所要により欠席、という噂があった。

 噂通り彼は姿を現してこないのだ。


(アイフェスの収録を欠席か……)


 本来ならアイフェスでは参加者は、毎回の収録を欠席できない契約。

 だが彼は主催のエンペラー・エンターテインメントの所属で、最初からVIP扱い。たぶん彼だけ歌は別撮りになるのだろう。


(マシロ君の歌を聞けなかったのは残念だけど……これで他の参加者の歌のデータは、だいたい取れたかな?)


 男性陣三十人のうちの三分の二以上のデータは入手できた。

 頭の中でデータを整理しながら、“自分が取るべき行動”をオレは模索していく。


 なぜなら今回の参加者の中で、オレは最底辺な能力のアイドル。

 普通に戦ってもサバイバル・オーディションに勝ち目はないからだ。


(たしか……今回の第二次選考で残るのは『男子は三十人中、たしか十五人』なはず……)


 だがオレにしかない武器もある。

 それは“前世のアイフェスの歴史を知っている”こと。


(それならこの中で十四位か十五位を目指しいこう!)


 つまり逆算して、合格ラインを割り出すことが可能。

 自分の歌の立ち位置を調整していくことで、第二次選考に残る可能性を1%でも高めることが出来るのだ。


「……えーと、それでは、次のグループは……」


 そんなことを考えていると、最終グループにいたオレの出番となる。

 歌トレーナーの前に進んで、オレもボイストレーニングを開始していく。


(いよいよ自分の番か……たしか、この時代の流行りの歌と声は……)


 更にオレは今後の流行る歴史も知っている。

 つまり総合プロデューサーが求めるモノを、先取りできるのだ。


(あと、今回の参加者に足りない声は、たぶん……)


 この時代の男性アイドルは、グループが主流。

 グループ内には同じ声質のメンバーでは、歌もメリハリのない歌となってしまう。


 そのため歌も色んな声質と特徴がある者が、グループ内には必要とされていた。


(ということは、第二次選考に残りそうな主役系の声を……彼ら主役を“サポート”できる声質と歌い方を、オレが意識していけばいいのか⁉)


 だからオレは自分の声質と歌と、サポート特化して調整して歌っていく。

 幼い頃から歌も自主練してきたから、ある程度の調整はできるのだ。


(ふう……なんとか終わったぞ。反応はどうかな?)


 無事に自分の歌レッスンが終わる。


 ボイストレーナーとスタッフの会話を、オレはこっそり盗み見てみる。

 彼らは『最後のあの子の声は……使えそうですね……』みたいな会話をしていた。


(あの感じなのかなら、作戦は上手くいったようだな)


 今回の“サポート特化の作戦”は上手くいきそうなスタッフ反応。

 今週の歌のレッスンでは“サポート特化”を続けていけば、実力が劣るオレでもなんとか十五位を目指せるかもしれない。


「……えーと、少し早いですが、歌のレッスン休憩に入ります」


 男子の歌の午前レッスンの時間が終了となる。


 ホテル本館の昼食会場に、男子組は休憩に向かっていくのであった。


 ◇


 だが昼食会場とは別の部屋に、オレは走っていく。


(今から急げば、たぶんギリギリ間に合うぞ!)


 オレが向かっていたのは、女性陣が歌のレッスンを受けている会場。


 女性陣のレッスン部屋の場所と、彼女たちの午前のスケジュール内容は、こっそりスタッフの会話から読唇術入手していた。


(三人とも、どんな感じだろう⁉)


 どうしても知り合いの三人の歌の評価が気になって、オレは別行動をしていたのだ。


(あ、あそこだ!)


 ギリギリのタイミングで、会場の裏口に到着。ホテルのスタッフが出入りする場所。


 ここなら隠密モードで、こっそりと中を見学できそうだ。


(ん? あれは……あの感じだと、ちょうど三人の番だな)


 知り合いの三人、鈴原アヤネと大空チセ、加賀美エリカが整列し始める。ナイスタイミングだ。


(しかも、これから三人の歌レッスンっぽいな? これは運がいいな……)


 アイフェスでは歌トレーナーからの個人レッスンもある。

 つまり彼女たち三人の個人の歌語を、オレは聞くことができるのだ。


(あっ……最初はエリカさんか。ん? でも、エリカさん、いつもと雰囲気が違うぞ⁉)


 いつもの彼女は《美女王ビューティー・クイーン》の二つ名あるように、常に自信に満ちたオーラを発していた。


「…………」


 だが今の彼女はオーラが消失。いつもの女王様口調もなく無言で、どこか自信なさげなのだ。


(『歌に自信がない』って言っていたけど、あそこまで別人みたいになっちゃうものなのか⁉)


 まるで借りてきた猫のように大人しい加賀美エリカの様子。見間違いかと、自分の目をこすってみる。


 でも、何度見直しても、あそこにいる“自信なさげな少女”は、加賀美エリカで間違いない。


(あっ……エリカさんが歌い出すぞ……ん? この雰囲気は?)


 彼女が歌おうとした時、急にレッスン場がざわつき始める。


「……ねぇ、さっきから変だと思っていたんだけど、加賀美エリカ様の歌って……?

「……ええ、やっぱり、アンタも気が付いてた? 彼女だけ、なんか変だったよね?」

「……もしかして加賀美エリカって……?」


 エリカさんがソロ歌で歌い出す前に、他の女性参加者たちが違和感を口にし出したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しく読ませていただいています。 次の話も期待しております。 応援しています!!(*^▽^*)
[一言] エリカ様の歌唱力他成長させてガチ惚れさせてみよう(๑・̑◡・̑๑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ