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第55話:次なるお題

 アイフェスの一次選考の発表後。

 デマが原因で合格者が危険な雰囲気になってしまう。


 そんな中、数人の男性がオレのところに駆け寄ってきた。


「ライタ! 通過おめでとう!」

「やったな、ライタ!」

「さすがだな!」


 やってきたのは三人の参加者。

 今朝、誤解があって“撮影前のウォーミングアップ運動”をした三人だ。


「み、みんな⁉ ありがとう! でも、ここに残っているということは、皆も通過したんだよね⁉ おめでとう!」


 今朝の一件があってから、彼らとは急激に距離が近くなっていた。

 所属事務所は違うけど、仲間よくなった三人も合格できたことは、オレ的にも本当に嬉しいことだ。


 でも、どうして、このタイミングで三人は駆け寄ってきたのだろうか?


「……周りの声に負けるなよ、ライタ!」

「……なんかあったら、オレたちが守ってやるからな!」

「……次はオレたちがライタに恩返しをする番だ!」


 なんと三人はオレの身を案じてくれて、駆け付けてくれたのだ。

 デマによって向けられる、ヘイトや負の視線に負けるな、頼もしい言葉を言ってきた。


 孤立しそうになっていたオレを、かばうように三人は周りをガードしてくれたのだ。


「みんな……ありがとう……うん、オレ、負けないから! 安心して!」


 孤立やヘイトに慣れてとはいえ、彼らの心づかいは本当に嬉しい。


 ざわ……ざわ……ざわ……


 しかも彼らが集まってくれたおかげで、先ほどの変な雰囲気が緩和されていた。

 この雰囲気だと、デマで突撃されて、表立った事件は起きなそうだ。


 三人とも、本当にありがとう。


「でも、ライタくらいに強い奴には、オレたちのサポートは必要ないかもな?」

「ああ、そうかもな? 何しろヤバイ屁理屈で、敵に塩を送ってくる、規格外のヤツだからな!」

「まったく……もしかしたらオレたちは、ヤバイ奴に絡んでいるのかもな?」


「ええ、急に手のひら返ししてきた⁉」


 持ち上げてから、いきなり落としてきたらビックリした。

 でも、すぐに彼らなりの冗談だと、気が付く。


「そ、そんなこと言わずに、仲良くいこうよ? ほら、昨日の敵は今日の友、っていうじゃん?」


 だからオレも冗談で返す。


(『昨日の敵は今日の友』で、『今日の友は明日の敵』……の世界か)


 明日からオレたちサバイバル参加者は、また互いに蹴落とす関係となってしまう。

 だが全力で戦う相手には、時には仲間以上の敬意が生まれる。


「「「あっはっはっ……」」」


 だから、こうして冗談を言い合って、笑い合えることも可能。

 本当の友人とは、全力を出し合った相手にしか、生まれない関係なのかもしれない。


(本当に熱くて、ありがたい人たちだな……よし、明日から、また頑張っていこう!)


 こうして新たなアイドル同志を手に入れて、オレは更に狭き門である第二次選考に挑んでいくのであった。


 ◇


 ◇


 一次選考の翌朝となる。


「よし、今日も一日頑張っていこう!」


 今日も撮影日。

 撮影場所であるリゾートホテルに、オレは今日も朝一に到着する。


「ライタ君! チセちゃん! 今週も頑張るのよ!」


 ドライバー兼マネージャーのミサエさんに盛大に送り出される。

 ミサエさんの声援を戦火に受けて、二人で集合場所に向かう。


「ミサエさん、本当に喜んでくれていますね、ライタ君」


「うん、そうだよね。何しろビンジー芸能から、二人も通過者がでたからね」


 アイフェスは大手芸能の《エンペラー・エンターテインメント》が主催するイベント番組。例年の通過者は“大人の事情”で選ばれていく側面があった。


 だから今回、弱小事務所から二人も一次通過できたことは、異例中の異例。ミサエさんはあそこまで興奮しているのも無理はないのだ。


「でも『ライタ君は通過する』って、私は信じていました。だって、ライタ君は本当に凄い人なので!」


「えっ? そうかな? それを言うなら『チーちゃんの方が絶対に合格できる』って、オレは信じていたよ! だって、チーちゃんは“大空チセ”だからね!」


 大空チセは前世のトップアイドルとなった少女。

 今世では“弱小事務所に所属”というマイナス補正を受けているが、本来の彼女の実力は決して色あせることはないからだ。


「ラ、ライタ君に、また、そんなに褒められたら、私……」


 ん?

 なぜかチーちゃんは顔を真っ赤にして照れている。

 もしかしたら熱でもあるのだろうか?


(チーちゃん、大丈夫かな? ん? あれ?)


 そんな時、背後から近づいてくる気配に気が付く。


「――――ちょ、ちょっと、そこのお二人さん! 朝から道の真ん中でイチャ……じゃくて、占領しないでくださいますか⁉」


 ダッシュで駆け寄ってきたのは長身の女性、加賀美エリカ。

 オレとチーちゃんの間に、物凄い剣幕で割って入ってきた。


「あっ、エリカさん、おはよう! 今週もよろしくね!」


「お、おはようですわ、市井……ライタ。仕方がないから、今週も面倒をみてあげてもよろしくてよ。そうね、また今週もランチ会を一緒にしてあげても、いいですわ!」


 なぜかエリカさんも顔を少し赤くしている。今日は暑くなるのかな?


「ランチ会……か。また四人でランチ会は賑やかになりそうだね」


 でも彼女が一緒にランチ会をしてくれるのは、オレ的には有りがたい。


 理由としてはランチ会では、チーちゃんの側にエリカさんがいるから。

 弱小事務所であるチーちゃんも、女性陣の中では浮いた存在。

 でもエリカさんが側にいることで、イジメの標的になりにくくなるのだ。


「オレの知り合いはみんな残ったし、今週も楽しくなりそうだな」


「本当ですね、ライタ君。あっ、でも……この第二週は、どんなレッスンや選考があるのかな……?」


 チーちゃんが歩きながら不安がるもの、無理はない。アイフェスは基本的に毎年スケジュールが変わるからだ。


「えーと、たしか第二週は、“歌のレッスン”があるはずだよ?」


 この年のアイフェスの第二週が“歌”なことは、前世の歴史で確定している。


「……って、スタッフの人が立ち話しているのを、聞いた人がいたみたいだよ、たしか」


 このことがオレだけは知っている事実。誤魔化しながら二人に伝えていく。


「歌ですか……自信はあまりないですが、ライタ君に追いつくために、頑張ります!」


 こう本人は謙虚に言っているが、前世でトップアイドルとなったチーちゃんは、最終的に歌のレベルもかなり高くなる予定。


 現時点では歌レベルはそれほど高くはないかもしれないが、このモチベーションの高さなら不安はないだろう。


 おそらく第二選考も上手くいけば、通過できるに違いない。


(歌か……オレも苦手じゃないけど、またなんとか上手く立ち回っていくしかないな……)


 歌も幼い時から、毎日何年も自主練してきた。

 家族以外の前では歌ったことはないから、自分のレベルは分からない。

 とにかくダンスと同じようイン最初は様子をみながら、調整していく予定だ。


(あと、たしかアヤッチも歌は上手いはずだから……女性陣の三人は、また安泰かな?)


 未来の大空チセと鈴原アヤネの歌を聞いたことがあるので、今回は心配なさそうだ。


 これでオレの知っている女性陣は全員、第二次選考にも通過できそうかな?


「……う、う、歌ですって⁉」


 だが残る一人の女性、加賀美エリカが変な声をあげる何やら歌に対して過剰反応をしていた。


「えっ……エリカさん? どうしたの?」


「わ、わたくし……歌だけは、どうしても自信がないのですわ……」


「ええ――――そ、そうだったの⁉」


 完璧美人だと思われていた加賀美エリカ。

 こうして彼女が唯一苦手とする歌のレッスン強化週間に、オレたちは突入していくのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] エリカ様、大丈夫。 ダンスがヘタでもリズム感無くても 歌が凄く個性的でも何万人の中から 選ばれてアイドルになった方いますから。
[一言] エリカさん、がんばって!
[一言] エリカ様頑張ってくださいね٩( 'ω' )و
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