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その28の3『手袋の話』

 冬という季節柄、知恵ちゃんのお父さんが帰宅した頃には、すっかり家の外は暗くなっていました。でも、降り積もっている雪に街の灯りが反射して、空は赤紫色に色づいています。知恵ちゃんのお母さんとお父さんが家の前の雪片付けを終えて戻り、脱いだジャンバーをストーブの近くへとかけています。


 「知恵。ターキー1つ食べきれそうかな?」

 「無理……」


 お父さんがビニール袋から取り出した骨付きの鳥肉は知恵ちゃんの顔ほどもあり、さすがに知恵ちゃんでは1つ丸々は食べきれそうにありません。そこで、ターキーは知恵ちゃんとお母さんで半分ずつ食べることになりました。その他にも、お母さんは唐揚げなども家で作っていて、クリスマスは鳥の料理でいっぱいです。


 「お父さんは少しお酒を飲むから、知恵はこれね」


 お父さんが冷蔵庫からビールを持ってきて、知恵ちゃんにも大きなビンを差し出します。それはシャンパンのボトルに似た形のビンでしたが、中身はサイダーなので知恵ちゃんも雰囲気だけはお父さんの晩酌にあわせます。ビンの栓もコルクなどではなく、ひねって開けられる金属のフタです。


 家の外には舞うように雪が降っていて、カーテンの隙間には降り続いている粉雪が見えています。テレビでは何時間もわたって音楽番組がやっており、今年の人気だった曲を歌手が代わる代わるに歌っています。それを見ながら夕食を済ませ、知恵ちゃんたちは最後にケーキを食べました。


 「木のケーキだ……」


 お父さんが冷蔵庫から取り出したケーキは茶色いロールケーキで、丸太の樹皮をイメージしてチョコレートが塗られています。ケーキの上には葉っぱを象った飾りがついていますが、それはプラスチックでできていて食べられないのでお父さんが取ってしまいます。お父さんがキレイなケーキを選んできたので、お母さんは売っていたお店を聞いています。


 「これ、どこで売ってたの?」

 「スーパーの中にあるケーキ屋さんだけど」

 「こんなオシャレなのあるんだね」


 ケーキの造形に感心しながらお母さんがケーキを切り分けると、中からはイチゴが出てきました。お母さんはイチゴが大きく入っているものを見て、それを知恵ちゃんに出してくれます。


 「ありがとう」

 「残りは、明日に食べよう」


 3人で一切れずつ食べてもケーキは半分ほど残っており、それは明日の分としてお母さんは冷蔵庫へと戻します。テレビ番組がコマーシャルに差し代わり、コマーシャルではサンタクロースがビンのコーラを飲んでいます。それを見て、知恵ちゃんはお父さんに聞きます。


 「うち、エントツないけど、どこから入るの?」

 「煙突はないけど、換気扇のダクトはあるから、そこじゃないかな……」

 「そうなんだ……」


 お父さんの自信なさそうな意見を聞き、知恵ちゃんはキッチンについている換気扇を見つめていました。



                              その28の4へ続く



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