表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/88

第45話:曲のインスピレーション

『トウキョー・ガールズ&ボーイズ・コレクション』が閉幕してから、日が経つ。


 オレは今日も芸能科のA組で、平和な一日を過ごしていた。


「ふむふむ……なるほど……」


 授業中は真面目に授業に参加……しているフリをしながら、タレントしてのイメージ・トレーニングをしていく。


(ふう……よし、今度は、このイメージを!)


 先日、ファッションショーの経験も糧にして、“新しい表現の扉”を開けるトレーニングを、最近は特に取り組んでいた。


 ちなみ前世の記憶があるから、今世では授業内容は聞かなくても大丈夫。成績も悪くはないだろう。


 キンコーン♪ カンコーン♪


 あと、休み時間は、陰キャモードを発動して退避。

 《六英傑》とクラスメイトとは接触しないようにしていた。


 本当はアヤッチと仲良くなりたいが、取り巻き軍団がいつも邪魔をしてくる。

 仲良くなるためには、また同じ仕事場になる必要がありそう。次の作戦を模索していかないとな。


 ――――こんな感じで、オレのA組での毎日は順調な感じに進んでいく。


 ◇


 キンコーン♪ カンコーン♪


 授業の終了の鐘が鳴る。

 帰りのホームルームを終えて、生徒は帰宅の時間だ。


「みなさん、お先に失礼します!」


 A組はホームルーム時間が少し長引いてしまった。

 オレは終了と同時に、ダッシュでA組を脱出。


 なぜなら今日は大事な用事があるからだ。


「おはようございます!」


 普通科棟にあるアイドル研究会の部室に、ダッシュで入っていく。

 今日は放課後の部活動がある日なのだ。


「あっ、ウタコ部長おはようございます!」


「うむ、おはよう」


 部室内に先にいたのはウタコ部長。

 眼鏡をかけた二年の女生徒で、アイドル研究部の部長だ。


「相変わらず、同志ライタは元気だな?」


「あっはっは……すみません、今日の部活動が楽しみで仕方がなかったので!」


 部長はアイドル愛好家の仲間であり、“同志”と呼んでくるちょっと変わった人だ。


「その気持ちは分からなくないではない。吾輩も同じだからな」


 部長はかなり厨二病的な感じで、俗にいう残念美人さんだ。


「そうですよね! 部活動の日は、本当に楽しみですよね!」


 オレが部活動できるのは、週に二、三回くらいだけ。他の日は事務所で自主トレーニングを行うからだ。


 そのため数少ない部活動のできる日は、楽しみで仕方がないのだ。


「そういえば、同志ライタはもう耳にしたか? 《エンペラー・エンターテインメント》のモデル加賀美エリカが、アイドル芸能部にも参加することを?」


「あっ、はい。昼休み時間にユウジから聞きました! あのエリカさんがアイドル活動もするなんて、本当にビックリしました……」


「そうか、貴殿は一年A組で同じクラスだったな。個人的に《エンペラー・エンターテインメント》はあまり好きではないが、アイドル部門にも力を入れるなら、今後は括目していくしかないな」


「そうですね。アイドル業界が盛り上がるなら、事務所の好き嫌いは、もったいないですよね!」



 アイドル研究部の活動は、特に細かく決まっていない。

 こうして部員同士でアイドル談義をするだけでも、立派な活動になるのだ。


「あと、同志ライタは、この新しいアイドルグループもの情報知っているか? 地方発だが、かなり将来有望だぞ?」


「ええ⁉ 見せてください⁉ おお、これは個性的で、可愛い! これは楽しみですね!」



 部室には高速ネットに繋がったパソコンや、各種アイドル誌が常備されている。

 アイドルオタクであるオレにとって、まさに夢のような空間なのだ。



「おはようございます、部長、ライタ君!」


「あっ、チーちゃん、おはよう!」


 少し遅れて、チーちゃんこと大空チセも部室に入ってくる。

 今日は彼女も部活動に参加できる日なのだ。


 ちなみに今はもう午後だけど、みんなの挨拶が『おはよう』なのは訳がある。

 オレが思わず使っていたら、アイドル研究部のみんなも使うようになったのだ。


「あの……部長。先日の件ですが、この衣装のラフ画を、もう一回、見てもらっていいですか?」


 チーちゃんはスケッチブックを取り出し、部長に確認してもらう。

 なにやら彼女が自分で描いたような、アイドルのステージ衣装だ。


「もちろん、何度でも構わないぞ。どれどれ……ふむ。このスカートの部分は、もう少し、こんな感じでもいいのは?」


「ああ、なるほど! すごく可愛くなりました! ありがとうございます、部長!」


 部長はスケッチに追加で、サラサラと描いていく。

 遠目のオレから見ても、まるでプロのような作画能力だ。


「ウタコ部長、めちゃくちゃ絵が上手くないですか⁉ どうして、そんなに上手いんですか⁉ プロみたいじゃないですか⁉」


 あまりの上手さに思わず口を挟んでしまう。


「ふむ、この程度の作画能力など、(いにしえ)のオタク女子には必須のスキルだからな。特に吾輩には、歳上の漫画好きな姉がいたからのう」


 なるほど、女子の世界はそういうものなのか。

 あと部長にはお姉さんがいたのは初耳だ。いったいどういう人だろう。


「お前たちはアイドルオタクのくせに、アイドルの二次創作を履修してこなかったのか?」


「二次創作ですか……オレは、絵とか文章は苦手なので、もっぱら観る専です」


 アイドルオタクには色んな嗜好で楽しむ人がいる。オレは二次創作には触れずに生きていきた派だ。


「わ、私も絵は苦手です。でも“アイドルの二次創作”って、どういう意味ですか、部長?」


「ふむ、チセ嬢は興味があるのか? それなら吾輩の秘伝のBL本を、今度貸してしんぜよう」


「ん? びーえる本……?」


 チーちゃんは首を傾げている。初めて聞く単語なのだろう。


「ああ――――部長! チーちゃんは、本物のアイドルなんで、そんなことを教えないでください!」


 オレは慌てて二人の間に立ちはだかる。

 天使のようなアイドルになるチーちゃんを、危険な沼に触らせる訳にはいかないのだ。


「ああ、これは失言だったな。たしかにチセ嬢には、まだ早かったかもな。はっはっは……」


 ウタコ部長は笑ってごまかしている。


 ふう……危なったか。


 それに部長は腐女子な一面もあったのか。

 オレは個人の趣味に関して口は挟まないが、チーちゃんに関しては別。今後も要注意しておかないと。


「ふう……あれ? そういえば、そのスケッチブックって、チーちゃん、もしかして?」


「はい! 実はアイドルと本格的に動き出すので、ミサエさんから衣装の案を出すように言われていたんです!」


「おお、やっぱり⁉ デビューか……それは凄い!」


 前世ではトップアイドルになった大空チセの、今世でのアイドル・デビュー。

 自分のことのように胸が熱くなってきた。


「でも、デビューといっても、まだ“マイナー・デビュー”の準備なだけで、そんなに凄くはないですよ、ライタ君」


 チーちゃん恥ずかしがって説明しているように、“マイナー・デビュー”と“メジャーデビュー”は大きく違う。


 この時代で一般的に言われている“メジャーデビュー”の定義は次のように感じ。


 ――――◇――――

 《アイドル・メジャーデビュー》とは


 ・専門プロデューサーが付いて、アーティストとしてのブランドがプロデュースされている。


 ・レコーディングなどの音楽原盤を自費ではなく、メーカーやプロダクションが制作をする。


 ・TV出演や店舗展開、配信、LIVEなど一般ユーザーが認知できるプロモーションがある。


 ・アーティストとしてCDや配信の売上で、関係者の収入源を確保されている。


 ――――◇――――


 この時代では、これらの要点が全て実行されて、はじめてメジャーデビューとされていた。


 弱小事務所に所属するチーちゃんは、今回はここまで大規模には準備されていない。

 つまり彼女は最初マイナー・デビューすることになったのだ。


「マイナーでも、デビューはデビューだよ! むしろ、楽しみだよ、オレ的には!」


 オレは基本的にメジャーもマイナーも区別しない派。

 むしろマイナーアイドルには夢が詰まっている分だけ、心がわくわくするのだ。


(いやー、今世ではチーちゃんは、どんな感じで最初はデビューするのかな⁉ グループかソロか? いやー、楽しみだな!)


 公式発表されていないことは、本人に聞かいないのが芸能科でのマナー。

 だから今回もオレは、あえて聞かずに見守ることにした。


 ギー、バタン。


 ……そんな話をしている時、部室の奥の扉が開く。誰かが入ってきた。


「ん? お前らも来とったんかい?」


 新たに部室に入ってきたのは金髪の友人ユウジ。


「あ、ユウジ、おはよう! そっちの部屋に先に来ていたんだね?」


 ユウジが出てきた扉、アイドル研究部の奥隣には、防音型の収録ルームがある。


「ああ、そうやな。今は新曲を練っている大事な時やからな!」


 ミュージシャンである彼は、先に部室に来て音楽活動をしていたという。

 もしかして時間的にD組のホームルームはサボったのかもしれない。自由なユウジらしい行動だ。


「大事な時期なんだね……ところで、そっちのスタジオの使い心地はどう?」


「ああ、最高やで! さすがは各専門家が残してくれたスタジオや!」


 アイドル研究部の隣には元放送室……OBと先輩たちがプロ仕様に魔改造したスタジオがある。


 オレたちが入部してからは、ミュージシャンのユウジが主に使う場所。

 彼は自分のパソコンや機器、楽器を持ち込んで、放課後に自分用のスタジオとして使っていたのだ。


「あの機材なら、ライタとチー嬢の歌も、かなり高水準で収録できるで。よかったら、一曲歌ってみるか?」


「うん、ありがとう。でもチーちゃんはともかく、オレは歌を収録する予定はないかな……」


 今のオレは俳優部門に所属しているから、歌を収録する仕事は基本的にない。

 まぁ……歌とダンスの自主トレーニングは、今でも家で一応はしているけど。


「そうなんやな? それじゃ、ワイは、ここで気分転換させらもうで。ふう……」


 いつもは明るいユウジが、急に深いため息をつく。

 何やら思いつめた表情だ。


「ん? どうしたの? もしかして、調子が悪いの?」


 防音スタジオから出てきた後の、この表情。音楽活動でも何かあったのだろか。


「まぁ、そんなことや。実は今、新曲を書いているんやけど、なんか、ピンとこんのや……」


「そうなんだ。シンガーソングライターも色々と大変なんだね」


 ユウジは自分で作詞作曲、ベースも弾いて歌うシンガーソングライターだ。


「ああ、そうやな。次の新曲の反響が良かったら、大手レーベルに入るチャンスなんやけどな……」


 “音楽レーベル”を簡単に説明するなら、音源の販売と管理、音源のプロモーションを行う会社だ。


 一方の“音楽事務所”は、アーティストのスケジュール管理、メディア系への売込みを行う会社のこと。


「そっか……なかなか音楽活動も難しんだね? ユウジのチャンネルは、順調そうなイメージだけど?」


「まぁ、今の音楽配信スタイルも悪くはないが、やっぱりミュージシャンは大手レーベルに所属してなんぼやからな」


 ユウジは中堅どころの芸能事務所に所属はしているが、音楽レーベルに関してはマイナー状態。


 主に自分のチャンネルで音楽を配信しているスタイルで、ステップアップのために新曲に力を入れていたのだ。


「そうだったんだね。ちなみに、次の曲はどんな感じなの?」


「一応は、こう感じのイメージや。ちょっとロックな感じで、いこうと思っておるんやけど……」


「へー、こんな感じで、作詞作曲しているんだね……」


 ユウジの書いた曲のイメージや歌詞を見て、オレは感心する。

 なるほど作詞作曲はこうして作る方法もあるんだ。


(壮大でロックな感じか……そういえば“アイ・プロ”のオープニングも、そんな感じだったな……)


 前世で見ていたアイドル・アニメを、ふと思い出す。

 あまり音楽には詳しくないが、あのアニメ第一期のオープニング曲がロック調だったのだ。


(“アイ・プロ”のOP……懐かしいな……神曲だったな、アレは……)


 懐かしみながら目を閉じて、思わず鼻歌で歌ってしまう。


 曲と作品のイメージが、本当にマッチしていた神曲だったのだ。


 しかも“アイ・プロ”はアニメ自体も一般市民に人気となった。

 最終的、アニメ曲として異例のレコード大賞も獲得、OP曲は国民的に大人気の曲になったのだ。


(ああ……やっぱり神曲だな……懐かしいな……)


 ……そんなことを思い出しながら、鼻歌を歌い終えた時だった。


「――――お、おい、ラ、ライタ⁉ 今の曲は⁉」


 歌い終えて目を開けると、ユウジが驚愕した顔で見ている。

 なんか“凄くインスピレーションを受けた顔”をしていた。


 いったいどうしたのだろうか?


「ライタ、今の曲は……アレは誰かの曲なのか⁉ それともお前のオリジナル曲⁉」


「えっ? えーと、これは……」


 “アイ・プロ”のアニメが放送されるのは、今から三年後の未来。

 つまり現時点では“存在していない曲”だ。


「まぁ……一応はオレのオリジナル曲かな、今は?」


 前世のことは誰も言えないので、オリジナル曲と誤魔化しておく。


 それにしても、どうしてユウジはここまで興奮しているのだろう?


「オリジナル曲やて⁉ それなら、ライタ、頼む! その曲にビビっきたんや! アレンジしたいから、ワイに曲を提供してくれんか⁉」


「え? 曲の提供⁉」


 まさかのお願いの驚いてしまう。

 いや、たしかに神曲だから、インスピレーションを受けるのはあり得るけど。


 でも、いくらアレンジするっていっても、著作権的に問題はないのかな?


 あっ……そのそも“現時点では存在していない曲”だから、著作権は発生しないのか、今回は。


「頼む、ライタ! 一生のお願いや! もちろん使用料金も払うから!」


「うーん、そんなに頼まれたら。まぁ、アレンジするなら自由に使っていいよ、ユウジ。あと、謝礼はいらないから」


 仕方がないからアレンジを許可する。

 あと、原曲のまま使うのは禁止しておく。三年後に“アイ・プロ”のOPが無くなると困るからだ。


「おおお! ほんまに、ありがとうな、ライタ! 恩にきるで! よし、アレンジを頑張るでぇええ!」


 そう熱く言い残し、ユウジは収録スタジオに飛び込んでいく。

 音楽家としてかなり大きなインスピレーションを、本当に受けたような感じ。あんな熱いユウジは初めてみた。


(ふう……どうアレンジされるのか、楽しみだな……)



 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 それから、しばらく日が経った“別の話”である。


 金髪の友人ユウジが、なんと大手音楽レーベルに所属することが決定したのだ。


 動画チャンネルでユウジの新曲がバズって、大注目を浴びてスカウトを受けたという。


「サンキューなライタ! お前のお蔭で、ワイにも道が開けたでぇえ! 作曲の印税も必ず払うからな!」


「ありがとう……? でも、ほら、オレは鼻歌を歌っただけで、ユウジもかなりアレンジしていから、ユウジの実力だよ、今回のことは……」


 そう……バズった曲は、オレが何気なく鼻歌を歌ったモノが原曲。


 でも前世の“アイ・プロ”大OPとは、かなりアレンジされているので、はっきと言って別物だ。


 あくまでインスピレーションを受けて作られたオリジナル曲なので、未来の著作権的には問題はないだろう。


(ふう……これからユウジの前では、鼻歌は歌わないようにしないとな……)


 でも著作権は怖いから、今後は気をつけていくことにした。


 ◇


 ◇


 ◇


 ――――だが、この時のオレは知らなかった。


「……ん? この天道ユウジというミュージシャンの新曲の、この感じは⁉ おお、これは凄い! 新しいインスピレーションが浮かんできたぞ!」


「……この人の曲は? まるで少し未来から来たような曲調は……!? よし、インスピレーションが浮かんできたぞ!」


「……おお、これは⁉」


 だが時にすでに遅し。


 オレは自分の知らぬところでユウジを介して、多くのミュージシャンに既に影響を与えていたことを。


 おかげで音楽業界の歴史が少し変わり、結果として多くの人の運命が幸せな方向へ向かっていたことを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まぁおもしろい [気になる点] ちょっとご都合解釈しすぎな気がする [一言] 更新頑張ってね
[良い点] ライ太によって多くの人の運命がいい方向に変わったのは、とてもいいことだと思います!こんな感じで、ライ太にはもっと多くの人を変えていってほしいですね! [一言] 初めて読むジャンルだったけど…
[気になる点] 作者様自身も書いているので理解はされてるようですが、曲の件って本来その曲を生み出したであろう人の未来を奪っているのでは…。 アレンジしたところで、本来の作曲者が○○のパクリだ!とか言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ