その36の1『ブラックホールの話』
「知恵。どんな感じ?」
「こんな感じ」
学校のお昼休み、知恵ちゃんと桜ちゃんと百合ちゃんの3人は牛乳ビンのフタに絵を描いて、オリジナルのメンコを作っていました。給食で出た牛乳のビンのフタを洗って乾かし、上から押して平らにするとメンコとして遊ぶ事ができます。桜ちゃんが知恵ちゃんのメンコの絵をのぞいているのですが、何の絵を描いているのか当てる自信を持てずに困惑しています。
「……カニ?」
「うちのモモコなんだけど」
「知恵ちゃん。それ、カニさんだよ~」
知恵ちゃんはメンコに犬のモモコの顔を描いたつもりでしたが、桜ちゃんから見ても百合ちゃんから見てもカニにしか見えません。どこがおかしいのか教えてもらいつつ、知恵ちゃんは消しゴムで絵を修正していきます。そうしている内、つい手がすべって知恵ちゃんは消しゴムを落としてしまいました。
「……あっ」
消しゴムは音もたてずに机の下へと落ち、知恵ちゃんはイスからおりて探し始めます。机やイスの下には落ちておらず、桜ちゃんや百合ちゃんの足元へと捜索の手を広げます。そんな、なかなか見つからない様子を見て、桜ちゃんも一緒にしゃがみこみます。
「知恵。見つかんないの?」
「なくなった……」
「あんなに大きいやつなのに……百合、そっちない?」
「うん。探すね」
机の下の周辺を3人で探していきますが、消しゴムは一向に見当たりません。知恵ちゃんの消しゴムは桜ちゃんに言われるほど大きく、それなりに見た目は目立つ物です。結局、お昼休みが終わるまでに消しゴムを発見できず、桜ちゃんは自分の消しゴムを少し切って知恵ちゃんにあげました。
「とりあえず、これ使って」
「ありがとう。見つかったら返すね」
「返さなくていいよ……」
午後の授業が無事に終了し、放課後になると知恵ちゃんは消しゴムを再び探し始めました。そこへ、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんをクラスまで迎えに来ます。先に桜ちゃんと百合ちゃんの姿を見つけて近づいたところ、机の下に知恵ちゃんを見つけて亜理紗ちゃんはビックリします。
「わ……ちーちゃん。なにしてるの?」
「消しゴムがなくなった」
「昼休みからないんだよね」
そう桜ちゃんに聞き、亜理紗ちゃんも知恵ちゃんの机の近くを見回します。そして、一人で何か納得したように言いました。
「これ。また、ちーちゃんブラックホールだ」
「ちーちゃんブラックホールってなによ……」
「ちーちゃんブラックホールは、ちーちゃんの近くにあるものが急になくなるブラックホールです。たまに、よくあるの」
亜理紗ちゃんの解説を受けて、なんとなく思い当る節があったらしく、桜ちゃんと百合ちゃんは知恵ちゃんを見ながら頷いています。このままでは帰る時間が遅くなってしまうので、桜ちゃんと百合ちゃんは先に教室を出ることにしました。
「ごめん。私たち、先に帰るけど、見つかんなかったら明日は手伝うね」
「知恵ちゃん。じゃあね~」
「うん。じゃあね」
2人が帰るのを見送り、亜理紗ちゃんも知恵ちゃんと一緒に教室を見回ります。もうクラスの生徒は大多数が帰っていて、残っている生徒は数えるほどです。
「ちーちゃんの、あれ。高いんだっけ?」
「350円」
「高い……」
値段が高いと知ってしまい、すると亜理紗ちゃんも消しゴム探しに熱が入ります。そうしてしゃがみこんでいる2人を見て、同じクラスの凛ちゃんが知恵ちゃんに声をかけました。
「チエきち!何かないの?」
「うん」
「探すの手伝ってあげよっか?」
「いい」
知恵ちゃんにお断りされてしまい、かといって引くに引けず、凛ちゃんは顔を真っ赤にしながら、覇気のない声で泣きながら怒っていました。
「……なによ!もう!」
その36の2へ続く






