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その16の2『待ちあわせの話』

 その内、公園で遊んでいた子供たちもいなくなってしまい、もう公園にいるのはベンチに座っている知恵ちゃんと、高校生くらいの女の人の2人だけです。あまり公園は広くなく、ブランコなどもないため、他に座るところはありません。なので、知恵ちゃんは緊張した様子で背筋をのばしたまま、ベンチから動かずに体をかためています。


 「……」


 女の人が本に視線を落しているのを知り、また知恵ちゃんは女の人の方をうかがいました。女の人はブレザーの制服を着ていて、どちらかといえば線の細い体型をしています。スカートは長めにしてつけており、でも人を近寄らせない冷めた雰囲気を漂わせていました。


 ふと、ベンチの前にハトが飛び降りてきました。それに気づき、知恵ちゃんと女の人は同時に前を向きました。ハトは人を怖がることなくベンチへと近づき、女の人の足元をゆっくりとした動きで歩いています。


 知恵ちゃんが女の人の顔を見ると再び視線が合い、どちらも自然と公園の時計に目をやりました。その数秒後、女の人の持っている携帯電話のようなものが鳴り、ハトは音に驚いて飛び去って行きました。


 「……」


 女の人は鳴った携帯電話を確認し、そのまま本もカバンへとしまいました。そして、知恵ちゃんに聞こえるだけの小さな声で話しかけてきました。


 「それ、綺麗な石だね……」


 声は隣のベンチにいる知恵ちゃんまで聞こえていて、それは知恵ちゃんのカバンについているキーホルダーのことを差しているのは明白でした。でも、知恵ちゃんは知らない人と話してはいけないと普段からお母さんに言われているので、少しだけ体を震わせながら言葉を聞き流しました。


 「……じゃあ、返事はしなくていいから。お話させてね」


 知恵ちゃんに無視されても女の人は不愉快な様子はなく、一人で知恵ちゃんの方を見ずに話を続けます。


 「あなた、元気?私は、そこそこ」

 「……」

 「一人でも出かけるし、人付き合いも悪くないつもり……」

 「……」


 そこまで言うと女の人は一旦、うつむいて、それから知恵ちゃんの方を見つめて問いかけました。


 「今日は、アリサちゃんは一緒じゃないんだ?」

 「……え」

 「ごめんねー!待たせちゃった!」


 知恵ちゃんがパッと女の人の方を向くと、そのタイミングで公園の外から別の女の人が走ってきました。来たばかりの女の人は待っていた女の人とは違う制服を着ていて、性格も不釣り合いなほど明るく、少し響くほど大きな声でした。


 「そんなに待ってないよ」

 「そっか。じゃあ、行こう」


 女の人はカバンを持って立ち上がると、元気な女の人と一緒に歩きだしました。その途中で、ふと知恵ちゃんの方を振り返り、控え目に手を振りました。知恵ちゃんは何か聞きたげな表情をして、でも何も言えないまま2人の後姿を見送りました。

 

 「ちーちゃん!ごめん!アニメ、返してきた!」

 

 2人と入れ替わりで亜理紗ちゃんが公園へと駆け込み、あわてた様子で知恵ちゃんを迎えに来ました。ぼーっとしていた知恵ちゃんはまばたきをしながら亜理紗ちゃんの姿を見つめていましたが、ベンチから立ち上がると自然と亜理紗ちゃんと向き合いました。


 「そんなに待ってないけど」

 「そっか。じゃあ、行こう!」


                                   その17へ続く


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