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その96の4『スポンジの話』

 「知恵ちゃん。今日、遅く家を出たの?」

 「うん。ぬれたから着替えてきた」


 遅刻の恐れはなかったものの、いつもより少し遅めに知恵ちゃんは学校へと到着しました。クラスメイトの百合ちゃんに理由を聞かれますが、庭のスポンジから水が飛び出してきたなどとは説明できず、無難に言葉をにごします。なお、友達の桜ちゃんの服も少しぬれており、教室の窓を流れる雨水を心配そうに見つめていました。


 「本当に午後はやむのかな……」


 そんな桜ちゃんの不安をぬぐうように、お昼休みには雨は上がってしまいました。空は晴れ晴れとはいかないまでも、うすい曇り空を透かして太陽の光がうかがえます。帰り道は、もうカサを差さずに歩けます。


 「まだケーキあるかな」

 「……外に置いてきたやつ?」

 「そっちじゃない……」


 知恵ちゃんは家の冷蔵庫のケーキのことを考えており、亜理紗ちゃんは外で雨に打たれていたスポンジを思い出しています。家に到着するや否や、亜理紗ちゃんは置き去りのスポンジを確認しに行きました。


 「……」


 スポンジらしきものに変化はありません。しかし、よく見るとスポンジの置かれている周囲のみ地面がかわいています。また触ると水が吹き出すと考えて、亜理紗ちゃんは濡れてもいい服に着替えてこようと提案します。


 「ちーちゃん。ぬれていい服ある?」

 「水着?」

 「そうだ。下に水着を着よう」


 知恵ちゃんは家に帰ると、お母さんに水着があるか聞いてみました。


 「お母さん。水着ってある?」

 「え……なんで?」

 「アリサちゃんの家で水で遊ぼうかって……」

 「それは……やめておいたら?」


 理由をうまく説明できなかったせいで、水で遊ぶことについては賛成をもらえず、やめるように注意されてしまいます。


 「ちーちゃん。水着あった?」

 「水遊びやめてって言われた」

 「私も言われたんだ」


 水で遊ぶのはやめなさいと言われても、スポンジには触ってみたいのです。どうすればぬれずにスポンジに触れるのか、2人は考え始めました。とりあえず、亜理紗ちゃんはバケツを手に持ってみるのですが、それをかぶせてしまうと水は防げてもスポンジには触れません。


 「……これは?」

 「……?」


 亜理紗ちゃんの家の壁に、雪かきに使う大きなスコップが立ててあるのを知恵ちゃんは発見しました。これを使えば、遠くからスポンジを押すことができると考え、2人は協力してプラスチック製のスコップを持ちあげます。水が飛び出ても防げるよう位置を調整し、スコップの先端をスポンジに乗せます。


 「ちーちゃん……いっせの」

 「……え?」


 亜理紗ちゃんが合図を出すことを告げるより早く、知恵ちゃんがスコップを下にグッと押し込みます。スポンジからはじけ出た水が、スプリンクラーの散水にも似て広がり、ドーム状に庭をおおいます。2人はぬれずに済みましたが、庭に咲いているお花はキラキラと水を浴びています。


 「まだ出そう」

 「ちーちゃん。いっせのせ」

 

 スコップを持ち上げて、再び押しつけてみます。しぼったすぐあとなのに、また同じくらいの量の水が飛び出しました。面白いので、何度も何度もスポンジをしぼります。4回。5回。ついには30回。いくらしぼっても、スポンジからは大量の水があふれます。


 「……」

  

 手のひらサイズのスポンジにはバケツ何杯分どころか、お風呂に溜められるほどの水が含まれていて、しぼってもしぼっても水が出てきます。このまましぼり続けたら、花壇が水浸しになってしまいます。庭を心配し、そろそろやめようかと知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに相談します。


 「もうお花が水だらけになる……やめる?」 

 「……」


 亜理紗ちゃんは近づいてスポンジらしきものをながめます。表面にはつゆが乗っており、まだまだ余力が感じられます。しばらく亜理紗ちゃんは悩む様子を見せていましたが、自分の信念に従って答えを出しました。


 「ちーちゃん。私、負けたくない……」

 「え……スポンジに?」


その96の5へ続く

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