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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第1章 至聖所良いとこ一度はおいで?
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第1話 Arc NO MAD(Ⅳ)

 突如として訪れた災厄……とでも言うべきだろうか。まさかこんな所で宇宙海賊と対面するなんて思いもよらなかった。しかも、その相手は目下売り出し中の女海賊団『クイーン・ベルカ海賊団』とはね……ホントにこれでも厄年じゃないってのかしら。


「レイアさん、この状況はヤバイですね……」


 ジワリと滲み出ている額の汗を拭うアストの言葉に対してアタシは頷く事しか出来なかった。DOOMやフェイと対峙した時と同じ、いや、それ以上かも知れない。最大級のエマージェンシー・サイレンがアタシの脳内に鳴り響く。おそらく奴等は人を殺す事などに微塵のためらいも感じないのだろう。いつでも腰のホルダーに収められたブラスターガンをぶっぱなてるように手を添えている。


「……アスト、クリス、シン。この状況をくぐり抜けるための有効な策はある?」

「そんなモン、ワタシに聞かないでよ」

「さっきからルードの指輪に語りかけてるんですけど、全然反応してくれないんですよっ!」


 クリスはともかくとして、アストの神器の力が頼れないとなると残るはシンの頭脳だけか。何か妙案でもあればいいんだけど……


「シン……何か手立てはある? アンタのIQ199の脳ミソだけが頼りなんだからね」

「おだてても何も出ないぞ?」


 そう言いつつも白衣の襟を正し、眼鏡のブリッジを人差し指でクイッと直し、ベルカ達へと向き直るシン。


「クイーン・ベルカ海賊団の頭目自らが出向いてくるなんて尋常じゃないね? ここに神器がある、など初耳だが……?」

「何だテメェ? んな恰好してる奴が知らねぇのかよ? 学者って奴ぁ何でも知ってんじゃねぇのか?」


 目元まで隠れたバンダナをずらし、顔を近付けてくるアルヴィ。その凄みに対して、少しも臆することなく視線を逸らさないシンの肝の据わり様にも、ある意味恐怖を覚える。


「学者……? それはボクの事を言っているのかな? 残念ながらボクは学者なんて高尚な職に就いた覚えはないな。ボクはどこからどう見てもジャーナリストだろうに……」


 白衣を着たジャーナリストなんて、銀河の端から端まで探したってアンタ一人しかいないわよ。そもそも白衣を着用している職業なんて医者か科学者でしょうに。ま、見た目に踊らされているようじゃ彼女もまだまだね。


「ジャーナリストだぁ? ふざけてんじゃねぇぞ! ジャーナリストだってんなら『神器』がここにある事ぐらい知ってて当然なんじゃねえのか!」


 っと、これは痛いとこを突かれたわね。永久心臓(エターナル・ハート)の取材のために訪れた至聖所に神器があるというネタを仕入れていなかったのは、ジャーナリストとしてはあるまじきミスね。


「ボク達はここには別件で取材に来たんだ。神器の事は本当に何も知らないよ。そもそも君達は神器を手に入れてどうするつもりなんだい?」


 シンの疑問はもっともだ。

 神器を手に入れた所で神器に選ばれ、神器の支配者となれなければ、それはただの宝の持ち腐れ。アストやカイル、そしてあのフェイのように神器の支配者にならなければ神器は神器の意味を成さない。

 アタシの脳裏にはフェイのこ憎たらしい薄ら笑いが浮かんだが、頭をブンブン振ってその幻影を消し去る。

 しかし、海賊の長であるベルカの思惑はアタシ達のソレとは違っていた。


「アタシ達は別に神器の支配者になろうなんて思っちゃいねぇよ。ただ……それがお宝ならアタシ達が戴くまでよ」

「お宝? お宝って……神器の事かしら?」

「それ以外に何がある?」


 それ以外って……この聖櫃(アーク)とかあるじゃない……って、まさか!


「この聖櫃(アーク)が神器……って事?」

「なんだなんだぁ? テメェらジャーナリストってのはお勉強は出来るくせに知識はからっきしなのかよ? 何にも知らねぇんだなぁ?」


 アルヴィの言葉にイラッときたが、シンがその場を収める。


「学歴や経歴なんてモノはその人物を測る手段や道具でしかない。大事な事は、測るべきその物差しが真っ直ぐ伸びているか、目盛は正確か、だ。グネグネと曲がっていたり、目盛がデタラメではいくら学歴や経歴が立派でも意味は無い」


 苦虫を噛み潰したかのように顔を紅潮させながら歪ませるアルヴィは腰のホルダーからブラスターガンを取り出す。が、ベルカがそれを引き留める。


「やめな、アル。お前はそうやってすぐ暴走する……悪いクセだから直せと何度も言ってきただろう? 兄さん、悪かったね。ウチのモンの無礼を許してやってくれ」


 そう言うなりベルカは海賊帽を取ると、深々とシンに向かい(こうべ)を垂れる。やばっ、貴重なワンシーンを隠し撮りしたい衝動に駆られるわ。


「だが、それはそれ、だ。アタシらは海賊……お宝は頂いていくぞ」


 海賊帽をかぶり直したベルカは、キセルを一吸いし紫煙をくゆらすとアルヴィに指示を出す。その指示に従うアルヴィは懐からモバイルを取り出し、モバイルの向こうの相手と会話を始める。

 何だか嫌な予感がする……アタシの『嫌な予感』は高確率で当たる。おそらく今回の『嫌な予感』も的中するに違いない。

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