第112話 大方針
運命の先を見通す陰陽師晴明のことだ、自身が大宮殿に送った便りが、今この時間のこの場所で咲夜に渡される因果律も、あらかじめ分かっていたのかもしれない。そうとしか思えないほどタイミングが絶妙で、狂いがないからだ。
「その書にある通りだ。またお前たちには旅に出てもらわねばならぬ。国鎮めの銀杯探しと、5匹の強大な鬼を退治すること、この2つを並行して進め、縁の国とアカツキノタイラを平和と平穏に近づけていく、これから我らが採っていく大方針だ。先はまだまだ長いが、私が出す主命にこれからも従って欲しい」
『はっ! 仰せのままに!』
昌幸は配下に全幅の信頼を寄せ、また、すべての配下は昌幸に揺るぎない忠誠を誓っている。素晴らしく頑丈でそびえ立つくらい大きい、一枚の岩盤のような美しさがその主従関係にはあり、その盤石な美しさは、縁の国をきっと良い方向に導いていくはずだ。
「では、晴明の下に向かう主命を言い渡す前に論功行賞を行う。守綱」
「はっ!」
「先の結ケ原の合戦における働き見事であった。今までの忠功と合わせ、守綱を中老に昇格させる。これからも国と民のために尽くしてくれ」
守綱は心中複雑であった。頭領、平昌幸に今までの忠節を認めてもらえたのは非常に嬉しい。しかしながら中老の役職階級を受けるということは、縁の国の本格的な幹部になるのと同義である。
「ありがたき幸せ。大変嬉しゅうございますが、御館様」
「なんだ?」
「その昇格を受けるとすると、拙者は今回の旅からは……」
「そのことか。守綱、お前にはこれから、連理の都で守備の要として中心的に働いてもらう。咲夜や竜次が気にかかるのだとは思うが、お前が同行できる旅はここまでだ。すまんが国の中核として都に留まってくれ」
不服なわけではない。しかしながら、苦虫を噛み潰したような表情が、守綱の顔に自然と出てしまっている。それだけ咲夜と竜次たちのことが心配で、何よりも苦楽を皆と共にしてきた旅が楽しかったのだ。
「承りました。先の合戦のこともあります。身を粉にして連理の都を守ります」
「受けてくれるか。ありがとう、守綱」
昌幸は、守綱を少年の頃から見てきている。その深い忠誠心も偽りない性格も、竹馬の友のようによく知っている。それだけに今回の中老昇格と合わせた頼みは伝えづらかったのだが、それを我慢して酌んでくれた守綱の心が、縁の国の頭領として、もったいないくらいありがたかった。
これからのやるべきことを決めた守綱は、極めて爽やかですっきりした顔をしており、迷いも曇りもなくなった眼差しを、彼にとって一番心配な部下である竜次に向けた。




