第65話 愛してくれた男のために
人ならざる仙の祈りは深く、神々しさすら窺える。竜次たちも自然な流れで、
(祈らなければ)
そう心動かされ、仙の両脇にそれぞれ並び、静かに手を合わせ、仙を愛した男の冥福を祈った。仙は竜次たちの行動にふと気づき、驚くとともに、優しい感謝の微笑みを浮かべている。
「ありがとう、あんたたち。ついでと言ってはあれだけど、墓掃除も手伝ってくれないかい? 随分長いこと拝めなかったから、見ての通り荒れ放題でね」
「ふむ……。確かにそうでござるな。墓石自体、相当古いものでござるが、ブラックオーガがずっと邪魔していたおかげで、周りが草だらけになっておる」
守綱はこう言い表しているが、まだオブラートに包んで表現した方で、実のところ古びた小さな墓石は、伸び放題の草に埋もれたようになっている。これは仙だけの手で刈り取ろうとすれば、かなり骨が折れるだろう。竜次たちは彼女の頼みを進んで聞き入れ、手分けして墓掃除を丁寧に行った。
夏の暑い陽が差す中、しばらく草を刈り、墓石を磨いていくと、極めて簡素ながら、人の墓らしい清潔な静けさが、周りに雰囲気として漂い始めた。心を込めて供養の掃除をしてくれた竜次たちに、仙はとても満足しており、夏に咲く芙蓉の花のような、明るく可憐な笑顔を見せている。
「本当にありがとうね、あんたたち。ここまでしてくれるとは思ってもみなかったよ」
「いや、礼には及ばないよ。ところでこの墓って、かなり昔からあるんじゃないのか? ここに眠っているのは、どういった男の人だったんだ?」
人間の男が九尾の女狐を愛したというのも奇妙だが、仙がそれを受け入れ、一緒に暮らしていたというのも奇妙なことだ。竜次ならずも、この場にいる皆、その昔、仙と人間の男にどういった馴れ初めがあったのか興味があり、気になっている。仙は、竜次の男前な顔をしばらく眺めていたが、自身への苦笑と共に、遠い昔を思い起こしながら語り始めた。
「齢のことを言いたくはないんだけどね。何百年前だったか、こいつが山で狩りをしてて行き倒れてたんだよ。狩りの最中に、獣にやられたんだろうね、確か脚を深く切ってたよ。見捨てる気にもならなかったから、私が介抱して、傷が治るまで庵に置いてやったのさ」
そこまで語り、竜次たちが綺麗に磨いてくれた墓石を、仙は少しばかり懐かしがるような寂しがるような、そんな表情で、じっと見つめている。切れ長の目をした、透き通るような白い肌の顔は、幾星霜もの哀愁を帯びていながらも、凛として美しい。




