その23の2『雲と太陽と星と月の話』
知恵ちゃんと亜理紗ちゃんが自宅へ向かって歩いていると、何かを見つけた様子で亜理紗ちゃんは空を指さしました。
「あ、星だ」
「どこ?」
亜理紗ちゃんは一番星を見つけたつもりだったのですが、それは少しずつ空の中を泳いでいきます。そのあとには、うっすらと白い道筋も残っていました。
「飛行機なんじゃない?」
「飛行機か」
それでも亜理紗ちゃんは飛行機の行方が見えなくなるまで、ずっと空の彼方へと目を凝らしていました。その後、草だらけの空地などを通って家へと帰り、家の前で別れる時になって亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに提案をしました。
「ちーちゃん。今日、ご飯を食べたら、うちの庭に来ない?」
「なんで?」
「星とりしよう」
「星とり?」
虫捕りにでも誘うような口ぶりで、亜理紗ちゃんが星をとってみたいと言い出します。いつもの知恵ちゃんなら無理と一言で片づけてしまうのですが、今日は雲をつかんだ場面に出くわしたばかりなので、雲のように星もとれるのではないかと試してみることになりました。
「でも、星……取れるかな?」
「一応、星をとる道具も持ってきてね」
そんな約束をして2人は解れ、星とりに使えそうな道具を家で探したり、家族で一緒にご飯を食べたりしていました。夜の七時半ごろになり、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは家の人に行き先を告げてから、亜理紗ちゃんの家の裏手にある庭へと向かいました。
「ちーちゃん。なに持ってきた?」
「おはし」
「おはし?」
虫捕りアミや虫かごを持ってきた亜理紗ちゃんとは違い、知恵ちゃんは割りばしとビニール袋、それとアクセサリーの紫色の石しか持ってきておりません。庭から見上げた夜空には星が点々と輝いていて、大きな月も雲に隠れることなく光っています。亜理紗ちゃんは虫捕り網を高く伸ばすと、そっと風を送るようにして軽く振ってみました。
「あ、何か入った気がする」
アミの中に何か入った手ごたえを感じ、亜理紗ちゃんはアミをおろしてのぞきこみます。しかし、そこには灰色の石がパラパラと入っているだけで、宝石のように光る星は見当たりませんでした。
「ちーちゃん。これなんだろう?」
「……さぁ」
今度は知恵ちゃんが箸を持ち上げ、その先を空の星にあててみます。知恵ちゃんは箸の先で星をすくいとってますが、つまみとった星も地上へ降ろすと一瞬で光を失ってしまいました。星の光を失ったのを見て、2人は灰色の小さな石の正体が星だと気づきました。アミの中に残った星を見つめながら、亜理紗ちゃんは不思議そうにつぶやきます。
「なんで光らなくなるんだろう」
「……月がないからじゃない?」
「そっか!じゃあ、月も取ろう!」
そう思い立つと、亜理紗ちゃんは虫捕り網やカゴを地面に置き、空に登っている月へと手をのばしました。でも、一人で月に手をかけてみても、それを簡単には引き下ろすことはできません。
「ちーちゃん。手伝って」
「う……うん」
知恵ちゃんが亜理紗ちゃんの手に触れ、2人で一緒に月を引っ張ります。すると、空に浮かんでいた重そうな月が、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの手に包まれて目の前へと降りてきました。しばらくは指の隙間から見える月の光に2人とも目を細めていましたが、その輝きもほんの数秒で儚く消えていってしまいました。
「あぁ……」
重くて丸い、灰色の石へと変わってしまった月を見て、亜理紗ちゃんは残念そうな声を出します。星も月も地上では輝けないと知り、知恵ちゃんは空に戻すよう亜理紗ちゃんに勧めました。
「かわいそうだから、戻す?」
「……もどそう」
知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは2人で力をあわせて、月を元あった場所へと持ち上げました。すると、元気をなくしていた月は星の光を浴びて、再び白い光を取り戻します。それから、2人は取った石を一つ一つ、空の光が空いている部分へと返していきます。10分くらいすると、家の上空にはキレイな星が戻っていました。
「アリサ。何か見つかったの?」
「あ……お母さん」
手をのばせば届きそうな星空を見つめている2人へ、家の開いた窓から亜理紗ちゃんのお母さんが声をかけました。亜理紗ちゃんが静かに首を横に振ります。
「そう。そろそろ家に戻ったら?知恵ちゃんも、もう遅いから、心配する前に家に戻った方がいいんじゃない?」
「わかりました」
亜理紗ちゃんのお母さんに言われて、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんも自宅へ帰ることに決めました。その後、2人は家の前で別れる前に、ふと自分たちが空へと返した星たちを見上げます。その星たちの光は先程よりも少しだけ丸くなっていて、どこか仲良さそうに、安心しているように2人の目には映りました。
その24へ続く






