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番外・怨霊トリオの緩い日常~晴れ時々、絵馬と天神様~

 ぱらりと投じられた丸い麩が、静かな池に落ちて波紋を浮かべる。

一拍後、慌ただしく鏡のような水面が乱れた。

 鰭が水面を打つ音に混じり、水諸共餌を吸いこもうとする音が響く。時折鮮やかな紅や白、金色が踊り、池の中で激しい餌の争奪戦が繰り広げられている事を窺わせた。


「……ふぁ」


 そんな池の騒乱を縁側から眺めつつ、男が一人、欠伸を漏らした。

 年は三十代の前半から中ほどだろうか。やや険しげではあるものの整った風貌に、後ろに流された黒髪。まともな恰好をしていれば――そう、例えば着流しや袴を着ていれば――時代劇の主役になれそうな、何処か不吉な威圧感を漂わせる美丈夫だった。


「…………ふぁー……」


 先程よりも大きな欠伸と共に男は池に麩を投じる。

 常ならば鋭いであろう目つきは今は眠たげに細められている。

欠伸を零し、時折頭を掻いているその様子は、なんと言えばいいのだろう。休日に思う存分だらけているおじさんのようだ。素足に下駄、紺の甚平という服装が、その印象に拍車を掛けていた。


「それ、これで仕舞いだ」


 傍らの袋をひっくり返し、麩を全て掌に載せると、纏めて池に投じる。

 麩の量に比例するような激しい水音を立てて暴れる水面を暫く眺めた後、男は後ろに手をついて空を見上げた。

 淡く何処か霞んだ青に、これまた霞んだ白い雲がふわふわと浮いている。

吹き抜ける風は以前よりも涼しさを孕んでいて、季節が確実に移ろっている事を教えてくれた。

 いつまで、いつまでと鳴きながら飛ぶ鳥達、視界の端をじゃれ合いながら掠めて行く小鬼や、草叢をのしのしと歩く常ならばあり得ないほど大きな蛙。

 現世においては異様なそれらも、異界に住まう男にとっては至って平穏な日常の風景であった。


「……暇だな」


 ぼんやりと景色を眺めながら、男はそう呟いた。

 鍛錬はもう済ませたし、池の魚にも餌をやった。

 所縁がある場所の穢れ祓いは先日済ませたので、また祓いに行くまで暫くの猶予がある。


「――かといって、現世に行くのもな」


 いや、行く分には別に構わないのだ。少なくとも、異界の己の領域にいるよりは退屈しないだろう。

が、男には躊躇う理由があった。

 今朝方、同じやしろに共に祀られている御仁が、高笑いをしながら算盤を弾いているのを見かけたのだ。どうやら、また良い儲け話の種を見出したらしい。

 そこにうっかり通りすがろうものなら、問答無用で襟首を掴まれて企画やら提案についての意見を求められ、挙句の果てに延々と売り込み話が始まる事は想像に難くなかった。

 因みに過去に男は、某アイドル育成ゲームと自身の社との共同企画の話に半日以上つき合わされた事がある。

様々な視点からの意見を求められ、どういう層を狙って売り込むかについて、何を売るかについて延々と語られ、しかもその間中座する事は許されない。午前中から始まった話は昼餉と夕餉の間も止まらず夜まで続き、語る事を全て語ったのか、満足した御仁が男を解放してくれたのはもうじき日付も変わろうかという頃合いだった。

 その後暫くの間、男がその御仁を避けに避けたのは言うまでもない。

“触らぬ神に祟り無し”という言葉を今更実感する羽目になるとは、世の中というのは全く想像もつかないものである。


「……いかんな。思い出しただけで頭が痛くなってきた」


 頭を振り、男は苦行じみた売り込み話の思い出を脳裏から追いやった。

血走った目と若干狂気に犯された笑顔のあの御仁を思い出すのは、精神衛生上少々よろしくない。

 米神を揉みながら嘆息していると、ふと何かが震える音が男の耳に届く。


「む……」


 縁側に放り出されていた音源に目をやり、男は口をへの字に曲げた。

 震える物体から長く伸びる紐を手繰り寄せ、黒く平たいそれ――漸く最近使えるようになった気がしなくもない、携帯電話だ――を手に取る。

 二つ折りのそれをそっと開くと、液晶画面には知人の名前が表示されていた。

未だに震えているという事は電話なのだろう。

 それは良い。それは良い、のだが。


「……通話釦」


 通話するために押す釦は、どれだっただろうか。

 男は携帯電話を片手に途方に暮れた。

受話器の印がある釦を押すのだと教わった覚えがあるが、携帯電話には受話器の印が付いた釦が二つある。

どちらを押せばいいのだろう。男は逡巡した。

その間も携帯電話は男を急かすように震え続けている。

 暫く考え込んだ末、男は向かって右側の、受話器の印が付いた釦を押した。


「む」


 押した瞬間画面に浮かんだのは、“通話終了”の四文字だった。

 一応耳元に携帯電話を近づけてみるが、響くのは空しい電子音と池の魚が呑気に跳ねる水音のみ。

その内電子音は途切れ、時刻を表示する画面に戻ってしまった。

 着信履歴から掛け直せばいいと言われるかもしれないが、残念ながら男は何処を如何すれば着信履歴を表示できるのかよく分かっていない。


「まあ、用があるのならまた掛けてくるだろう」


 携帯電話を横に置き、男は渋い顔をした。

 もしまた掛って来たのなら、その時は確実に小言から始まるだろう。

そう考えると少々憂鬱になるが、元はと言えば己の所為だ。それくらいは甘んじて受けよう。

 先の事を考え、やれやれと男が溜息を吐いた時だった。


「まーさかーどさまー!」


 呼び掛けと足音共に、一人の女が男の元にやって来た。

年は二十代、精々半ばだろう。黒髪を桔梗の花がついた髪飾りで纏め、巫女装束を纏った快活そうな女性である。

 ただ、今は少々焦っているようだ。走って来たのか息は切れ、手には受話器が握られている。


「如何した、桔梗。騒々しい」


 男――将門公の問いかけに、女――桔梗は俯きぜーぜーと肩で息をしながら手を軽く振った。

 少し待て、と言いたいらしい。

息を整え、姿勢を正し、それから漸く口を開く。


「ええとですね、先程崇徳院様からお電話があったんですけれども」

「ふむ」

「ちょっと道真公を投げちゃったそうです。こっちに向かって」

「……は?」


 桔梗の言葉の意味が呑み込めず、将門公は目を瞬かせた。


「そんな鳩みたいな顔されても。急いで伝えてくれと言われたので、私も事情はさっぱり……」

「お前の事だ。急ぎ過ぎてうっかり聞き逃したのではないか?」


 胡乱げな将門公に、桔梗はぶんぶんと受話器を振る。


「違いますって。なんだかこう、本当に焦ってらしたんですよ」

「焦っていた?」

「ええ。あの方にしては――」


めずらしく、と桔梗が続けようとした時だった。

 からん、と空から木の板が降ってきた。

板の形は五角形。頂点には紐が付いていて、白い牛に乗った束帯姿の男性が描かれている。

それは、所謂“絵馬”と言われるものだった。

 絵馬が立て続けに降ってくる。

 雨の様に降ってくる。

 そして――


「のぶわっふぁ!!!!」


 奇妙な声と共に、池に派手な水柱が上がった。

水と共に大量の絵馬と池の中の鯉が舞い上がり、庭に叩きつけられていく。


「きゃぁ!?!?」


 驚いた桔梗が、手にしていた受話器を取り落した。

ばきっと不吉な音を立て、硬い床に落ちた受話器が中の部品を床にばら撒いていく。


「あああああ、受話器いいいいいいいい!」


 悲痛な声を上げながら受話器の部品を回収する桔梗を横目に、将門公は散らばる絵馬を眺め、池の中央――水柱の発生源を眺め、最後に空を見上げた。


「晴れ時々絵馬と道真公か。今日の天気は随分と斬新だな」

「呑気にそんな事言ってる場合じゃないですよ将門様!」


 かき集めた部品を懐から出した手拭いに包みつつ、桔梗が突っ込む。


「つーか、そんな天気あって堪るか!」


 それに続いて池から男の声が響いた。

 将門公と桔梗が声の方に目を向けると、水と絵馬をかき分けながら男が一人、池から出てくるところだった。

 年は五十代後半あたりだろうか。左目に片眼鏡を掛けた、如何にも学者然とした風貌の男だ。淡い紅色のポロシャツと、淡い黄色のズボンが良く似合っている。最も、今は全身びしょ濡れだったが。


「道真公。先触れに絵馬を使うのは如何な物かと思います」


 年寄りの冷や水、と思わず口走りそうになるのをぐっと堪え、将門公はそう苦言を呈した。

今迂闊にそんな事を言おうものなら、かつて内裏に落ちた雷と同程度の物が降って来る事になるのが分かりきっていたからだ。


「もうやだ! 儂、転職したい!!」


 苦言に構わず男――道真公が叫ぶ。

その台詞で、将門公は何が起きたのかを大まかにではあるが悟った。


「…………願われることが多い神というのも、大変ですな」


 絵馬を拾い上げ、しみじみと呟く。

 見てくれは何の変哲も無い絵馬だが、唯の絵馬では無い。

これは人の子の願いの結晶が、絵馬の形を取った物だった。

将門公も願われる側の立場になって久しいが、この“絵馬”に押し潰された事は無い。

三柱で一つの社にいるようなものなので、“重さ”が分散されているとも言えるのだろう。

 道真公の場合も、社にはもう一柱祭られている神がいる筈だが、絵馬を奉納していく人の子達がほぼ道真公頼みである為、こうして“絵馬”に押し潰されることがままあった。


「転職サイトって神様が登録しても問題ないかねぇ」

「さあ?」


 大真面目にそう尋ねてくる道真公に、将門公は首を傾げた。

はて、てんしょくさいと、とは何だろうか。


「副業は出来ても転職は無理だと思いますよー」


 そこに、何時の間にかいなくなっていた桔梗が、服とタオルを持って戻ってきた。


「道真様、取り敢えず身体を洗って着替えた方が良いです。お風呂場、あっちです。将門様、服一式道真公に貸しちゃいますねー」

「ああ」

「すまんねー、桔梗君。ちょっと行って来るわ」


 桔梗から服とタオルを受け取り、道真公が庭から立ち去る。


「ちなみにですが。転職サイトっていうのは、もの凄く乱暴な説明をすると、ネット上のハロ…………公共職業安定所みたいなものです。厳密には色々違うんでしょうけれど」

「……ああ、成程」


 道真公の姿が完全に消えた後。説明に腑に落ちた顔でぽんと手を打つ将門公に、桔梗は思わず生温い目を向けてしまった。

 どうも、彼女の夫は横文字に弱い。

道真公やもう一人の知人が横文字にも対応できている分、余計弱さが際立っているように思えてならなかった。


「……転職したくなる気持ちも分からなくはありませんがね、あんな絵馬の山では」


 そこへもう一人、男が姿を現した。

 まだ蒸し暑さが残る時期にも関わらず、高価そうな背広をかっちりと着こなした男だ。年は四十かそこらだろう。整った顔立ちに銀縁眼鏡を掛け、些か近寄りがたい雰囲気を醸し出している。


「だからと言って絵馬諸共道真公を吹き飛ばす事は無いだろう、崇徳院」


 呆れを多分に含んだ将門公の言葉に、男――崇徳院は眉間にきつく皺を寄せた。


「力加減を間違えたのです。本当は、上の“絵馬”だけ退かす筈だったのですが――それを言うなら将門公。貴方もその昔、道真公を絵馬の山から引き抜く時にうっかり手を離して、鳥居の上に道真公を引っ掛けていたじゃありませんか」


 崇徳院の言葉に、将門公も眉間に皺を寄せた。

そう言えばそんな事もあった。怒った道真公に雷を食らい、身体を軽く焦がして社に戻った覚えがある。


「…………あれこれ言うのは止めましょう。今回は、完全に私の失態です。申し訳ない」


 両者の間の微妙な空気を破ったのは崇徳院だった。

謝罪の言葉と共に、深く頭を下げる。


「…………次からは気を付けろ」

「ええ…………」


 顔を上げた崇徳院の肩を将門公はぽんぽんと叩いた。


「あのー、なんだかしんみりしているところ申し訳ないんですが」


 そこに、桔梗がそっと口を挟んだ。

二人が顔を向けると、桔梗は何故か熊手と玉網を持って、巫女装束の袖を襷で纏めている。


「池の周りを跳ねてる鯉ちゃん達を戻してもらっていいですか?」

「うむ……それは良いのだがな、桔梗。お前は何をする気だ。何故池の傍にいる」


 将門公の問いに、桔梗は熊手を池に突っ込みつつ答えた。


「いや、浮いてる絵馬を熊手で回収しようかなと。ほらほら、結構集められますし! 後はこれを網で掬えばオッケー!」


 絵馬を池の縁まで寄せつつ、桔梗は得意げに笑う。

確かに絵馬は池の縁まで寄っては来るが、すぐまたぷかぷかと流れだしてしまっている。

 また、桔梗の足取りは随分危なっかしかった。

よたよたしていて、今にも滑って池に転げ落ちてしまいそうだ。

 将門公の眉間に再び皺が寄った。


「それは吾がやってやるから、お前は崇徳院と鯉を池に戻していろ」

「えぇー」

「“えぇー”ではない。お前のような間抜けな粗忽者にそんな事をやらせていたら、池に落ちるに決まっている。貸せ」


 不満気な桔梗から問答無用で道具を没収し、将門公はしっしと手を振った。

追い払われた桔梗は軽く頬を膨らませていたが、やがて周りで跳ねている鯉を掴んで池に放り込み始める。


「おいこら、勢いを付けて鯉を投げ込むな。絵馬が逃げるだろうが」

「だってこの子達超元気なんですものー! あと、凄く掴み難い! ってあ痛っ! 尾鰭で叩かれた!」


 絵馬を集めては掬う将門公の周りを、鯉と格闘しながら桔梗が動き回る。

 それを眺め、崇徳院は無言で指を鳴らした。

池の水が渦を巻き、絵馬だけが舞い上がる。

舞い上がった絵馬は池の傍に積み上がった。

 跳ね回っていた鯉達も浮かび上がり、池に戻されていく。


「…………将門様」

「…………なんだ」

「…………最初から、崇徳院様に頼めば良かったですね」

「…………そうだな」


 あっという間に片付いた池の傍で、将門公と桔梗が顔を見合わせる。

 頼むという選択肢を思いつかなかったであろう知人夫婦に、崇徳院は深々と溜息を吐いた。

どうもこの二人、微妙にずれている――天然、とでも言えばいいのだろうか。たまに見ていて心配になる。


「君はあの二人を見て溜息を吐く前にやる事があるんじゃないかね、崇徳院や」


 聞き慣れた声と共にポンと背中を叩かれ、崇徳院はそっと背後を振り返った。

 そこには深緑の甚平を着た道真公がにこにこ笑っていた。にこにこ笑っているが、目は欠片も笑っていない。背後に吹雪――ではなく、細かな稲妻が見えるのは、気の所為でも何でもない。


「大変申し訳ありませんでした!!」


 すぐさま謝罪し、崇徳院は深く腰を折った。


「はっはっは、顔を上げようか崇徳院」


 朗らかに笑いながら道真公が崇徳院の肩を叩く。

恐る恐る顔を上げた崇徳院の顔から眼鏡を取って縁側に置くと、道真公は崇徳院の両頬を掴んだ。


「助けてくれようとしたのは良いけどね? 限度ってもんがあるよね? 儂吹っ飛びながら死ぬかと思ったのよ? もう死んで久しいけど」

「んぐぎゅ」

「おー、意外と伸びる伸びる。見てみぃ、将門公に桔梗君。崇徳院のほっぺって意外と伸びるぞー」

「いひゃいれふ!」


 頬を引っ張られ遊ばれる崇徳院だったが、元は自分の失態が原因なのもあってされるがままだ。


「……雷落とし、しないんですねえ」


 その光景を眺めてぼそっと呟いた桔梗に、道真公がにっこり笑いかけた。相変わらず目は笑っていない。


「一応ほら、人様の家じゃからね、此処。自重しとるんじゃよー。…………やっても良いならやるけど」

「やるならご自分の領域でお願いします」


 即答しつつ、将門公は余計な事を言った桔梗の頬を引っ張った。

むぎゃああああ、と女にあるまじき声が上がるのを無視し、むにむにと柔らかい頬を弄って遊ぶ。


「……餅のようだな」

「もみゃあああああああ」

「将門公や、あまり女子おなごの顔で遊ぶでないよ」

「面白いので、つい」


 みょーんと桔梗の頬を引っ張る将門公に、道真公は崇徳院を抓りあげつつ、「こいつら仲良いな」と内心思った。

 百年単位で夫婦喧嘩した後、元の鞘に収まっただけの事はある。


「さて、儂はそろそろお暇しようかの。この阿呆に雷を落とさねばならん」

「左様ですか」

「うん。じゃあのー。あ、タオルと替えの服、ありがとうね。今度返すわ」


 そろそろ顔で遊ぶのも飽きてきたので、道真公は本格的に崇徳院にお仕置きする事にした。

 漸く桔梗の頬から手を離した将門公と、顔をむにむに揉んでいる桔梗に手を振り、崇徳院の首根っこを引っ掴む。ついでにビニール袋に詰めた自分の服と崇徳院の眼鏡を回収し、道真公は将門公の領域を後にした。


「……笑いながら怒る人って怖いですね」

「口調が普段と変わらん分、猶更恐ろしいぞ、あの御仁は」


 二人が立ち去って暫く後。

豪快に響く雷鳴を聞きながら、将門公と桔梗は顔を見合わせた。


「それは良いとして――この大量の絵馬はどうする」

「んー、湯島天満宮に送っておきましょうか。着払いで。社務所から段ボール取ってきますね」

「頼んだ。ああ、それと天野屋でわらびもちを買ってこい」


 唐突な注文に怪訝そうな顔をする桔梗に、将門公はしれっと続けた。


「お前の頬で遊んでいたら食いたくなった」

「えええええ」


なんですかそれぇ、と抗議の声を上げる桔梗を手を振って追い払い、縁側に腰を下ろす。


「やれやれ。散々だったな」


 誰ともなしに将門公が呟くと、同意するように池の中心で鯉が跳ねた。

次いでばしゃばしゃと音を立てて、水面が乱れる。


「――迷惑料として餌をよこせ、だと? 食い意地が張っているな、お前らは」


 長い事つるんでいる知人たちと妻に聞かれたら、全員から「お前もな」と突っ込まれそうな台詞を呟き、将門公は縁側の下の籠から麩が入った袋を取り出した。

 ぱらりと麩を投じると、水面が激しく揺れる。

 静かで平穏、些か退屈ですらある時間が、再び戻ってきた。 

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