その24の4『おかしな話』
スゴロクを開始から15分ほど経ち、今は一位の亜理紗ちゃんと最下位の知恵ちゃんで30以上もマスに差があります。もう追いつくのは無理ということで、知恵ちゃんは降参を検討します。
「これ私、あとやって勝てる可能性ある?」
「ないよ」
「ないよ~」
「降参……」
亜理紗ちゃんがスゴロクを片付けはじめ、知恵ちゃんはお菓子を食べようと手をのばします。でも、鈴カステラが乗っている皿の爪ようじがシャッフルされていて、どれが自分の使っていた物か解りません。
「どれが私のだっけ」
「どれでもいいんじゃないの?」
「そうかな」
どれを使ってもいいと亜理紗ちゃんには言われますが、それはそれで気になるようです。すると、パッと何かを思いついた様子で表情を明るくし、百合ちゃんが亜理紗ちゃんに声をかけました。
「アリサちゃん。テープ借りていい?」
「いいよ」
百合ちゃんは青と赤と緑のテープを持ってきて、爪ようじの持つところに巻きつけてあげました。
「これで誰のか解りやすいっ」
「どれが私のなのかは解ってないんだけど」
「でも、かわいいよ~」
「どれ?わぁ、かわいいなぁ」
「おかしいなぁ」
結局、どの爪ようじが知恵ちゃんの使っていたものなのか解らないまま、赤いテープのものを亜理紗ちゃんが使い始め、百合ちゃんが緑のものを使い出した為、自然と青色が知恵ちゃんのものとなりました。
「知恵ちゃんと亜理紗ちゃん、いつも2人で何してるの?」
「……ちーちゃん。なにしてるっけ?」
「何かしてるってほどのことはしてない」
「えええ……」
一緒にいるだけで特に何もしていないので、知恵ちゃんは素直に答えます。そして、百合ちゃんからは困惑の反応をもらいました。逆に、今度は知恵ちゃんは百合ちゃんに質問します。
「今日、なんで百合ちゃんが亜理紗ちゃんの家にいるんだっけ?」
「えっと……今日は桜ちゃんが遊べないから、こっちに珍しくオジャマしてるの」
「さくピー、なんで遊べないの?」
「さくピー?」
スゴロクを片付け終わった亜理紗ちゃんがテーブルの近くへ戻ってきて、自然な動作で会話に参加します。ただ、桜ちゃんのあだ名が初めて聞いたものだったので、知恵ちゃんは不自然そうに聞き返していました。
「えっとね。桜ちゃんは部屋が汚いから、お母さんに言われて部屋の片づけをしてるんだ~」
「桜ちゃん、よく物をなくすからね」
「私、さくピーの部屋、行ったことない。どんな部屋?」
「物が多い」
「物が多い」
亜理紗ちゃんへ説明しようとするものの、それ以外の言葉が出来なかったのか知恵ちゃんと百合ちゃんの口から同じ言葉が出ました。
「でね。いつもは私が片付けるんだけど、今日は自分でやるって言うから……」
「なんで百合ちゃんが片付けてるの……おかしいでしょ」
「その方が早いし……遊びに行った時に物の場所が解って便利だし。私も好きでやってるからいいの」
「おかしいなぁ……」
「終わったら迎えに来てくれるんだけど……あっ」
「誰か来た!」
亜理紗ちゃんの家の呼び鈴が鳴り、亜理紗ちゃんがインターホンについているカメラの画面を見に走っていきます。その後、すぐに部屋へと戻ってきました。
「さくピー来たけど」
「あ、はいー」
「なんで桜ちゃんが……」
玄関先では桜ちゃんが待っていて、百合ちゃんと知恵ちゃんを見つけると少し照れたように手をあげました。
「よう。ここにいるって聞いてたから来ちゃった。片付け終わったから……ちょっと遠いけど、うち来る?」
「私、さくピーの家、行ってみたい!置き手紙とか戸締りするから、ちょっと待ってて!」
「じゃあ、私もカバン、持ってくるね」
亜理紗ちゃんと百合ちゃんが家の中へと戻り、玄関先には知恵ちゃんと桜ちゃんが残されます。今日、珍しく百合ちゃんと放課後に遊んで、それをふまえて思ったことを知恵ちゃんは桜ちゃんに伝えました。
「百合ちゃんって不思議だ……」
「え?そうかな」
「そう」
すると、ちょっとだけ言いにくそうな、言葉を選ぶような様子で、桜ちゃんが知恵ちゃんに言葉を返します。
「……でも、知恵も、そこそこ不思議な子だと思うんだ」
「え……そうなの?」
「わりとね」
「……亜理紗ちゃんには言われたことない」
「……マジか」
その25へ続く






