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一気に王殿まで辿り着くと、二人は馬を降り中へ入る。
把流のいる王の間へ。
彼を守る兵達も、凛とした壱与に手をあげることは出来なかった。
果して、彼はそこにいた。
まさに疾風怒濤の壱与達の行動に、衝撃と驚きで把流の顔面は蒼白だった。
自らが事を成して、一日も経たないのに、己の喉元に剣を突きつけられている状況に、思考は完全に麻痺していた。
「李惟、那仁!」
把流は側にいる呉と狗奴国の使者に助けを求め喚く。
「・・・これまでかと」
使者はそっけなく答えた。
「・・・なっ!」
使者たちは把流の絶句をよそに、自らの使命を果たすべく壱与を誅殺に襲いかかった。
彼女の前には難升米がいる。
「ふん」
気合の一閃。
使者たちは、あっという間に斬られて絶命した。
「・・・・・・」
言葉を失う把流。
「これまでだ。把流」
難升米は剣先を彼に向けた。
「王の座を降りなさい。把流」
壱与は言葉に魂を乗せる。
しかし、
「・・・お前に何が出来る。俺は・・・狗呼を殺し、やっと、やっと頂点に立ったのだ!それをお前が」
「奪ったものは、やがてその報いを受ける」
難升米は冷たく言い放った。
「嫌だ。嫌だ!」
把流は取り乱し、がむしゃらに剣を振り回し壱与に迫った。
難升米は身構える。
壱与は制して彼の前に立つ。
「・・・壱与様」
難升米は彼女の行動に驚く。
「俺は王になる!」
把流から振り下ろされた剣先が、壱与の髪をかすめた。
彼は力任せに剣を振り下ろし、前のめりに体勢がぐらつく。
刹那、壱与の平手打ちが、把流の頬を叩く。
「把流!」
壱与の平手の連打が始まった。
彼女は泣きながら平手を振りかざした。
それは今までの思いを込めた平手打ち。
ぽんと難升米は壱与の肩を叩く。
気がつくと、把流は気絶して倒れていた。
「お見事」
難升米は笑った。
壱与は我に返り顔を赤らめた。
それから、中央の制圧が終わると、壱与は邪馬台国の民に大号令をかけた。
かつて、卑弥呼が死を賭して立った神魂座に壱与は一人立つ。
目の前には、クニの民達が新しい女王を見つめている。
「みなさん。私が卑弥呼の後継者、新しき女王壱与です」
それまでの大王からの圧政から解放された、民達は地鳴りのような歓声をあげた。
民も待ち望んでいたのだ。
「しかし、戦はまだ終わっていません。すぐそこに、狗奴国、呉国が我がクニを狙っています。大将軍難升米!」
「おう!」
武装した難升米と邪馬台国の兵士は鬨の声をあげると、外敵を討つべく戦場へと向かった。
民達は迅速で勇敢な兵士たちの姿を見て熱狂の声をあげる。
軍の出発を見送ると、壱与は両手を広げた。
再び静まり返る民達に、
「私は必ず良い女王になるべく努力します・・・だから」
壱与は言葉を飲んだ。
「だから着いてきてください」
夜邪狗、張政、十六夜は眩しい思いで新女王を見つめていた。
民達からの歓声がいつまでも、このクニじゅうに響き渡った。
ここに新しい邪馬台国の真女王が誕生したのだった。
後、難升米は、狗奴国と呉軍の連合軍を国境まで押し戻し退けた。
地の利を活かした戦法で、先の大戦と真逆の事を彼はやってのけた。
国敵を退けた民達にとって、この勝利はそれまでの溜飲がさがる思いだった。
そして壱与の女王としての力が真であることが、広く知れた戦いでもあった。
それから幾年、月日は流れる。
邪馬台国に怒る数々の国難を乗り越え、ついに壱与たち邪馬台国は狗奴国を下し、倭国をひとつにまとめ、彼女は倭国を統べる女王となる。
壱与は、魏より贈られた鏡そして冠を戴冠し、名実ともに国内外で認められる女王となった。
これは遙か太古の昔、邪馬台国の女王だった壱与の物語である。
完
読んでいただき真にありがとうございます。
壱与の物語、読み直して、書いていましたが、正直、物足りなさを感じました。
おそらく8年くらい前に書いた作品とは思うのですが、時代考証とか言葉の使い方に自信なさげなのが伝わってきましたし、あと強引にまとめたなと(笑)。
あ~20代に書いたノート見つかればなあ。
あの頃の方が文は、思いが先走ったものでしたけど自信がありました。
なんて言い訳しておりますが、壱与の物語また機会があれば描きたいと思います。
なんせ、一時これは私のライフワークと思っていた時期がありましたから(笑い)。
でも、その情熱も年とともに・・・ですね。
また書きたい意欲でてきましたら、それかノートが見つかったら描いて投稿したいと思います。
本当に読んで頂きまして感謝、感謝です。




