その94の1『魔法少女の話』
「アリサちゃん。これなに?」
今日は何で遊ぼうかと、亜理紗ちゃんがおもちゃ箱を探っています。その中から出てきたピンク色のコンパクトらしきものを見て、その正体を知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに尋ねています。
「これ?これはね……小学生の時に買ったアニメのおもちゃ」
「今も小学生でしょ……」
これは亜理紗ちゃんが小学1年生の時に放送されていたアニメのグッズで、電池を入れるとピカピカと光るコンパクトです。開くと中には鏡が貼ってあって、実際に顔を映すこともできます。
「遊ぶ?」
「いや……」
「電池あったかな」
何年も前に見たアニメのカードも出てきてしまい、亜理紗ちゃんは懐かしさからオモチャを起動させたくなったようです。単三電池を机から探し出して、オモチャの裏ブタを開けます。亜理紗ちゃんが電池を入れるのに手こずっているので、プラスとマイナスの向きを見て、知恵ちゃんが入れてあげました。
「……!」
ピロピロと音楽が鳴り始め、コンパクトの中に並んでいるプラスチックのボタンが色とりどりに光り出します。数秒で音は止まりましたが、ボタンだけはピカピカと点滅しています。壊れたのではないかと、知恵ちゃんが亜理紗ちゃんに視線を向けました。
「今はクイズのモードだから、さっき光った順番にボタンを押せばクリアなの」
「全然、おぼえてない……」
「じゃあ、もう一回」
コンパクトを閉じて開き直すと、また音楽と共にプラスチックのボタンが光を発しました。あちこちのボタンが12回も光り、押すボタンだって8個もあります。さすがに知恵ちゃんには順番をおぼえきれません。
「む……難しくない?」
「……」
知恵ちゃんの手元にあるコンパクトへと手を伸ばし、亜理紗ちゃんが玉を押していきます。正解の順番でボタンを押します。アニメの女の子の声で『やったね』と声が出て、またコンパクトからは音楽が鳴りました。どうして、あれをおぼえられたのかと、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの顔を見ます。
「……天才なの?」
「何回やっても、おんなじ順番だからおぼえてるの」
亜理紗ちゃんから種明かしがあり、知恵ちゃんはコンパクトの秘密に納得してフタを閉じました。それをおもちゃ箱に戻そうとしたところで、ふとオモチャではないものが箱から出ているのを知りました。
「アリサちゃん……枝が入ってるけど」
「これ魔法の杖だ」
箱にさしてあるものは、見たところ普通の枝です。太さは適度で手によく馴染み、茶色い樹皮もはがれずに残っています。それを亜理紗ちゃんは右手に持つと、左手でコンパクトのボタンを押して開きました。
「まじかるまじかるるるるっるるるんるん~」
「なんかそれ、聞いたことある」
亜理紗ちゃんの唱えた呪文を聞き、知恵ちゃんも数年前に少しだけ見たアニメの記憶がよみがえってきました。杖とコンパクトを手渡し、知恵ちゃんにもやってみて欲しいと言います。
「はい」
「……はずかしい」
口では消極的なのですが、杖の握り心地が思いのほかよかったせいで、知恵ちゃんもやってみたい気持ちが出てきました。うろおぼえながら、呪文を口にします。
「まじかるまじかるるるんるんるるる」
「……」
開いたコンパクトからは音楽と光があふれます。それと、なぜか杖の先からも小さな光が発せられました。それに気づいて、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは杖の先についた豆電球のような光を見つめました。すぐに光は消えてしまいます。
「……消えた」
「……ちーちゃん。貸して」
枝の先についていた光は消えてしまいましたが、自分でもやってみたいとばかり亜理紗ちゃんはコンパクトと杖を返してもらいました。知恵ちゃんの言った呪文を思い出しながら、マネして杖を振り上げます。
「まじかるまじかるるるんるんんん」
光りません。知恵ちゃんの時は光った杖が、亜理紗ちゃんの呪文では全く光りません。
「……まじかるまじかるるんるるるんるん」
再チャレンジします。でも、やっぱり杖は光りません。コンパクトの音楽が止まり、呆然と亜理紗ちゃんは枝の先を凝視します。そして、再び力を込めて杖を持ち上げました。
「ま……まじかるまじまじかるんるるんるる」
「アリサちゃん……」
その94の2へ続く






