その19の2『冬と砂漠の話』
まず、2人は家の前にある車道をながめてみました。そこには車の通ったあと線引かれていて、土で茶色く汚れた雪が転がっています。知恵ちゃんも亜理紗ちゃんも冬グツを汚したくはなかったので、小さな雪山をふみ越えて亜理紗ちゃんの家の庭へと移動しました。
亜理紗ちゃんの家の花壇があるのですが、それらが埋もれるくらい雪は降り積もっています。お花や野菜の葉っぱがありそうな場所をさけながら家の裏側へ行くと、そちらには小さな芝生の庭があります。今日は芝の緑も白色に隠れてしまっていて、キレイな白いじゅうたんが完成していました。
「ちーちゃん。ここは?」
「すごいキレイ」
2人は雪の上に足を乗せて、ゆっくりと体重をかけてみます。雪の潰れる音がググッと鳴って、押し込んだ足の下には、くっきりとした足あとができあがりました。それを見て二人は嬉しそうなのですが、ふと知恵ちゃんは何かに気づいた様子で雪の上を指さしました。
「あ……アリサちゃん。あれ」
「どれ?」
知恵ちゃんの指さした方向には小さな肉球型の足あとがついており、それは亜理紗ちゃんの家の庭を点々と横断していました。知恵ちゃんは近づいていってネコの足あとを見つめると、そのまま無気力に庭の雪山へと体を倒しました。
「ネコさんは、かわいいけど、一番じゃなかった」
「ちーちゃんは、一番がいいの?」
「雪をふむのは一番がいい」
ネコの歩いたあとは気に入ったようですが、雪をふむのが一番でなかったことを知恵ちゃんは残念そうにしています。亜理紗ちゃんも知恵ちゃんの横に寝転んで、ぼんやりとしたくもり空を一緒に見上げました。
大きなワタにも似た雪が空から降り続いていて、立ち込めた雲の間には少しだけ青空が見えています。吐く息は真っ白な色をつけて、まるで雲が口から出ているいるようです。そんな中、亜理紗ちゃんが冷たくなった自分のほっぺたをさすりながら言いました。
「ちょっとだけ、夏になってほしいよね」
「ちょっとだけ?」
「一ミリだけ」
「一ミリだけ?」
一ミリだけ夏、という尺度について解らないまでも、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの言いたい事をニュアンスで理解した様子です。そんな二人の近くに亜理紗ちゃんのお父さんがやってきました。
「……アリサ。雪の上で寝たら凍っちゃうからね」
「あっ、お父さん。わかった」
それだけ伝えると、亜理紗ちゃんのお父さんは温かなお茶の入った水とうを亜理紗ちゃんに渡して家に戻っていきました。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは上半身を持ち上げると、すわった姿勢でお茶を飲みながら、空高くから降り続けている雪を観察していました。
その19の3へ続く






