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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第6章 拡散希望のデストルドー?
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第1話 NORULE・MYRULE・whodunit(Ⅰ)

 ここにきて胸の内にモヤモヤを抱える事になるとは思ってもみなかった。

この惑星(ほし)に来てからというものの、本当にロクな事が無い。着任早々、アホ面下げてるクリスとシンに土下座を強要させられるわ、宇宙海賊に取材対象を強奪されるわ、荷物持(パートナー)ちはその宇宙海賊に誘拐されるわ、挙句その妙な宇宙海賊を追っかけ回さなきゃなんないわ……この中の誰かの運気が最底辺に違いない。うん、そうに違いない。

 そうなってくると犯人探しに躍起になってしまうのは世の常で、アタシも当然その理に則る事にした。

 最優先で怪しいのはクリスだ。これはアタシの私見(もしくは私怨)が大いに絡んでくるが、学生時代からの因縁……もとい、腐れ縁だからホンボシと見て間違いないだろう。

 そもそもこのアタシに土下座を強要させたのもこの女だ。この女によってアタシは着任早々に美味くもない煮え湯を飲まされる羽目となったのだ。うん、決定。悪いのはコイツだ。

 さてどうしてくれようかしら、と思案している所に当の本人がアタシの傍に近寄り耳打ちを仕掛けてきやがった。


「ね、レイア。これからどうなるワケ?」


 どうもこうもない。そもそもの発端はキサマじゃ。キサマと出会ってからというものの、アタシのオーロラ色の人生設計は台無しよ。

 あーもー腹立つわ。


「何かイラついてる? もしかして……アノ日?」

「な……あ、アホか!」

「え? じゃ何? あ、そっか! アストっちに会えないから欲求不満、とか?」

「ざっけんなコラッ! ンな訳あるかっ!」

「ひぐうっ!」


 思いっ切り強く握りしめた拳で、ニヤニヤと人の神経を逆撫でさせる顔をしたクリスの脳天を力一杯ド突いてやった。んふー。おかげで少し気分が晴れた。


「アンタねぇ、変な事言うならマジでぶん殴るからね」

「そういう事は殴る前に言ってよね……」

「殴る前に言ったら意味無いじゃない」


 宣言してから殴ったんじゃ、アタシの気分が曇ったままでしょうが。

 諸悪の根源を成敗した所で先程のコイツの言葉を反芻してみるが、確かにアタシ達がこの先どうなるのか知れたものではない。それに、この胸にこびりつくモヤモヤの原因の一つである『ノイド』という言葉が持つ本当の意味を知らなければ先に進む事もままならないだろう。


「シン、アンタが知り得る『ノイド』についての情報をすべからくアタシに頂戴。今、直ぐ、ナウッ!」

「語彙力という物をもう一度学び直したまえ。ジャーナリストたるもの、ボキャブラリーが貧困では務まるものも務まらないだろう?」


 ぐぅ、腹立つ。けど、確かにコイツの言う通りだ。コイツって死ぬ前からこんなキャラだったのかしら。そっとタケルに耳打ちする。


「ねえ、タケル。シンって以前からあんなに感じ悪いヤツだった?」

「感じ悪い……ですか?」

「なんつーかさぁ、基本、人を見下してるっつーか……」

「アイツは仲間を仲間と思ってないのよ。でなければパートナーであるワタシを(ないがし)ろにする筈が無いもの」


 クリスはあの事を根に持っているようだけど、それも仕方の無い事なのかも知れない。

 あらゆる苦難やリスクを伴う取材を共にするパートナー───言い換えるならバディか───であるならば、重大な隠し事をされたとあれば信頼関係もへったくれもあったものではない、そう考えてしまうのも分からなくはない。分からなくもないのだが……


「シンさんは以前と変わらず、理知的で泰然自若、理路整然としていて僕の憧れです」


 盲目なる信奉者は得てして危険を孕んでいる。人生の先輩としては後輩の道を正すのも務めというものだ。


「あのね、タケル。こんなヤツに憧れを抱いているとダメな大人になるわよ?」

「ダメな大人に言われたくはないね。『ノイド』の事を知りたいのだろう?」


 ダメな大人同士のディスり合いに発展しそうになったが、本来の目的を思い出し、こめかみに浮き出ていた青筋を引っ込めた。

 後進の道を正すのはまたの機会にでも。タケル、ゴメンね。


「そうよ。アンタ、知ってんでしょ? 軒並み吐き出しちゃいなさい」

「軒並みって……まぁいいけど。基本的な事は君達も知ってるだろうし、ボクもそれほど深く知っている訳じゃない。むしろ貴方達の方が詳しいんじゃないのかい、リック課長?」


 不意を突かれる形となった筈だが、あるいはそうなる事を予見していたのか、リックは微動だにせず組んでいた腕をゆっくりと解いた。たかだか一課長に過ぎないのに何故こうも無駄に大物感が出るのだろう。つーか、常々思うけどシンって責任転嫁の天才なんじゃないかしら。


「ノイドについて、か。ジャーナリストである君達にはまだ知られていない情報……と言うか、(ギャラクシー)(ネットワーク)(システム)上にも拡散されていない特S級の機密事項は確かに存在する」

「ん、じゃソレを教えて下さる?」


 アタシとしては至って真面目に言ったつもりだったのだが、エミリーを連れ立って操縦室から何故か戻ってきたポールから皮肉たっぷりの一言を頂いてしまった。


「民間人の新聞屋風情に特S級の機密事項をおいそれと教えられると思っているのか? ジャーナリスト様ってのは随分とお偉い身分なんだな?」

「そう仰る銀河役所の公務員様は随分とお耳がよろしいようで。それに……先程操縦室へ行かれたのでは? 我々の様な民間人の相手などなさらなくても結構ですのに、お忙しい事ですねぇ?」


 皮肉には皮肉で対抗。喧嘩を吹っ掛けてきたのは向こうだし、返り討ちにあったとしても文句は言えないだろう。いわゆる『ざまぁ』というヤツだ。


「コーヒーを取りに来て、たまたま会話が聞こえてきただけだ。俺はあんた達に、知った後で後悔しても知らんぞ、と忠告しただけに過ぎん」


 ぶっきらぼうにそう言い放ち、備え付けのサーバーからコーヒーをカップに注ぐポールの隣ではエミリーがニヨニヨと含み笑いをしていたが、多少は持ち合わせているであろう彼の名誉のために黙っておいてあげよう。『ブシノナサケ』というヤツだ。


「お生憎様。アタシ達ジャーナリストは、知らない事があるなら知っておかなきゃならないの。じゃないと書けるものも書けなくなるし、読者の皆様にお伝えする事も出来なくなりますから」


 他人の物を見て欲しくなったわけではないが、アタシもサーバーからカフェ・オ・レをチョイスする。


「……後悔はしない、と言う事か。エミリー、お前の先輩ってのは叡智を渇望する愚者なんだな。課長、俺は彼女達に協力するのは反対します。そもそも民間人にアレの存在を知られては……」

「その話はするな。お前がどう思おうが構わんが、これが任務だという事は忘れるな、いいな?」

「課長といいブライアンといい……何故たかが新聞屋に肩入れするんですか! 我々が何のために存在しているのか忘れた訳ではないでしょう!」

「……今すべき事はベルカ・テウタ、並びにフェイ・シルフォイの捕縛だ。そのために必要とあらば民間人の協力も受け入れる」


 ポールの進言に難色を示したリックが彼を諌めるように言うと、持ち場につくように命じた。

 ポールの後についてエミリーも操縦室へ戻ろうとするが、何故かリックは彼女だけを呼び止めた。ただの賑やかし要員に何の用事があるのか分からないが、アタシ的にはさっさと持ち場に戻って頂きたいものだ。

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