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その27の6『川下りの話』

 知恵ちゃんと亜理紗ちゃんがベッドへ戻ってくると、2人分の重さでベッドの乗っているイカダがわずかに沈みます。このまま家に戻ることも出来そうですが、どうするのか知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに判断を任せました。


 「帰る?このまま乗っていく?」

 「この先、見てみたいけど」

 「……行ってみる?」


 川の先を見てみたいと亜理紗ちゃんが言うと、2人はドアを閉じて布団に入り直し、ベッドの上にかかっている橋の木目を見上げます。そんな2人の意思をくんだようにして、じっくりとした動きでイカダは川を進み始めました。


 「さっきより明るくなった?」

 「空が紺色だ」


 橋の下から出ると、亜理紗ちゃんは空の色が少しだけ明るくなっているのに気づきました。川上の方には紫いろの夜空が残っていて、川下へ向かうにつれて淡い水色へと変わっていきます。空の光を吸い込んで、川の水には光の泡がふくらみます。


 森の中から流れてくる曲も切り替わり、今は元気な歌声が聞こえています。そろそろ、寝る前に流したアルバムの曲も全て終了です。空の明るさに比例して、黒く影をつけていた森の草木も青い色へと変化していきます。あちらこちらへ視線を向けている亜理紗ちゃんが、今度は水の中を小さなものが流れていくのを見つけました。


 「魚だ」

 「どこ?」


 イカダの進む方と同じ向きへ、真っ白な魚の群れが泳いでいきます。その数は見る見る内に増えて、川の水を真っ白に変えていきます。森の木々は数を減らしていき、イカダが流れる川の幅も徐々に広がりを見せました。川の魚を見下ろしていた2人の頭上が、一瞬だけ暗くなります。それに気づき、2人は空を見上げました。


 「……」


 知恵ちゃんが寝る前に流したアルバムの歌が全て終了し、無音の訪れと共にイカダは神秘的な光を放つ湖へと出ました。もう、森から聞こえていた楽器の音も、花が出していた雨の音も聞こえません。川を泳いでいた魚たちは飛び跳ねて空へと登り、光のカケラとなって集まっていきます。そして、それは一つの大きな光となって空に浮かびました。


 「……」


 閉じたまぶたに光を受けて、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは一緒に目を覚ましました。カーテンの開いている窓からは乾いた太陽の光が差し込んでいます。もう、ベッドは知恵ちゃんの部屋へと戻ってきています。朝がやってきました。


 「ちーちゃん。今、何時かな?」

 「8時半くらい」

 「……もう少し寝よう」

 「うん……」


 現在時刻を確認すると、2人はカーテンを閉めて布団に入り直します。すると、ドアをノックする音がして、知恵ちゃんのお母さんの声が聞こえてきました。


 「亜理紗ちゃんの家からもらった果物、むいたから。起きてたらいらっしゃい」


 それだけ伝えると、お母さんの足音はドアの前から遠のいていきます。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは、ゆっくりと眠そうな身体を起こしました。


 「起きる?ちーちゃん」

 「うん」

 

 閉めたカーテンを開き直し、2人はベッドを降りて部屋から出ていきました。


                                その28へ続く


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