第161話 仁王島の戦い・その3
咲夜が肩に置いた手の温もりにより、竜次は心身に巡っていた過剰な緊張感を幾分和らげることができた。優しい手のひらで竜次の強張りが取れたのを感じ取ると、咲夜は少しだけ彼に向けて微笑む。銀髪姫は想い人に向けていた柔らかい微笑を直ぐ様戦いのものに変え、黒白の戦闘服を着て構えを作る仙に、凛と通る声で呼びかけた。
「仙さん! 私たちで切り開きましょう!」
「いいよ、火の法術でいくよ。遅れないようにね、咲夜ちゃん」
咲夜と仙は目で示し合わせると、同時に法力と霊力を集中し始め、掌を空間に向け、高めた力を解き放った!
「朱雀炎!!」
「双炎狐!」
火を司る神獣朱雀の力を借りた大炎と高熱の牙を持った2匹の炎狐が、星熊童子を焼き尽くさんと神速で飛びかかる! 唸りを上げて進む爆炎をかわすのは到底不可能と思われたが、
「鬼氷壁!!」
星熊童子は朱雀と炎狐の業火が到達するより一瞬速く妖術を放ち、自身を守る分厚い氷の壁を前方に作り出した! しかし、青肌の冷酷な女鬼をそのまま表したような厚い氷壁は、咲夜と仙が放った神速の爆炎を全て相殺するには不十分であった!
「何なの!? 突き抜けた!?」
四象の杖で高めた咲夜の法力と、九尾の狐である仙の霊力、その2つを合わせて解き放たれた業火は、分厚い氷壁の一部を見事貫き、星熊童子に残った力で襲いかかる! だが、鬼氷壁による相殺効果は大きく、爆炎は小さな炎へと変わってしまった。星熊童子は瞬時に判断すると、彼女固有の高速移動で炎を難なくかわし、無傷で切り抜けている。
「まさか!? 駄目だったの!?」
「うろたえてる暇は無いよ、咲夜ちゃん。来るよ! 身構えな!」
想像を超えた咲夜と仙の力に、星熊童子は吊り目を見開き驚きつつも、残っている鬼氷壁を妖力で操り氷礫に変え、咲夜たち将兵に向けて弾丸の如き速度で撃ち放った! 玄武陣の防御結界内で、無数の氷礫はさして緩慢にならず、このままでは甚大な被害が討伐軍に生じる!
「霊炎壁!」
氷の弾丸が咲夜たち将兵を撃ち抜くより一瞬速く、仙が霊力を解き放ち、広く前方を守る炎の壁を作り出した! 無数の氷礫は、ほとんど霊炎壁により相殺されたが、急ごしらえだったため、討伐軍全体をカバーできず、氷の弾丸の幾つかは精兵を撃ち、その場に倒れた者たちもいる。
予想をことごとく超える咲夜と仙の力に、星熊童子は驚きを通り越して不審がっていた。高速移動で一定距離を置いた後、俯瞰的に咲夜以下の討伐軍を冷酷なその目で分析し直していたが、赤珊瑚の髪飾りをつけた仙の黒髪を見て、星熊童子はある不自然なことに気づいた。




