表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

笑顔に出会う方法[1]

桜はまだ盛り。

でも山裾の辺りでは、ちらほらと花びらを散らせ始めているらしい。

でも姫の周りは義高様が来られたあの頃から特に変わったことはなく、

桜も変わらず綺麗に咲いていた。

でもって、このところの姫の目下の目標は、義高様より早く起きること!

だって、義高様ったらすごいんだもの。

姫より後に眠るのに、姫が起きた時にはもう身支度をしっかり整え終わってらっしゃるの。

だから姫はいつも義高様の「おやすみなさいませ」を聞いてから寝て、

起きると義高様の「おはようございます」を聞く。

いつか義高様より早く起きようと頑張るんだけど、どうしても勝てなくて、

いつも義高様より遅くまで起きてようとするんだけど、気がついたら眠っていってしまう。

それだけじゃないの。

囲碁をやっても、いつも姫の負け。

最初義高様が知らなかった“いしなとり”さえ、今では簡単に5つの玉を操って、この前は6つにも成功していたのよ。

他に何ができるんですか、って聞いたら、

「木曾では弓や刀、それに馬に乗ることを得意としていました」

って言って、全部一通りお願いして見せていただいたんだけれど、

弓は10本中9本は必ず的を射るし、外れる時もほんのちょっとの差。

刀も全然転んだりしないし、形も間違ってないって、たまに見ていたお父様が言っていた。

馬にもサッっと乗って、ダダッって感じで走らせて、小さな垣根はバッって飛び越えたわ。

それに、武術が得意だって言っていたのに、姫の持っていた本もスラスラ読んでしまう。

詩や漢文なんかだと時々暗唱してらっしゃるの。

姫の勝てるものと言ったら双六くらい。

でも、それだって、今のところ4勝6敗で、全部合わせると姫の負け。

ね! 義高様ってすごいでしょう?

でも、一番すごいのは、会った時と同じで全然表情を変えないの。

何で勝っても笑わないし、

何で負けても泣かないし、怒ったりしない。

姫なんて侍女相手に、しょっちゅう勝っては飛び回って、負けては屋敷中に響く大声で泣きわめいていたのに。

だから姫も見習って、最近は負けても泣かないようにって決めたの。

でも口をギュッってつぐんでも、目からポロポロ涙が零れてしまうの。

義高様はどうして平然としているのかなぁ。

負けても悔しくないのかな?

それに、それにね。

みんなが褒めるの。

「義高殿は礼儀作法をわきまえている」って。

「きっと義仲殿(おとうさん)の教育が良いのだろう」って。

すごいね。

姫の“お婿さん”は、すごい人!

まるで御伽噺に出てくる神様みたい。

あんまりにもすごいので、姫はだんだん心配になってきて、

「義高様は実は神様なのではないの?」

って、ある日、そっと馬の世話をしていた倖氏さんの所に行って耳打ちしたら、

最初の挨拶失敗の時より、さらに笑い転げられてしまった。

何がおかしいのか、姫にはサッパリだったけど、

お腹を抱えてゲラゲラ笑って、

片手でバンバン地面を叩いて、

お終いには、涙目で、ヒックヒックしながら、

「おっ、お腹が捩れそうですっ!」

ってい言うから、

お腹が捩れる病気って治るのかなって青くなって、

姫が慌てて、

「まっ、待っててね! 今っ、今、薬師を呼んでくるからっ」

と叫んで駆け出そうとしたら、

もっと笑い出して、

姫の着物の裾を掴んで、『呼びに行かなくていい』って身振り手振りで訴えるから、

姫はずっと、その間オロオロする羽目になった。

絶対、倖氏さんは、何かの病気よ。

今度、お父様かお母様、それに義高様に相談してみよう。

ちなみに、幸氏さんが笑やむ頃には、幸氏さんの服は泥まみれになった。

まぁ地面の上をずっと笑い転げていたんだから当然なんだけど。

それを、幸氏さんは何でもないかのようにパンパンと手で叩いてホコリだけ落とすと、

「よしっ!」

と言った。

どこらへんが「よしっ!」なのか、姫にはサッパリわからなかった。

次いで目の端に溜まった涙を指で拭うと、

幸氏さんは、最初会った時と同様、にっこりと笑った。

「姫はかわいいですね」

言うことまであった時と同じ。

でも、今回は続きがあった。

「本当に知りたいですか?」

ごくり、と姫は唾を飲んだ。

なんだろう。

倖氏さんの笑顔が少し、怒った時のお母様の笑みに似て見えた。

でも怒ってるんじゃない。

なら姫は知りたいっ、て思ったの。

義高様が神様じゃないならないなら、何なのか。

だって、義高様は姫の“お婿さん”なんだもの。

だから、ゆっくりと首を縦に振った。

すると、

「わかりました。」

と口にして、幸氏さんは、会った時と同じ、またあのニコリとした微笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ