その94の2『魔法少女の話』
諦めずに何度も杖をふるいますが、知恵ちゃんが振ればキレイに光る杖も、なぜか亜理紗ちゃんが持つと木の枝でしかありません。そこで、主役の魔法少女は知恵ちゃんにゆずるとして、仕方がなく亜理紗ちゃんは別の役を演じることにしました。
「じゃあ、ちーちゃんが魔法使いね。私、怪獣やる」
「怪獣やるの?」
「ちょっと待ってて」
オモチャのコンパクトと杖を知恵ちゃんに返し、亜理紗ちゃんは何かを探しに部屋から出て行きました。家の壁越しに、亜理紗ちゃんと亜理紗ちゃんのお母さんの会話が聞こえています。しばらくすると、亜理紗ちゃんは大きな布とボウシを持って戻ってきました。
「これと、これを着て」
「……」
黒い布は肩にはおるように巻きます。一緒に持ってきた日よけの大きなボウシも黒色です。それを身につけた知恵ちゃんは、さながら魔女の風貌となりました。一方、亜理紗ちゃんもタンスからパジャマを取り出し、チャックを下ろして服へと足を入れていきます。
「……アリサちゃん。寝るの?」
「カエルさんパジャマに着替える」
緑色のパジャマはキグルミのように上下がつながっており、そのフードにはカエルさんの目がついています。それを着てカエルにふんした亜理紗ちゃんは、新聞紙を丸めたものを手に持って、改めて知恵ちゃんと向き合いました。
「私、宇宙から来た怪獣のアリサウルス!その杖をわたせ!」
「はい」
「……ちーちゃん。わたしたらダメだよ」
「ええ……」
渡せと言われて渡したのに、そうしたら亜理紗ちゃんに注意されてしまいました。もう劇は始まっているので、自分の役になりきらなくてはなりません。それぞれ自分の立場を考え直し、少し恥ずかしそうにしつつ亜理紗ちゃんも再び演技を開始します。
「アメリカから来た怪獣のアリサウルスだ!杖をわたせ!」
「なんでアメリカにしたの?」
「宇宙は、ちょっと言い過ぎだと思ったの……今だ!新聞攻撃!」
アメリカから来た怪獣のアリサウルスが、つつ状にした朝刊で攻撃してきます。どうしたらいいのか解らず、ひとまず知恵ちゃんは攻撃を杖で受けます。すると、勢い余って杖の先っぽが折れました。
「アリサちゃん。折れた……」
「……まだ光る?」
「……光る」
「……先が折れたから、これで攻撃力が弱くなったのだ」
知恵ちゃんが試しに杖を振ってみたところ、杖の折れたところから小さな光が発せられました。使う分には問題ないと見て、亜理紗ちゃんは拾った杖の先っぽをポケットに入れつつ、怪獣としての仕事を再開します。
「じゃあ、ちーちゃん。魔法を使って」
「魔法?どんな魔法があるの?」
「オモチャの白いボタンを押すと言ってくれる」
知恵ちゃんはオモチャのコンパクトを開き、言われた通りに白いボタンを押します。アニメの女の子の声で、魔法の名前と説明が聞こえてきます。
『ときめきファイアーよ。悪い怪獣をやっつけられるわ!』
「と……ときめきファイアー」
「……アリサウルスは悪い怪獣じゃないから、きかないんだけど」
杖の先は光るだけで、必殺技なんて出ません。亜理紗ちゃんも自分を悪い怪獣だと思っていないので、やられてもくれません。むしろ、わざわざポーズまでとって技を出した知恵ちゃんの心のダメージの方が大きそうです。
「ちーちゃん。別の技を出して」
「う……うん」
白いボタンを押し直してみると、今度は別の魔法が紹介されました。
『どきどきサンダーよ。どんな怪獣もしびれさせちゃう!』
「ど……どきどきサンダー」
「アリサウルスは無敵だから、サンダーはきかないんだけど」
どうすれば亜理紗ちゃんを倒せるのか、ただのごっこ遊びに知恵ちゃんは頭を悩ませました
その94の3へ続く






