その101『異世界の話』
「ちーちゃん。帰ろう」
「うん」
帰りの会での先生のお話が終わり、生徒たちは帰宅を始めます。図書室で本を読んでいた知恵ちゃんのところへ亜理紗ちゃんが迎えに来て、いつものように2人は足をそろえて帰路へとつきました。
「……もうちょっとで4年生だけど、ちーちゃんと同じクラスになるかな?」
「4年生はクラス替えないらしいよ」
「そうなの?」
通学路には幼稚園があり、知恵ちゃんよりも小さな子どもたちが、お母さんと手を繋いで歩いています。季節は春も間近。小学校にも新入生がやってきますが、今年はクラス替えがないようなので、2人の生活に変化はなさそうです。
「アリサちゃん。部活動は、どうするの?」
「やりたい部活はないよ」
「よかった。私も」
4年生になると、部活動に入ることができます。知恵ちゃんは通学路の途中にある家にサッカーボールを見つけ、部活動の話を亜理紗ちゃんに振ってみます。でも、亜理紗ちゃんはスポーツに特別な興味はなく、部活にも入る予定はない様子です。知恵ちゃんは安心した顔をして、自分もそうだと告げました。
今日は天気がよく、空は晴れ渡って青色に広がっています。やや雪と寒さは道に残っていて、2人は薄手の上着をはおっています。
「あっ。ワンちゃんだ!」
亜理紗ちゃんは下校途中、犬を見つけては立ち止まってみたり、大きな木を見上げては立ち止まってみたりと、家に続く道をゆっくりと歩いています。その後ろを、同じ歩幅で知恵ちゃんもついて行きます。
「……?」
「ちーちゃん。どうしたの?」
もう少しで家が見えてくるという曲がり角まで来て、知恵ちゃんは家がある方とは別の道へと目を向けました。亜理紗ちゃんも知恵ちゃんの視線を辿ってみますが、おかしなところは見当たりません。そちらを指さして、知恵ちゃんが言います。
「何か走っていった気がする」
「……なにかな。行ってみよう」
帰宅の道を少し外れて、行き止まりのある路地へと進んでいきます。曲がり角へと踏み込みます。すると、見えていた街並みは途端に姿を消し、霧の濃い森が目の前に広がりました。まばらに立つ木々の中で、枝に阻まれて見えない空をあおぎ見ます。
「ちーちゃん。ここ、来た事ある?」
「たぶん……」
初めて不思議な世界へ迷い込んだのは、たしかこのような場所だったと、ぼんやりながらに2人は思い出していました。そんな森の中に、火のような赤いものが走っているのを見つけます。
「あっ。キツネさんだ!」
亜理紗ちゃんの声に耳を立て、真っ赤な毛のキツネさんが2人へ目を向けます。亜理紗ちゃんがしゃがみ込み、キツネさんと目線をあわせます。以前は怖がって近づかなかった知恵ちゃんも、今度は自分からキツネさんに手を差し出しました。
「……」
キツネさんもゆらゆらと歩み寄って、キラキラした目で2人を見上げました。そのふさふさした毛に、ふわりと知恵ちゃんは手を乗せます。
「また会えた」
「ちーちゃん。会いたかったの?」
「うん」
前に会った時からずっと、知恵ちゃんはキツネさんに再会したいと考えていました。それが叶い、その存在を確かめるようにして、2人はキツネさんの頭をなでてあげています。キツネさんも知恵ちゃんと亜理紗ちゃんの手の温かさを受け止めています。そうして触れあっている中で、どこからか女の子のような声が聞こえてきました。
「君たち、また会いに来てくれたの?」
「……」
耳に届いたのは、誰の声なのか。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは顔を見合わせます。そして、目の前にいるキツネさんへと顔を向けました。
「……ちーちゃん。キツネさん、しゃべった?」
「……しゃべれたんだ」
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