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その20『ボウシの話』

 学校の授業が全て終わり、知恵ちゃんは廊下で友達の桜ちゃんや百合ちゃんとお話をしています。そこへ、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんを迎えに来ました。


 「ちーちゃん。お待たせ」

 「あ、アリサちゃん、ボウシなの?かわいい」


 今日の亜理紗ちゃんは珍しくボウシを被って登校していて、それに気づいた百合ちゃんが可愛いとほめています。知恵ちゃんの通っている学校には通学用のボウシがない為、黄色いボウシをかぶっている一年生以外は、あまりボウシを被っている生徒はいませんでした。


 「アリサちゃん。なんでボウシなの?」

 「へへ」


 一緒に登校してきた知恵ちゃんもボウシには気づいていましたが、なぜ被ってきたのかまでは聞いていなかったので、不思議そうに亜理紗ちゃんへと問いかけました。亜理紗ちゃんはボウシをとって逆さにすると、何も手のひらに入れていないことを見せてから、ボウシの中へと手を隠しました。そして、1……2……3の合図で手を引き抜きました。


 「はい!消しゴムが出てきました!」

 「……最初からボウシに入れてたんでしょ?」

 「……あ。それ、昨日のテレビの手品?」

 

 ボウシから出てきた亜理紗ちゃんの手には、小さな消しゴムが握られています。亜理紗ちゃんは手品をマネしたつもりなのですが、知恵ちゃんは仕掛けが解っているので驚きません。そんな二人の様子を見て、桜ちゃんは昨日のテレビでやっていたマジックを思い出しました。


 「桜ちゃんも見た?」

 「見た」

 「ちーちゃんは見てない?」

 「見てない」

 「そっか。ちーちゃん、残念」

 「残念じゃないよ」


 知恵ちゃんの家の人たちはドラマを見る割合が多いのに対し、亜理紗ちゃんの家の人たちはバラエティ番組を見る傾向にあります。桜ちゃんは人気の芸能人が出演しているものはなんでも見る子なので、クラスでテレビの話になると桜ちゃんが色々と説明をしてくれるのでした。


 学校の前で桜ちゃんと百合ちゃんと別れ、いつもと同じように知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは2人で家へと帰ります。すでに亜理紗ちゃんは帽子を頭に乗せておらず、中に手を入れたり、帽子を裏返しにしたりして遊んでいます。


 「アリサちゃん。ボウシなんて持ってたんだ」

 「昨日、探したらあった」


 すでにボウシはオモチャになっており、亜理紗ちゃんは被る素振りを見せません。そうして家の近くまで歩いていくと、亜理紗ちゃんは何か見つけた様子でしゃがみこみました。その様子を後ろからのぞきつつ、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに尋ねます。


 「なに?」

 「……見ててね」


 亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの前でボウシを広げると、中からタンポポの綿毛が舞い上がりました。亜理紗ちゃんは嬉しそうに飛んだ綿毛を見ているのですが、知恵ちゃんは綿毛だらけになったボウシを見ています。またしても、あまり良いリアクションをもらえなかった為、亜理紗ちゃんは困ったように笑っています。


 「ちーちゃん。なにが出てきたらビックリするの?」

 「……虫」

 「それは私もビックリする」


 そんな会話を2人がしていると、亜理紗ちゃんの持っているボウシの中から一羽の青い鳥が飛び出しました。なにが起こったのか理解する間もなく、青い鳥は大空へと飛び立っていきました。


 「……」

 「……」


 驚いた表情のまま鳥を見送り、2人はボウシの中を確認します。しかし、中には何も残っておりませんでした。

 

 「……アリサちゃん。どうやったの?」

 「わかんない」


 試しに亜理紗ちゃんがボウシへ手を入れてみます。すると、中に何かあったようで、その手触りを知恵ちゃんに伝えました。


 「……ツルツルしたのがある」

 「なに?」

 「わかんない」

 

 アリサちゃんがボウシから手を出すと、その手には虹色に輝く美しい石が握られていました。宝石店でも見たことのない不思議な石を目の当たりとして、すぐに亜理紗ちゃんは石をボウシの中へと戻しました。


 「……なんで戻したの?」

 「……高そうだったから、持ち主に返した」


 再びボウシの中を見てみても、もう先程の宝石は残っていません。色々なものがボウシから出てきたのを見て、亜理紗ちゃんはアニメで見たアイテムを例えに出しました。


 「あれかな?何でも出てくるポケット」

 「アニメの?」

 「それそれ」


 また何か出てこないかと、亜理紗ちゃんは帽子の中に手を入れて探っています。そして、知恵ちゃんに何を取り出すか質問しました。


 「なんでも出てくるかもだけど」

 「なんでも?」

 「……お金とか」

 「……お金はダメでしょ」

 「ダメ?」

 「ダメだよ……昨日、ドラマで言ってた」


 お金を取り出そうとする亜理紗ちゃんを前に、知恵ちゃんは昨日のドラマに登場したお金に目が眩んだ人を思い出しました。そして、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんからボウシを取り上げると、それを亜理紗ちゃんに被せてあげました。


 「こっちの方がいいよ」

 「そう?」

 「かわいい」


 亜理紗ちゃんの髪に綿毛がついているのを見つけ、それを取ってあげると知恵ちゃんは先に歩き出しました。まだ亜理紗ちゃんはボウシで遊びたそうにしています。でも、もう亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに被せてもらったボウシを取ることなく、ボウシをかぶったまま家まで帰りました。



                               その21へ続く



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