第16話:新たなる決意
最推アイドルのアヤッチこと鈴原アヤネに、学園の廊下で同級生として遭遇する。
前世とは違い彼女は、大手芸能事務所に所属。今世では約束されて明るいアイドルの未来を約束されていた。
「このままだと『アヤッチはまた死んじゃう』……」
だが再会した日の夜、彼女が早死にする未来をオレは知ってしまう。
これは“予知夢”や“勘違い”などの精度の低いレベルではない。
逆行転生した時と同じ現象で、“今世の未来”を間違いなく見たのだ。
名づけるなら“未来夢”という現象だろう。
「ど、どういうことだ⁉ どうしてアヤッチが、また死ななきゃいけないんだ⁉」
布団から起きて、頭を抱えてしまう。寝起きということもあり、まだ頭が混乱したままなのだ。
ピッ、ピッ、ピッ♪
「あっ、もう、こんな時間⁉ が、学校に行かないと!」
不思議な未来夢を見ため、かなり寝坊をしてしまっていた。まだ混乱はしているが、とにかく朝の準備をして、通学電車に飛び乗ることにした。
(ふう……なんとか間に合った。あの夢は……どういうことだったんだ?)
電車に間に合ったこともあり、改めて深呼吸。今朝見た未来夢の内容を、頭の中で整理していく。
未来夢の内容は断片的だったが、次のような感じだった。
◇
・内容は今から一年間のこと。
・オレが予想した通り、鈴原アヤネは今世では順調なアイドル人生を歩んでいた。
・今から約二か月後、彼女は超大型新人アイドルユニットとしてデビューすることが、大々的に発表される。
・その後、TVやネットは彼女たちことが連日報道されていく。
・デビューシングルは発売直後に大ヒット。オリコンチャートをランクインしていき、街の有線でも連日のように流されていく人気ぶり。
・デビューから数ヶ月後、ユニットの武道館初ライブが決定。日時は彼女が高校一年生の三月だ。
・彼女たちアイドルユニットの人気はどんどん上昇していく。アヤッチはまさに夢のアイドル街道を爆走していた。
・これらの映像は、同じ学園に通っているオレ視点、第三視点で見られていた未来図だった。
◇
(そして未来夢の最後で……武道館初ライブの前日に、アヤッチは事故死してしまうんだ……)
未来夢の最後は、その悲壮な事件で終わってしまった。
彼女が死んだ事故の原因は不明だが、間違いなく鈴原アヤネは約一年後に死んでしまうのだ。
(どうして、アヤッチはまた死んじゃうんだ⁉ 歴史が変わっても、“彼女が死んでしまう”という運命は変わらないのか⁉)
歴史が変わり今世で、彼女は間違いなくアイドルとして幸せな環境にいる。
業界最大手の芸能事務所エンペラーに所属しており、六英傑の一人《超新星》として事務所からの後押しも完璧だ。
それでも死んでしまったら意味はない。
しかも前世と同じように“メジャーライブデビュー直前”に、彼女は謎の死を遂げてしまうのだ。
どうしてアヤッチは“メジャーライブデビュー直前”で、二度も事故死してしまうのか?
いくら考えても意味が理解できなかった。
(くそっ……どうしれば、彼女は……あっ、学校だ⁉)
気が付くと、自分の教室前に立っていた。未来夢に関して考えて歩いていたら、いつの間にか到着していたのだ。
やばい……急いで気持ちを切り替えないと。
「あっ、ライタ君⁉ お、おはようございます!」
そんな時、教室前で女生徒に声をかけられる。チーちゃんこと大空チセだ。
「き、昨日は一緒に事務所に行くって約束していたのに私、勝手に消えちゃってごめんね……」
「え? うん? あ、だ、大丈夫だよ、チーちゃん」
正直なところ未来夢のお蔭で、まだ心の整理はついていない。でも学園では平気なフリをしないと。
「……ん? ライタ君……なにか、ありました?」
だがチーちゃんは首を傾げている。何かに気が付き、オレのことを心配してきたのだ。
「えっ…えーと、ほら。今朝、寝坊して遅刻しそうになったから! あっはっはっは……」
他の人を心配させる訳にいかない。オレは精一杯のカラ元気で挨拶をする。
「ん? そうなの? 元気そうなら、良かったです」
なんとチーちゃんを誤魔化すことに成功。一緒に教室に入っていく。
「おっ、ライタ。おはようさん!」
席に着くと、金髪の友人ユウジが声をかけてくる。
こいつ、朝はこんなにテンションが高いのか。元気な奴だ。
「ん? ライタ……何かあったんか?」
ユウジも目を細めて心配してくる。また何か、察せられたのかもしれない。
「えーと、ほら、オレ、犬のフンを踏んじゃってさー、凹んじゃったんだー。あっ、もちろん、靴の裏は洗ってきたよ!」
「なんやて⁉ まったく、朝から美味しいやっちゃな、ライタは⁉」
「あっはっはっは……そうだね」
何とかユウジもカラ元気で誤魔化すことにできた。
それにしても元気がないことが、顔に出ているのかな?
未来夢のことがバレないように、今後は気を付けていかないとな。
気持ちを切り替えて、その後は授業を受けていくことにした。
授業と短い休み時間の繰り返し。
あっという間に午前中の時間が過ぎていく。
あっ、そういえば。
昨日と同じように、他のクラスメイトからの反応は薄い。
というか昨日以上に、クラスメイトからの反応は良くはない。
クラスメイトはオレに対して“無関心”的な感じなのだ。
おそらく“ランクF-”という最底辺の評価がオレに付けられたために、関わり合う相手ではない、と判断されたのだろう。
休み時間でもユウジとチーちゃん以外は話しかけてこない状況だ。
(さて……未来夢について、もう少し落ち着いて、考察していくか……)
だが今の俺にとって周りから変に干渉されないのは、逆に有りがたい状況だ。
授業中と休み時間を使い、今朝見た未来夢に関して改めて考察。ノートに状況を整理していく。
ちなみにノートは他人に見られても大丈夫。
何故なら内容が分からないように、前世で培った“黒歴史ノート用の暗号文字”で書いていくからだ。
(まず、アヤッチのこれからの約一年間……これは間違いなく確定している未来だ……)
上手く説明できないが“未来夢”は、逆行転生と似た感じのシステムだった。
何度も言うが予想や予知など不確定な感じではない。
未来夢はこれから一年間を、オレが第三者視点で実際に見てきた感じだったのだ。
(未来の歴史か……ということは、オレがアヤッチのこれから一年間に干渉していけば、彼女の事故死の未来を変えられるのか⁉)
今世で“オレという存在”は、間違いなくイレギュラーな存在だ。
もしかしたら直接アヤッチの人生に干渉することによって、もしかしたら彼女の歴史を変えることが出来るかもしれない。
かなり名案かもしれない。
(あっ……でも、どうやって、“彼女の人生”に干渉をすればいんだ、この状況で⁉)
今世でアヤッチは業界最大手のライジング・エンタテイメント芸能に所属している。
一方でオレは弱小芸能界ビンジー芸能に所属。
両事務所の力関係は差があり過ぎて、芸能人としての仕事先が同じになる可能性は皆無だ。
(それなら同じ事務所になればいいのか? いや、それも不可能に近いな……)
基本的に芸能界で、事務所移籍はタブーとされている。
特に何の実績のないオレが、業界最大手エンペラーに移籍するなど不可能だろう。
(それなら学園内だ……オレが彼女の側にいて、人生を変えたらいいのか⁉ いや……それも難しいな……)
昨日の廊下の一件で、芸能科の特殊な環境を実感していた。
芸能科においてオレとアヤッチの間には、芸能事務所以上の大きな壁が存在していたことを。
自分のいるD組と彼女のいるA組は、同じ階にありながらも別世界なのだ。
もしも学園内でアヤッチに近づいていったなら、昨日と同じように《六英傑》の連中に阻まれるに違いない。あと他のA組の連中も邪魔な存在になるだろう。
つまり“今の状況”では、学園内でもアヤッチに近づけない。彼女の不遇な人生を変えることは出来ないのだ。
(くそっ……マズイな……これは“詰み”状態なのか⁉)
芸能界でも学園内でも、オレは八方ふさがりの状況だった。
このままだ何もできない。
彼女が不遇の死を遂げてしまうことを、指をくわえて黙って見ているしかできないのか⁉
(くそっ! くそっ! このD組にいるオレは……ビンジー芸能にいるオレは……今のオレはこんなにも無力なのか……⁉)
自分の力の無さに、胸が張り裂けそうになる。悔しさに噛みしめた唇から、血が流れ落ちていく。
くっ……最推しアヤッチの死を二度も、防ぐことができないなんて。なんという無力感だ。
なんとかして彼女の側にいて、不遇の事故死から助ける手段はないのか⁉
(でも、今のD組にいる状況だと…………ん⁉ ――――待てよ⁉)
そんな時だった。
“ある可能性”に気が付く。
昨日、誰かが言っていた言葉を、ふと思い出したのだ。
キンコーン♪ カンコーン♪
ちょうどタイミング良く、終礼のチャイムが鳴る。
今日の授業は全て終了、生徒は帰宅時間となったのだ。
さっそく、“その言葉を口にした人物”の元へ、ダッシュで駆け寄る。
「ちょ、ちょっと、ユウジ! 聞きたいことがあるんだ! ちょっときて!」
声をかけたのは金髪の友人……ユウジだ。
腕を引っ張り強引に連れ出す。
「ん? 深刻な顔して、どうしたんや、ライタ?」
「いいから! ちょっと、こっち来てよ!」
とにかく今は一秒でも時間が惜しい。
あと重い内容になるかもしれないから、クラスから出ていき、廊下の奥の方に向かう
ここなら他の生徒に話を聞かれる心配はないだろう。さっそく本題に入る。
「おい、どうしたんや、ライタ? こんなひと気のない場所で?」
「ねぇ、昨日の昼休みに、ユウジは言っていたよね? 『ワイは今のところはD組や』って?」
確認したかったのは、昨日の校舎裏での会話。ユウジが何気なく口にした一言だった。
「ん? たしか言ったような……それにしても、そく覚えていたな、そんなこと?」
ユウジは不思議にそうに驚いているが、オレは一度聞いたセリフなら、正確に思い出すことが可能だった。
だが今はそんなことを説明している暇はない。ユウジの言葉の意味を、確認しないといけないのだ。
「やっぱり、そうか! ねぇ、その『“今のところ”はD組』の『今のところ』って、どういう意味なの⁉」
「ん? 『“今のところ”』の言葉の意味やって? それはアレや……この芸能科では『学園の評価によって一年に一度、クラス替えがある』って意味や」
「クラス替え⁉ やっぱり、そうか!」
予想が良い方に的中してくれた。
昨日のユウジの『“今のところ”はD組』って言った時の意味から、“芸能科にはクラス替えがある”……そのオレの予想が当たってくれていたのだ。
「お、おい、どうしたやんや、そんなに興奮して?」
「興奮せずにいられないから、だよ! ねぇ、ユウジ! つまり学園からの評価を高めていけば、A組に昇格できる可能性がある……ってことだよね⁉」
「A組に昇格、やと? ああ、もちろんや。ライタには悪いが、ワイも三年になる前にメジャーデビューして、三年生ではA組に昇格する予定や!」
芸能科での評価システムは、主に《芸能界実績》と《事務所力》の二つが重要となる。この二つを足した平均値が高くなるほど、A組に入れる確率が高まるという。
事前に予想をしていたとはいえ、有りがたいユウジの情報だ。
「なるほど、そうか……よし! それならオレもA組を目指すよ!」
「おっ、ほんまか、ライタ⁉ それなら一緒に二年後……三年生になる前に、A組を目指そうや! お前がやる気になってくれて、ワイは嬉しいでぇ!」
何やら昨日会ったばかりなのに『オレに才能がある』と、どうやらユウジは買ってくれていたらしい。
こうして一緒にA組を目指す同志がいることは、オレにとっても有りがたい。
あっ……でも、ごめん、ユウジ。オレの計画はちょっと違うんだ。説明して、誤解を解かないと。
「ごめん、ユウジ。オレは最低でも一年以内に、A組昇格を目指したいんだ!」
アヤッチが謎の事故死をしてしまうのは、今から約一年後。
正確には11か月後、3月14日のライブ前日だ。
だから最低でもその前まで、オレはA組に昇格しなければいけないのだ。
「はぁ⁉ 一年以内にA組に昇格したい、やって⁉ な、何をアホを言っているんや⁉ ライタのところの事務所評価を考えたら、それこそ今年中に、“地上波ゴールデンタイム・レギュラー出演”や“日本オリコンランキング一位”とかの偉業を達成へんと、A組に飛び級で昇格できへん、やで⁉」
「うん、そうだね」
ユウジが驚愕しながら指摘してきたことは、オレも頭の中で計算をしていた。
弱小芸能界ビンジー芸能に所属するオレの、学園からの事務所評価は最低のFだ。
つまりオレの《芸能界実績》を今年中に《A以上》にしたら、A組に特別昇格できる可能性があるのだろう。
あくまでも頭の中での計算だったは、情報通ユウジの言葉で確信が持てた。
「ということは……今年中に“地上波ゴールデンタイム・レギュラー出演”や“日本オリコンランキング一位”級のことを達成できたら、オレは昇格できるんだね? 情報ありがとう、ユウジ! よし、それじゃ、ちょっと事務所の社長に相談してくるね!」
芸能人は一人では大きな仕事は、取ってこられない。大事なのは所属している事務所のサポート。
だから今からビンジー芸能に移動、豪徳寺社長に相談することにした。
「お、おい、待て、ライタぁ⁉ あ、あ、あいつホンマにやる気なんかぁあ⁉」
後ろでユウジが叫んで唖然としているけど、ごめん。
今は一秒でも時間が惜しいから、彼を置いて廊下を駆けていく。
「あっ……ライタ君⁉ あの……よかったら、今日こそ一緒に事務所に行かないですか? で、でも、ライタ君、元気がなかったら、また後日でもいいのですが……」
ちょうど、廊下の途中でチーちゃんにバッタリ会う。申し訳なさそうに、事務所への同行を提案してくる。
「うん、いいよ! 今のオレはやる気満々だからね! さぁ、いこう!」
「えっ、ライタ君⁉ えっ、えっ⁉ 私の手……を⁉」
未来を変えられる可能性を発見できて、オレのテンションは最大値マックスだった。
だからチーちゃんの手を取って、廊下を駆けていく。
よく冷静に考えたら、かなり恥ずかしく、普段のオレでは絶対にできない行為。
だが今はテンションが上がり過ぎて、周囲の視線も気にならない状況なのだ。
(ん?)
――――そんな時だった。
廊下の向こう側から、六人の男女が向かってくることに気が付く。
(あれは……《六英傑》か)
彼らは一年のエリート六人組《六英傑》。昨日と同じようにオーラを発しながら、こっちに移動してくる。
「「「……」」」
《六英傑》とすれ違うが、向こうは誰も視線を向けてこない。
おそらく“オレを顔もしない雑魚”として認定。もはや視界すら入っていないのだろう。
「……ん?」
唯一、アヤッチだけが、また不思議そうな視線を向けてきた。
手を繋いですれ違うオレとチーちゃんに、気がついたのだ。
(アヤッチ……)
だが彼女に声をかけている余裕は、今のオレにはない。何故なら不遇の死から、彼女を救わないといけないからだ。
すれ違う一瞬だけ視線を向けて、そのまま廊下を駆け抜けていく。
(アヤッチ……待っていてね。一年以内に、“そこ”に行って、必ずキミのことを助けるから!)
◇
この日、“芸能界での目標”が決まった。
昨日までの“ぼちぼち”芸能活動をする、ことではない。
一年以内の特別昇格を果たすため、才能はないかもしれないが“全力を出して”芸能界に挑むことにしたのだ。
(よし……やるぞぉお!)
こうして今世でのオレの第二章が今、幕開けしたのであった。




