その35の5『ホットケーキの話』
「アリサちゃんも、バナナいる?」
「それはいいけど、ちーちゃん……一体、何を」
「巻く」
知恵ちゃんはホットケーキの真ん中にバナナを置いて、ホットケーキの両端を持ち上げてはさみ込みます。隙間へとチョコクリームを塗り込み、さらにホイップのクリームでフタをしていきます。知恵ちゃんがホットケーキで別の料理を作り始めた為、亜理紗ちゃんも手を止めて見守っています。そこまでできあがったところで、知恵ちゃんは次の手を考えて悩み始めました。
「ん……あと、どうしよう」
「ちーちゃん。マーマレードは?」
「チョコとマーマレード、あう?」
「わかんないけど」
「……やめとく」
ここで味の組み合わせに失敗すると、数日は落ち込むのが目に見えています。知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの提案を避けて、マーマレードを入れるのは遠慮しました。
「じゃあ、チョコのつぶ、入れてあげるね」
「ありがとう」
チョコとチョコならあうはずと、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの料理のクリームの上にチョコスプレーを振りかけてくれます。それと交換で、今度は亜理紗ちゃんがホイップクリームをもらい、ホットケーキを縁取るようにしてクルクルと飾り付けていきます。
「……あっ。もこもこホットケーキだ」
「ひつじさんホットケーキ」
亜理紗ちゃんが何を描いているのか解らなかった知恵ちゃんも、ホイップクリームを塗られたことで正体を知り得ました。それは下校中に知恵ちゃんが想像していた、もこもこ羊のホットケーキにそっくりです。
「2人とも、できたの?」
「できた」
「はい」
知恵ちゃんのホットケーキは、いっぱいに具が入っていて、見た目はクレープのようです。フォークでさして食べるのは難しいので、サンドイッチと同じく手で持って食べます。こぼれる程にクリームが乗っており、少し触っただけでもはみ出してしまいます。
亜理紗ちゃんのホットケーキは表面にチョコクリームを塗ってあり、チョコスプレーで羊さんの目や鼻が描かれています。羊さんの顔を囲むようにしてホイップクリームが乗せてあって、それが白くて柔らかい毛を表していました。
知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは自分のホットケーキを見て、それぞれ満足した顔をしています。そんな2人のホットケーキを見比べて、知恵ちゃんのお母さんは少しだけ困ったような顔で評価を出しました。
「2人とも。ホットケーキ、性格が出たね」
「私は、たくさん食べたい」
「私は可愛いのがいい」
知恵ちゃんは手に持ったホットケーキのはしっこから、遠慮なく口へと含んでいきます。ホットケーキが大きすぎて、知恵ちゃんの小さな口には入りきらず、まるで自分の手に押し込まれているように見えます。一方、亜理紗ちゃんは羊さんホットケーキを前にして、フォークとナイフを持ったまま手を迷わせていました。
「アリサちゃん。どうしたの?」
「ちーちゃん……これ」
「……?」
「かわいいから食べれない……」
「……ちょっと待っててね」
可愛く作ってしまったせいで、なかなかフォークとナイフを入れることができません。そんな亜理紗ちゃんの相談を受けると、知恵ちゃんはホットケーキをお皿に置いて、速足で部屋を出ていきました。しばらくして、知恵ちゃんは自分の部屋からカメラを持って戻ってきます。
「お母さん。撮ってちょうだい」
「はいはい」
ホットケーキを食べ終えてお皿を片付けていたお母さんへカメラを渡し、知恵ちゃんは自分のホットケーキと亜理紗ちゃんのホットケーキを並べます。
「撮るよ?知恵。いい?」
「うん」
お母さんがカメラで撮った写真を画面で見て、キレイに撮れていることを確かめます。そうして知恵ちゃんは再び手を洗ってから、亜理紗ちゃんと一緒に安心してホットケーキを食べました。
その36へ続く






