その12の1『流れ星の話』
今日は花火大会があります。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの家は花火会場である海から近く、亜理紗ちゃんの家の2階のロフトからは打ち上げ花火が見えます。小学校の立っている角度が理由で知恵ちゃんの家からは花火が見えないので、夜になると知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの家へ遊びに来ました。
「こんばんは」
「ちーちゃん。ごはん食べた?」
「もう食べた」
知恵ちゃんがお母さんと一緒に亜理紗ちゃんの家へ行くと、すでに遠くでは花火の音が聞こえていました。亜理紗ちゃんも知恵ちゃんが来る前に夕食を終えていて、すぐに2人は花火が見える2階のロフトへ向かいました。
お母さんたちはリビングで話をしているようなので、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと2人で花火をながることにしました。2階にあるお父さんの部屋からハシゴを登り、ロフトにある小さい窓をのぞくと、ちょっとだけ空が近く見えます。
夏なのでクーラーはつけてありますが、ロフトまでは冷たい風が届きにくい為、亜理紗ちゃんのお母さんがロフトに小型の扇風機をつけてくれていました。扇風機の向きを亜理紗ちゃんが調節していて、知恵ちゃんは窓ガラス越しに花火を探しています。
「今は光ってないけど、休憩時間?」
「ちーちゃん。花火って何時まで?」
「8時まで」
知恵ちゃんが部屋の掛け時計を見ると、短い針はは7時をまわったところです。亜理紗ちゃんのお父さんの部屋の電気はつけたまま、亜理紗ちゃんはロフトの電気を消して窓におでこを押し付けました。
「……今、光った!」
亜理紗ちゃんが花火を見つけ、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんに肩を押しあてながら小さな窓をのぞきこみました。ドッという花火の音が聞こえ、それに続けて赤と黄色の花火が幾つも広がります。丸く広がる花火は大小あれどキレイに開き、たまに出てくるキャラクターの形をしたものは、そういった絵柄なのか角度が悪いのか、やや楽し気に歪んで夜空へ浮かびました。
「ここに麦茶、置いていくね」
「あ。ありがとう。お母さん」
「飲み終わったペットボトル、ここに置いといていいからね」
「ありがとうございます」
ふと下から声をかけられ、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは花火から目を離しました。亜理紗ちゃんのお母さんがペットボトルの麦茶を持ってきてくれて、はしごを登った上にある手すりの隙間に置いてくれます。部屋から出ていくお母さんにお礼を言うと、2人はペットボトルを窓のふちに置いて再び花火を鑑賞しました。
しだれ桜のように下まで光が落ちるもの、大量に小さい花火が光り輝くものなど、様々な種類の花火が打ち上げられ、最後には他の花火より何倍も大きなものが打ちあがって、盛大に花火大会は締めくくられました。
「……ちーちゃん。さっきので終わり?」
「たぶん」
「……」
もう花火は見えませんが、なごり惜しそうに亜理紗ちゃんは空を見上げています。うすく残っていた煙も次第に流れゆき、夜空には花火の代わりに星が輝き始めました。飲み終わった麦茶のペットボトルを知恵ちゃんが見つめていると、急に亜理紗ちゃんが前のめりの姿勢で声を出しました。
「流れ星だ」
「流れ星?」
流れ星は素早く流れ、知恵ちゃんの目には映ることなく消えました。二人で流れ星を探しますが、その後は何分たっても、流れ星を発見することはできませんでした。
「……ちーちゃん。きっと星は、さっきの花火に撃ち落されたな」
「……そうかもしれない」
その12の2へ続く






