【Checkpoint①(検問所)】
P子の後を追ってしばらく走ると、警察の検問に出くわした。
日本を出発するときに渡されたパスポートは偽造ではなく特殊な事情があった時に発行される物だとサオリが言っていて、日本を出発するときもここアフガニスタンに到着した時も、何も問題はなかった。
だからこんな田舎の警察に見せたところで怪しまれるわけはないが、なぜか胸騒ぎがした。
紛争地帯であるアフガニスタンの警察は街中でない限り普通に自動小銃を持っていて、検問をしている彼らも、やはり自動小銃を肩にぶら下げていた。
「怪しいわね」
俺の胸騒ぎを察したのか、それとも彼らの何かを見抜いたのかサオリが怪しいと言った。
「何か変なところでもあるのか?」
「ナトちゃんは、どう思う」
「具体的には分からないが、胸騒ぎがする」
「さすがね」
「何が怪しい?」
「確かに警察官も自動小銃は持っているけれど、装備品として与えられているのは普通AK-47よ。それなのに彼らは軍に与えられているM-16を持っている」
「それは確実なのか?」
「うーん、組織自体がチャンとまとまっていないところもあるから、軍の横流しとかもあるとは思うけれど、それにしてもこんな田舎の検問所もない所に居る警官がそんなに裕福なはずがないわ」
たしかにサオリの言う通り。
こういう地域だと中央から離れれば離れるほど給料も滞るため職務の質も悪くなるのは、こう言った地域に居る警官の常だ。
サオリと話しているうちに、彼らに車を止められた。
人数は7人。
「旅行者か?」
「いや、仕事だ」
「仕事とは?」
「パイロットだ。カブール国際空港で荷待ちの間、ドライブしている」
警官は俺たちのパスポートを穴が開くほど真剣に見ている。
「おまえ、パスポートの性別欄には女性と記されているが、男ではないか。降りろ!」
女だと言ってジャケットを脱いで胸を見せたが、どうやら許してもらえないらしい。
車から出るとフェンダーに両手を付かされてボディーチェック。
もちろん性別確認の他に、銃やナイフなどの危険な物を所持していないかの確認だが、この国の警察にしては確りし過ぎている。
アフガニスタンに限らず、政情の不安定な国の警察は信用ならない。
変な話だが、女性の2人連れは彼等にとって“獲物”のはずで、金品を脅し取るか、レイプの対象と見ても強ち間違いではないはず。
なのに、おかしい。
特に俺が女性である証拠に、ジャケットの前を開きTシャツ越し膨れた胸を見せたにも拘らず、全員がキチンと職務を全うする姿は先進国の警察官でもまれな部類だ。
サオリも降ろされてボディーチェックを受けている。
チェックする係と監視する係の2人ずつがサオリと俺に付き、後の2人は車を調べていて、最後の1人は道を警戒しながら携帯で誰かと話している。
ここは付近に基地局も無いので、普通の携帯は圏外で通信は出来ないはず。
つまり奴の携帯は、イリジウム(衛星)携帯だ。
そう言えば、つい1ヶ月ほど前に戦ったザリバン高原でも、敵のボスはイリジウムを使っていた。
そう。
パリで死んだ、あの偽ミヤンこと黒覆面の男。
奴はPOCに俺を誘っていた。
ボディーチェックを受けながら逆に彼らを注意深く調べていると、腰にぶら下げている拳銃に目が止まった。
軍人だって拳銃を持つが、それは全員ではない。
下士官以上か重火器担当の兵士だけなのに、この田舎の警察官は7人全員が拳銃を帯同している。
しかも、奴らが腰に差しているのはトカレフやハイポイントの様な安い銃ではなく、比較的新しくて高価なグロック17。
“こいつらは間違いなく、本物の警察官では無い……どうする?”
「キャー!なにするのよ!!」
俺が、どう行動するのが正しいのか考えているときに、サオリの叫び声が聞こえた。
ブルカで全身を覆っているので、ボディーチェックを面倒に思った奴が、脱がそうとしたらしい。
イスラム教に於いて、峠道での検問とは言えど公の空間で女性のブルカを剥ぎ取ろうとする行為はあり得ない。
暴れるサオリを抑えるため、イリジウムで何者かと話をしていた隊長らしき人間が、慌てて加勢に入る。
これで、今、奴らは外部との連絡を絶たれている。
“やるか!? やるなら今だ”
幸い相手の持っている拳銃はグロック17。
7人の敵を倒すにしても、装弾数には充分余裕がある。
俺のチェックをしている男の腰から銃を奪い取り、すかさずチェックしている男越しに監視している奴を撃ち、倒れる男の腰から拳銃を抜き取りサオリに投げる。
そのまま横に体を投げ出すように飛び、車のチェックをしている男2人を撃つ。
後はサオリの傍に居る3人だが、こちらは俺の行動と、俺の投げた拳銃に気を取られてノーマークになったサオリが簡単にやっつけてしまうだろう。
後は、奴らに何の目的で誰に頼まれたのか、口を割らせれば良いだけ。




