第17話:【閑話】ミュージシャン天道ユウジ視点
《ミュージシャン天道ユウジへのインタビュー》
ん?
今日はどんなインタビューやったっけ?
ああ、そうか。
市井ライタのことを聞きたいんか。
それなら話したる。
ワイとアイツの出会いについて。
ライタとの最初の出会いは、ワイたちが高校一年生の春や。
ワイのいた堀腰学園高等部の芸能科に、ライタは四月に転校してきた。
新しくやって来る転校生に、ワイは初日からワクワクしていた。
ん? 『どうして無名だった市井ライタのことを、転校前から知っていた?』やて?
情報通やったワイは数日前から、とある情報を仕入れていたんや。
『日本人で唯一、ハリウッドで認められた“あの豪徳寺ゼンジロウ”が立ち上げた、ビンジー芸能に、“男性俳優”として合格した新人がいる』という情報を!
『ここ10年間、男性俳優を一度も合格させてきなかった“あの豪徳寺ゼンジロウ”が、唯一合格させた新人が、堀腰学園芸能科に転校する』という情報を!
熱狂的な“豪徳寺ゼンジロウ信者”のワイは、この情報を注目せずにいられるかい⁉
ん……おっと、冷静なワイとしたことが、ついつい興奮してしもうたな。
どうしてもライタのことになると、ワイも興奮してしまうんな。
ふう……とにかくだ。
超期待の新人が転校してくる、ということで、当日は朝から胸を膨らませていた。
そして教室に入ってきた転校生、ライタは開口一番で挨拶をしてきた
『市井ライタと申します! 趣味は“映像鑑賞”です! みなさんよろしくお願いいたします』
はっはっは……まったく今思い出しても、あいつの自己紹介は、おもろかったな。ほんまに最高や。
ん? 『初対面での市井ライタの印象』やて?
うーん……そうやな。
正直なところ、クラス連中の評価は『中肉中背でスタイルは悪くはないが、前髪が長すぎるオタク君』って、いったところやな。
たぶんクラスメイトの大半は、そんなマイナスなイメージを持っていたはずや。
その中で唯一、ライタの才能の片鱗に勘付いていたのは、同じ才人のでワイくらいや。
あっ……あと、もう一人いたな。
ライタと同じ事務所に所属していた“チー嬢”だけや。
『チー嬢って、もしかして……?』そうや、あの天下のトップアイドルの大空チセや。
あの子も最初っからライタに向かって、大歓迎の拍手を送っていたな、そういえば。
まぁ……チー嬢の場合はライタの才能に勘付いた、というよりは、女ののとして別の感情だったかもな。
おっと、今のコメントはオフレコで頼むで。“芸能界の怖いオジさん”に怒られちまうからな。
さて、話を戻すで。
とにかくライタの演技を見たことはないが、初日からワイは注目していた。
昼食時、コンタクトに成功。友達になることに成功したんや。
でもライタに関しては、初日から不満もあった。
話をしてみて分かったが、あいつは何というか『欲がない男』やったんや。
具体的にいうなら『芸能界でのし上がっていく欲』というモノな無い奴やった。
これにはワイも内心で『勿体ない』と思っていた。
何しろどんなに才能がある奴でも、芸能界では欲がないと上にはいけない、からや。
たぶん奴には“上昇志向”や“承認欲求”、そういった普通の人間にある欲が、ないのかもしれんな。
『才能はあるが、芸能界ではのし上がっていけない』……それが初日でのライタの評価やった。
――――だが翌日、ワイの見積もりが甘かったことが証明される事件が起きる
転校二日目のライタは、少し様子がおかしかった。
朝から元気がなかった。
更に授業中と休み時間は、何やらノートに象形文字のような書き込みを、一心不乱にしていたんや。
それ見て、ああ、これは……“マズイ方向に堕ちたんか?”と悲観していた。
だが放課後になった瞬間やった。
いきなりワイを連れだして、情報を聞きだしたライタは、いきなり言い出したや!
『オレは最低でも一年以内に、A組昇格を目指したいんだ!』ってな。
これには当時のワイもさすがに度肝を抜かれた!
記者さんにも分かりやすく説明するなら『編集部に入社したての新人が、オレ一年以内で編集長になります!』って宣言するようなもんや。
どうや、普通じゃないやろ?
とにかく転校二日目でライタは、いきなり人が変わった。
そして翌週には早くもライタに、“とんでもないこと”をしでかしたんや!
『市井ライタという規格外な存在』によって、芸能界全体が大変革しようとしていた、奇跡の瞬間やったんや、あの時は!
ん?
おっと、すまんが、今日のインタビューはここまで。
ワイはこれから全米ツアーのミーティングがあるんや。
もっとライタの半生を聞きたかったら、記者さんも取材期間は最低でも一年は見積もっておいた方がいいで。
アイツに関わって人生が変わった奴は、芸能界でも軽く三桁はおるし、ライタの半生も波乱万丈すぎるからのう。
はっはっは……!




