第121話 案じる眼
お喋りな咲夜が詳しく話をする中、あやめが冷静にサポートする形でところどころ補足を行い、一連の説明が終わった。縁の国黎明期にいた6匹の強大な鬼の名、結ケ原で戦った金熊童子の強さ、その金熊童子は仁王島から船でやって来たこと、この3つのポイントにおいては特に重点的な説明を晴明にしている。
「なるほどな。そうした鬼たちがその昔いたという話は、私もうっすらと聞いたことがあったが、あなた方が話した内容は、知らぬ部分が多かった。面白いな」
「あんたやっぱり、ある程度の話は知ってたんだね。相変わらず得体の知れないやつだねえ」
九尾の狐ながら仙は、晴明の人間離れしたところに呆れている。晴明は、今までどこでどういう生き方をして、ほとんど知りようがない黎明期の伝説を、うっすらでも頭の片隅に残していたのか分からないが、この陰陽師は、少なくとも尋常な人の子でないのは間違いなさそうだ。
「ふふふ。仙、お前も私のことは言えまい。いずれにせよ咲夜姫を始め、あなた方が青い女鬼を見て驚いた理由がよく分かったよ。咲夜姫の推測通り、女鬼は残り5匹の鬼の内、四天王の一匹で、仁王島のどこかにいるのだろう。それにしても、あなた方は強運を持っている」
「強運? どういうことですか?」
竜次がポツリと晴明に問いかけると、涼やかな顔に優しい微笑みをたたえ、陰陽師はなぜか懐かしそうに、源竜次を少しの間、見ていた。
「竜次殿、あなたは私と会った時より強くなった。だから金熊童子を斬り倒せたのだろう。しかしながら、伝説にある6匹の鬼の内、最初に遭遇したのが、恐らく最弱の金熊童子でよかった」
(最弱!? あれだけ強かった金毛の鬼が!? どういうことだ?)
竜次は晴明の『強くなった』という言葉とは裏腹に、自分が弱いと評価されているように思い、心中穏やかでなかったが、晴明の話はまだ途中であり、ともかく最後まで聞いてみることにした。
「姿見にまだ女鬼が写っておるな。竜次殿、腹を立てずに聞いて欲しい。あの青い女鬼が持つ強い妖力がお分かりか?」
「それは……分かります」
晴明の表情は、微笑みから真剣なものに変わっている。竜次は、自分と目を合わせて話す晴明を見た時、まるで、竜次の身を本気で案じる長年の親友のような、そんな奇妙で不思議な懐かしさを、なぜか分からないが覚えた。晴明は、竜次の素直な返答に安心したのか、少し顔を緩め、
「今の竜次殿では勝てまい。あの女鬼は、金熊童子より遥かに強い」
そうとだけ現実を伝えると、竜次の目から視線を外す。




