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その79の1『外国語の話』

 「ちーちゃん。今日、ひま?なにか用事ある?」

 「忙しくはないけど」


 学校からの帰り道、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに漠然とした誘いを持ちかけました。何をして遊ぶのか、どこか遊びに行くのか。亜理紗ちゃんの言葉を待ちますが、亜理紗ちゃん自身も少し説明に困っています。


 「なんかね。家の横に、変な穴があるんだけどね。もにょもにょって音がしてて気になる」

 「変な穴?」

 「ぽわぽわってした穴で、昨日からあるんだけど」


 そうした難解な詳細を共有しつつも、2人は家の前まで到着しました。ランドセルを置きに帰るより先、亜理紗ちゃんのいう変な穴を見ていくことにします。穴のある場所は庭や花壇がある壁の方でなく、ブロック塀と雑草しかない、人一人が通れるくらいのせまいスペースです。そこには虹色に光る四角い穴があり、聞きなれないアクセントとリズムをまとって音が鳴っています。


 「アリサちゃん。こんなところにある穴、よく見つけたね」

 「この裏に、私の部屋があるから。朝になると、音が聞こえてくるんだ」


 眠る時には静かなので怖くありませんが、いつも陽が登ると音が聞こえてくるので、その原因を究明するためにも亜理紗ちゃんは知恵ちゃんにつきあってほしいのです。ランドセルを背負ったままではせまいので、家で準備をしてから戻ってこようと決めます。


 「じゃあ、ちーちゃん。ランドセル置いたら、ここ来て」

 「ビスケット食べてきていい?」

 「いいよ」


 おやつを終えてから、2人は変な穴の前に戻ってきました。穴の向こうに何があるのかと、目を細めながらのぞいてみます。穴からは虹色のベールが浮かび出していて、でも穴の向こう側は見えてきません。もにょもにょとした音は途切れ途切れ、穴の中からにじみ出してきます。


 「これ、聞こえてくるのなんなんだろう」

 「楽器じゃない?」

 「なんの楽器?」

 「それは知らない」


 知恵ちゃんは楽器だと予想を立てますが、その音の合間や末尾には法則性があるような、意味がありそうな、でも今一つ確信は得られません。中に入れはしないかと、亜理紗ちゃんは光に手を当ててみます。


 「入れない」

 「穴じゃないんだ」


 指でこすってみても、押してみても、反応はありません。しかし、とんとんと指で叩いてみたところ、穴の奥から聞こえていた音はピタリとやみました。


 「……?」

 『ミョミョミョ……ミョッミョミョ……ミョミョ……』

 

 今までは遠くから聞こえていた音が、はっきりと聞こえる近さまで近づいてきました。輪ゴムをはじいたような、どこかグネグネとした音です。。音には節々に強弱がついており、やや音階の異なる別の音も鳴り響いています。


 「……ちーちゃん。これ、電話の音みたいなものかな?」

 「電話?」

 「……もしもしー?」


 会話を始める合図なのではないかと考え、亜理紗ちゃんも穴に向けて声を発しました。その呼びかけを受けて、また音は聞き入るように静かになり、やや時間をおいて呼びかけが返ってきました。


 『ミョミョッミョ……ミョミョ……』


 亜理紗ちゃんも知恵ちゃんも両腕を組んで、なんの音なのかと首をひねっています。今度は少し低めの音で、先程と全く同じ音がしました。


 『ミョミョッミョ……ミョミョ……』


 さっきよりも、やや音は大きくなっていました。どのように反応しようかと悩んだ末、亜理紗ちゃんは1つ返事しました。


 「……みょですか?」

 『ミョ……』

 

 短めに1つ音が聞こえ、光の穴はふさがってしまいました。


 「……」


 もうすっかり光は消えて、今は何の変哲もない家の壁があるだけです。2人は日陰から出て、家の前へと移動しました。そして、亜理紗ちゃんは光の穴があった場所を振り返り、正体が明らかにならず残念とばかりにつぶやきました。


 「みょじゃなかったか……」

 「……みょってなんなの?」

その79の2へ続く

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