その57の1『お掃除の話』
「……ちーちゃん。なにあれ?」
「……?」
今日は亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの家に遊びに来ており、それぞれお題を出し合いながら絵を描いて遊んでいました。ふと、亜理紗ちゃんは不思議なものを発見したとばかり知恵ちゃんに呼びかけます。知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの指先を視線でなぞり、本棚の上にいる何かを見つけます。
「……?」
本棚の上に置いてある小物の間をぬうようにして、おまんじゅうくらいの大きさをした透明な生き物が移動しています。その生き物の体は透明ですが、体に当たった光が屈折していて、透けた向こうがガラスににじむようにして映っています。動きは非常に遅く、じっくりと見つめないと動いていることが解りません。
「ちーちゃん……これ、かたつむりじゃないの?」
「かたつむり?」
見た目は丸くて気持ち悪さはありません。亜理紗ちゃんにカタツムリと言われると、その動きは似ているようにも感じられます。知恵ちゃんは机の上に置いてある紫の石が光っているのを見て、また別の世界から変な生き物が迷い込んできたのだと考えました。
「なにしてるんだろう」
「何もしてないんじゃない?」
亜理紗ちゃんは何をしているのかと疑問を抱いていますが、知恵ちゃんからすれば何をしているようにも見えません。悪さをする様子もなく、カタツムリのような生き物は本棚の上で、じっくりと気持ちよさそうに動いています。部屋に変な生き物がいては落ち着かないので、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは生き物を家の外に出そうと考えました。
「ちーちゃん。下敷きある?」
「どうするの?」
亜理紗ちゃんは本棚の上にある置物などを勉強机へと移動させ、はいまわっている生き物の行き先に下敷きを置きます。生き物が下敷きに乗ったタイミングで持ち上げ、落とさないように気をつけながら亜理紗ちゃんは部屋を出ていきます。
「このまま外まで持って行くね」
「ありがとう……」
知恵ちゃんが玄関のドアを開き、亜理紗ちゃんは下敷きを持ったまま外へと出ます。日光を浴びた生き物はキラキラと輝いていて、体の中にも細かな光が散りばめられています。家の近くにある石垣の上に謎の生き物を逃がし、亜理紗ちゃんは軽くなった下敷きを知恵ちゃんに返しました。
「……ちーちゃん。カタツムリの中に、何か入ってない?」
「……?」
石壁の上で動いている生き物を観察します。亜理紗ちゃんの言う通り、ジェルのような質感をした生き物の中には、ちらほらと何かが入っていて、体を動かすにあわせて内部を漂っています。それはどこか、ラメを散らしたスノードームにも似ており、家の外で見る分には知恵ちゃんもイヤな顔をしません。
「あー。ちっちゃくなっていく」
透明なカタツムリは水が蒸発するように、段々と体を小さくしていきます。あわてて亜理紗ちゃんが手で日陰を作ってあげますが、熱さや光が原因ではないらしく、いつしか亜理紗ちゃんの手の下で生き物は姿を消してしまいました。
「いなくなった。キレイだったのに……」
「ちょっとキレイだったけど……部屋にいても困るし」
生き物の姿はなくなってしまいましたが、苦しむ動きなども見られなかった為、元の世界に帰ったのだと2人は考えました。透明なカタツムリがいなくなったことを残念そうにしながらも、下敷きだけを持って部屋へと戻ります。2人は気を取り直して、テーブルの上に置いてある描きかけの絵へと手をつけました。
「……ちーちゃん」
「……?」
「……あれ」
亜理紗ちゃんが本棚の上を指さします。そちらへ知恵ちゃんは目を向けます。そこには、さっき外へと持ち出した生き物が戻ってきており、歩き残しを探すようにして体を動かしていました。
「……またいる」
その57の2へ続く






