第51話:三人三色の個性
《アイドル・サマー・シャッフル・フェスティバル》のスタート。
鈴原アヤネと大空チセ、加賀美エリカの三人が、同じグループでダンスレッスンする現場に遭遇した。
(おおおお⁉ あの三人……アイドルとしてダンスするとは……)
三人とも個性は違うは、アイドルとして間違いなくトップクラスの素質がある。
だが前世の三人は、それぞれが違う道を歩み、同じステージにアイドルをして立っていたことはない。
(いったい、どういう感じになるんだ、これは⁉)
つまり今回は夢の共演であり、世紀のダンス対決となる。
アイドル・オタクとして、これ以上に興奮するシチュエーションはないのだ。
そんな興奮状態で観察している中、ダンスレッスンはスタートしていく。
(おお……まずはチーちゃんが頑張っているな! さすがは将来のトップ・アイドル確定の子だ!)
前世でオレが生きていた時点で、チーちゃんこと大空チセはトップ・アイドルに到達していた。
そのため今世でも見事なダンスを披露している。
改めて彼女の現時点での能力を測ってみる。
――――◇――――
《大空チセ(高校一年夏)》
ダンス技術:C-
歌唱技術:C-(オーディションで聞いた当時の能力)
表現力:B
ビジュアル:B
アピール力:A
天性のスター度:A
☆総合力:B+
称号:《前世ではトップ・アイドルになった少女》
固有能力:《アイドル・イメージング》、《プチ覚醒》
――――◇――――
彼女の能力はこんな感じだった。
(さすがはチーちゃん……王道派のアイドルって感じの能力値だな……)
チーちゃん現在は高校一年生の夏ということもあり、まだ“ダンス技術”や“表現力”で足りない分もある。
だが“スター性”や“アピール力”などは、早くも前世に近い高水準にあった。
あと、固有能力の《アイドル・イメージング》と《プチ覚醒》は、前回のファッションショーの時に発覚した彼女の能力。
《アイドル・イメージング》はアイドルとしての彼女の能力を高めてくれる力だ。
《プチ覚醒》と合わせたら、かなり強力な固有能力。
だが今の未熟な彼女では《プチ覚醒》はリスクも高いので、軽々しくは発動できない能力だ。
(色々制限はあるけど、さすが“あの大空チセ”だな。きっとビンジー芸能に入ってからも、地道に練習していたんだろうな……)
入所オーディションの時、彼女のダンス技術はそれほど高くはなかった。だが今は短期間ではあり得ないほど向上をしている。
おそらくは事務所のレッスンと家での自主練を、一日も欠かしていなかったのだろう。見ているだけは努力が見える。
(チーちゃん……本当にすごい子だな、こうして見ると……)
同じ事務所の同期として、芸能科の同級生として彼女の努力の跡は、オレにとっては尊敬の対象でしかない。
(さすがチーちゃんだな……ん⁉ あっちは……エリカさん⁉)
次に目が奪われたのは加賀美エリカだった。
(エリカさんも……凄いな。本業がモデルとは思えないぞ………)
加賀美エリカは若手トップモデルだった。
だがオレと共演したファッションショーの後に、なぜか突然アイドルにも挑戦したのだ。
(アイドルに挑戦してから、まだ間もないはずなのに、凄いな……)
彼女のダンスを観察しながら、アイドルとしての評価をしてみる。
――――◇――――
《加賀美エリカ》※アイドルとして
ダンス技術:B
歌唱技術:?(歌はまだ聞いてないから不明)
表現力:A-
ビジュアル:A-(アイドルとして)
アピール力:B
天性のスター度:A-
☆アイドル総合力:A-
称号:《六英傑》、《美女王》
固有能力:《自己美麗》※アイドルしてはまだ完璧に発動できない
――――◇――――
彼女の評価は予想以上に高かった。
モデルとしての総合力も高かったが、アイドルとしての総合もかなり高いのだ。
(エリカさんは見た目的に、クール系でお姉さんタイプなアイドルかな)
彼女はモデルとしてのスタイルが良く、“ビジュアル”もアイドルとして合っていた。チーちゃんとは違うタイプのアイドルだ。
(それにしても、エリカさんのダンスは見事だな……)
ルックス以外で彼女の特筆すべき点は、アイドル・ダンス技術の高さ。高い体幹と身体能力を使って踊っているのだ。
(ん? それにしても、アイドル・ダンスが、やけに似合っているな?)
アイドル・ダンスは運動神経だけは会得できないもの。長年の経験がなければ、あそこまで精度を高めていけないのだ。
つまりエリカさんはアイドル・ダンスの鍛錬を、どこかで積んできたのだろう。
(ん? でもトップモデルのエリカさんが、アイドル・ダンスの鍛錬を? どういうことだ?)
普通の芸能事務所では、売れっ子モデルにアイドル・ダンスのレッスンなどさせない。
特にブランドを大事にする《エンペラー・エンターテインメント》ならなおさらなこと。
(ということは、彼女は人知れずアイドル・ダンスの自主練をしてきた、のかな? ん? どうして?)
あの高飛車系のエリカ様が、家でアイドル・ダンスの自主練をする。あまりにもイメージが違うので混乱してしまう。
(まぁ……よく理由は分からなけど、エリカさんも凄い努力の人なことは理解できた。あと足りないのは……“アイドルらしさ”かな? もっとアイドルに染まって、彼女の《自己美麗》もアイドル応用できて、もっとすごくなるはずだ!)
加賀美エリカの固有能力の《自己美麗》は『献身的に服や他のモノを輝かせる』能力。
承認欲求が強そうな女王様的な彼女だが、実は他を輝かせる隠れた能力があるのだ。
だがアイドルに挑戦して間もない彼女は、まだ《自己美麗》をアイドルとして発動できていない。
だが彼女が完璧に発動できたらどうなるのだろう?
想像しただけ興奮してしまう。
(さすがは《六英傑》の一人だな……ん⁉ あっちは……アヤッチ⁉)
次に目が奪われたのは、アヤッチこと鈴原アヤネ。
今までの二人とは違うオーラを、彼女は発しながらダンスしていたのだ。
(プライベートじゃない、アヤッチ……か)
プライベートの鈴原アヤネは、自分の感情をあまり表に出さない少女だ。
A組での口数は少なく、他の六英傑や取り巻きと一緒にいる時も、彼女は相づちするだけの静かな感じ。
(相変わらずダンスをしている時、アイドルしている時は“変わる”な……)
だがアイドルとして活動している時の彼女は、まるで別人のように豹変する。
無表情なところは同じだが、雰囲気が一変。アイドルとして全身から輝きを発するのだ。
彼女のダンスを観察しながら、アイドルとしての評価をしてみる。
――――◇――――
《鈴原アヤネ(高校一年生夏)》
ダンス技術:C+
歌唱技術:?(歌はまだ聞いてないから不明)
表現力:C-
ビジュアル:B+
アピール力:C-
天性のスター度:AA
☆総合力:B- ~ A
称号:《六英傑》、《超新星》
固有能力:???
――――◇――――
アヤッチの現時点の能力はこんな感じだった。
(うっ……相変わらず“凄い項目”があるな……)
彼女の能力の中で、ダントツに飛びぬけているのは“天性のスター度”
“Aプラス”の更に上である“AA”なのだ。
この数値は、今世でオレが会ったことがある人物の中でも最高値。
あの春木田マシロですらA評価で、三菱ハヤト君のA-評価だった。
その二人すらも、彼女は軽く超えているのだ。
(でも、他の能力が釣り合っていないから、相変わらずアンバランスな能力値だな……)
アヤッチは“天性のスター度”に比べて、表現力とアピールが極端に低い。
これだけ他の能力を格差があるのも、オレが会った中では彼女だけだ。
(アンバランスさ、か。だから前世でもアヤッチは……)
どんなに“天性のスター度”が高くても、それを表現したり、アピールする能力がなければ意味がない。
そのため前世の彼女はアイドル業界で埋もれ、なかなか才能を見いだされなかった。
歴史が証明するように、アヤッチはマイナーデビューから数年もかかり、ようやくメジャーデビューが決まった、不遇のアイドルなのだ。
(でも、そんな不遇でも一生懸命だったから、オレも彼女に魅かれて、生きる希望を貰ったんだよな……)
前世のオレは高校二年生の不幸な交通事故によって、自分の右足と家族全員を一瞬で失い、人生のどん底に落ちた。
そんな生きる屍状態のオレを救ってくれたのは、偶然ネットで見かけたアヤッチの姿。
不遇でも一生懸命に活動する彼女の姿を見て、オレは一瞬で陥落。
その後はアイドル・オタクをしていくことをモチベーションにして、社会人まで社会復帰することができたのだ。
(うっ……涙が……)
不遇で不幸な前世を思い出していたら、思わず涙がこぼれ落ちてしまう。
どうしても前世のアヤッチのことになると、涙腺が弱くなってしまうのだ。
でも不審者に思われないように、急いで涙を拭いて気持ちを切り替えないと。
(ふう……相変わらずアヤッチはアンバランスな能力で不遇……でも、今世の状況だと上手くいきそうだよな?)
前世の彼女は業界最底辺のビンジー芸能に所属して、なかなか陽を浴びることが出来なった。
だが今世では業界最大の《エンペラー・エンターテインメント》に所属している。
そのため彼女はアイドルとして成功していくことは約束されているのだ。
(でも……それにしても、どうしてアヤッチの歴史が変わっていたんだろう? まっ、考えても仕方がない……か)
どうして彼女の歴史だけ変わっているか、未だに謎。
だが彼女にとっては良いことだらけの現状。あまり気にしないでおくことにした。
「……えーと、それでは……」
そんなことを考えていると、会場内のスタッフが声を上げる。
女子組もダンスレッスンが終了となったのだ。
つまりアヤッチたちが最後の組だったのだろう。
(ん? あっ、ヤバイ! こっちに来るぞ⁉ 急いで退避しないと!)
今のオレは隠密モードで観察している身。
だが他人からは『ドアの隙間から覗いているオタクっぽい変質者』にしか見えない。
誰かに目撃されてはまずいの、ダッシュで現場を離脱。
とりあえずは昼食会場に向かうことにした。
(ふう……危なかった。それにしても、さっきの三人とも、本当に輝いていたな……)
昼食会場に移動しながら、先ほどの光景を思い返していく。
アイドルとして頑張る少女の姿は、オレにとって何よりも大事な宝物なのだ。
先ほどの光景を、何度も脳内でリピーター再生していく。
(うん……やっぱりいいな。今回の女性陣の中だと、あの三人が飛びぬけている感じかな?)
パッと見た感じの評価。
男性陣と同じように、女性陣も大きく分けて上位と、下位&中位の二つのレベルに別れていた。
そんな混戦状態の女子50人の中でも、三人の総合力は飛びぬけていたのだ。
(たぶん、あの三人は最終選考までは残りそうだな……ああ、でも。チーちゃんだけはギリギリかな?)
エンペラー・エンターテインメントに属するアヤッチとエリカさんに対して、チーちゃんは弱小事務所の所属。
そのため実力があっても、オーディション系は残れない危険性もあるのだ。
(まぁ、それでも今世のチーちゃんの総合力は高いから、なんとか残れるはずだ! 何しろ、さっきは三人とも凄く輝いていたからな。あれを見逃すようじゃ総合プロデューサーは失格だ! って抗議してやる! ん? ここはどこだ?)
そんな個人的なことを勝手に妄想していたら、知らない場所に到達していた。
「ここは……あっ、また道を間違えて、遠まわりしていたのか、オレは⁉」
いつの間にかホテル館内をグルグル回っていた。かなりの無駄な遠回りをしていたのだ。
「やばい! 早くしないと、ランチ時間がなくなっちゃうぞ!」
急いで昼食会場に向かう。
何しろ今回のランチは食べ放題のバイキング・ビュッフェ形式。
食いしん坊……じゃなくて、成長期のオレは沢山食べないといけないのだ。
「あっ、昼食会場だ!」
遠回りをしたが、ようやく会場に到着。
今回の参加者専用にセッティングした大広間だ。
「えーと、男性陣は、もうコーヒータイムに入っているのか」
先に移動していた男性アイドルたちは、既に昼食を済ませていた。
男子でまだ食べていないのは、オレ一人だけだろう。
仕方がないので、一人でランチすることにした。
大皿いっぱいに料理を盛り付けて、会場の端に座る。
うん、ここならゆっくり食べられそうだ。
「いただきます! ん? 女性陣も、来たのか?」
オレに少し遅れて、女性陣が昼食会場に入ってきた。
先ほどダンスレッスンが終わった彼女たちは、これから昼食なのだろう。
ざわ……ざわ……ざわ……
急に会場がざわつき始める。
華々しい女性陣が五十人に、男性陣が反応しているのだ。
「……おい、見ろよ……」
「……あの子は……」
「……実はあの子、前から狙っているんだよな、オレも……」
「……今回の番組は、当たりだな、やっぱり……」
彼らはアイドルとはいえ高校生年代の男子。同年代の女子に興味がありまくりなのだろう。
だから女性陣の入場に、昼食会場がざわついているのだ。
「……なぁ、一緒に座って、話をしようぜ?」
「……ええ、しょうがないなー」
「……料理を取ってきましょうか?」
「……うん、ありがとう♪」
同じく女性陣も興味がある同年代。
前から顔見知りある何人かは、一緒のテーブルで昼食をとりはじめる。
がやがや……キャッキャッ……
気が付くと、まるでランチ合コンのような光景になっていた。
そんな状況でも、スタッフも注意する素振りはない。
あくまでも“出演者同士の適度なコミュニケーション”として、大人たちは見過ごしているのだろう。
「ランチ会、か。まっ、オレには関係ないから、とりあえず食べることに集中だ!」
オタク系アイドルにランチ合コンなど無関係。
会場のキャピキャピした光景をよそ目に、オレは端でひたすら食べていく。
「もぐもぐ……ん? あれ?」
だが、そんなオレに近づいてくる気配がある。
なんと、三人の女性がやってきたのだ。
「あっ、ライライ、だ」
「ライタ君! 一緒に、ご、ご飯を食べませんか⁉」
「市井ライタ……仕方がないですわね!」
いきなりやってきたのは、先ほど見事なダンスを披露していたアヤッチとチーちゃん、加賀美エリカの三人。
三人ともバラバラでここに来たけど、偶然同じタイミングでオレに相席を申し出てきたのだ。
「へ……オレが女子三人と、ランチを?」
こうして三人の美少女に囲まれて、オレはランチをすることになった。




