第151話 興味深い機構
将兵を運ぶ船団は結の港から出港し、凪に近い穏やかな海を順調に進んでいる。その中の一隻に竜次も乗っているのだが、乗り込んだ当初から彼は船尾のある部分を、物珍しそうに見続けている。
(これはまた変わった機械だ。日本にも似たようなのはあるが一味違う)
竜次は海水をつかんで推進力を得る動力補助機械を見て、先程から飽きることなくその構造に感心していた。船の動力というと、燃料を使いエンジンを回すのが日本において主流のはずだが、異世界アカツキノタイラでは、エンジン部分がそっくりそのまま、超速子エネルギーを貯め込んだバッテリーである送り石に置き換えられている。しかも海水を掻き出して進むスクリューが付いておらず、それでいて、超速子を利用して機械下部で海水の流れを変えてつかみ、舵と推進力の取り入れを同時に調整できる機構になっていた。
「エンジン部分が送り石に置き換わっているから、その分コンパクトな機械になってるな。この世界には車がないから、船にもそんなもんは付いていないと思ってたが、舐めちゃいけねえな。俺がいた世界より進んだ技術だ」
自動車工場での勤めが長かった竜次は感心しきりだが、この動力補助機械には惜しすぎる欠点がある。彼もある部分を見比べながら気づいている。あくまで船を動かす補助機械なのだ。バッテリーである送り石のエネルギーだけでは十分な推進力が得られないため、竜次が乗っている船は、風を捉えて進む帆船になっている。船の動力としてのメインは風力であり、船尾に付いている舵取り推進補助装置だけでは、この将兵が乗った船を動かすことができない。恐らくは送り石に蓄えられた超速子エネルギーの限界なのだろう。
「進んだ技術だが、惜しいよなあ。エネルギー不足か。でも分かったぜ、なんでアカツキノタイラに超速子を使った車がないか」
機械が好きな竜次は少し夢中になりすぎて、この短い航海が戦に向かうためのものであるのを、若干忘れかけていた。その様子を察してかどうかは分からないが、機械を見続けている竜次の近くまで、与一と守綱が歩み寄って来た。
「その機械が面白いか、竜次? 日本から来たお前には、アカツキノタイラで新鮮に映るものがまだまだ多いようじゃの」
「面白いですね。俺は工場でこの間まで機械を作ってました。それもあって、とても興味深く面白い。そうなんですが、船旅を楽しみに来たんじゃないんですよね」
直属の上司である守綱が言いたいことをすぐに察した竜次は、緊張感を取り戻し、戦に臨む姿勢を忘れていないのを明確に伝えた。




