その70の2『氷の話』
入手した小さなツララを何に使うわけでもなく、亜理紗ちゃんは先の方から少しずつポキポキと折り始めました。バラバラになったツララは、雪山の上に並べられていきます。
「あ……折るんだ」
「折ると気持ちいいんだ」
ツララで遊び終わった亜理紗ちゃんは自分の家の前にバケツを見つけ、降り続く雪の寒さも忘れてバケツをのぞいています。バケツの中の水は表面が凍りついており、手袋をつけた手で押してみると奥から水がしみ出してきました。
「ちーちゃん!氷のフタだ!」
バケツの表面の凍った部分だけ取り出し、亜理紗ちゃんは丸い氷の板を手に入れます。自分の顔ほどもあり、それで亜理紗ちゃんが顔をかくして遊んでいます。
「割ろう」
「割るんだ……」
「んん?」
両手で持って割ってしまおうとしたところで、亜理紗ちゃんは氷の中に何か入っているのを発見しました。氷の緑色になっている部分をこすって霜をとり、うすぼんやりと中に見えている葉っぱを天にかかげました。
「葉っぱが冬眠してる」
氷の中にある葉っぱは時を止めたように形を固めていて、太陽の光を受ければ芸術品のようにも見えます。うまく葉っぱの入っている場所だけを残して氷を割り、雪山の上につきさしてかざります。
「ちーちゃん。オシャレじゃない?」
「まあ」
葉っぱのオブジェをながめている2人でしたが、空から降り続く雪足は強まるばかりです。ジャンバーやニットのボウシが雪だらけになってしまったので、雪だるまになる前に家の中へ入ることにしました。
「じゃあね。ちーちゃん」
「うん」
家の中はお母さんが温めてくれていて、部屋にランドセルを置くとすぐに知恵ちゃんはリビングへと向かいました。ストーブに近づくと熱すぎるので、犬のモモコに寄り添って体温を分けてもらっています。
「……お母さん。アイス食べていい?」
「いいけど、寒くないの?」
「もう寒くないから平気」
サイダー味のアイスの中にバニラアイスが入っているものを冷凍庫から取り出し、モモコに取られないようテーブルに面したイスの方で食べます。ふとテレビへと目を向けると、各地で催されているイルミネーション企画の特集が組まれていて、暗い風景に大量のライトが光り輝いていました。
「……お母さん。こういうの、どこにいけば見れるの?」
「今年も、スキー場でやってるっていってたよ」
知恵ちゃんの家からスキー場までは車に乗れば遠くはなく、以前にもスキー場のイルミネーションを見に連れて行ってもらったことはあります。ただ、テレビで紹介されているものとは全く規模が違い、道沿いに豆電球が少し吊るしてあるくらいのものです。テレビに映っている雪と光の幻想的な風景へ、知恵ちゃんは眠そうな目を向けていました。
その翌日、学校はお休みです。寒さも相まって朝も早く起きれず、朝の9時頃に知恵ちゃんは目をさましました。
「……?」
家の近くに積まれている雪山の前で、亜理紗ちゃんが何かしているのが見えました。そこは昨日、亜理紗ちゃんが葉っぱの氷をさした場所なのですが、葉っぱの氷はすでに雪に降られてうまってしまっています。
「なにしてるの?」
「あっ。ちーちゃん」
今は雪も小降りなので、小さく窓を開けて知恵ちゃんは呼びかけてみました。2階の窓なので少し距離はありましたが、亜理紗ちゃんは気づいて返事をくれます。
「雪の中に何かあるんだけど……」
「……なにが?」
「こういうの」
亜理紗ちゃんが雪の中へ手を入れて、ロープらしきものの先端を引っ張り出します。それが何かは知恵ちゃんにも解りませんが、先端に葉っぱのような毛がついた、細い尻尾らしき形をしていることは確認できました。
その70の3へ続く






