思わぬ展開
嫌な予感が全くなかったとは言わない。
――新しい職場でイケメンと再会、とかあるかもしれませんよ。そしたらもう運命ですよね。
何気ない会話の中で後輩がはずみで漏らした言葉。そんな都合のいいことあるわけないと思った。思っていた。
鈴木龍之介。
この男の顔を見るまでは。
発端は半月前、営業の本田さんに声をかけられたとき。
「もう次の仕事は決まってるの?」
何気なくかけられた言葉に、その時まだ仕事を決めかねていたあたしは正直に答えたのだ。
「いえ、まだ決められなくて……」
派遣会社からの紹介はあった。でもどちらもピンと来なくて何日も保留にしていた。早く決めないとほかの人に決まるってわかっていても、なかなか決められなくて、もういっそのこと派遣じゃなくて求人応募しようかと思っていたくらい。
それを言うと本田さんは、
「ちょうどよかった。私の知り合いの会社で事務員を探しているんだけど、どう?」
「本田さんのお知り合い、ですか?」
「うん、そう。なんだか急に人が辞めちゃったみたいで。山田さんの働きぶりも知ってるし、勝手だけどちらっと話はしてあるの」
さすがは女だてらに社内でトップクラスの成約率を誇る営業さんだと感心してしまった。「話はしてある」という時点でなんとなく断れない雰囲気を作り出している。
返答に困ったあたしの考えていることなんて、きっと彼女にはお見通しで、
「あ、でも無理にっていうわけじゃないのよ。もしよかったらって思って」
あわてた様子で付け加えるところも予想済みといった様子で、なんとなく居心地が悪い。
「とりあえず、ええと、お話だけでも伺っていいですか」
ため息をこらえてそう言うと、ほっとしたように本田さんが笑った。
「よかった、そう言ってもらえて」
いや、そう言うしかないような話しぶりだったから。
まあ一つの候補として聞いておく分には悪くない。
「知り合いっていうのが設計デザインの会社を経営しているんだけどね。あ、会社って言っても従業員三人の小さなところなんだけど、さっきも言ったけど、つい最近経理の子が急に辞めちゃって困っているの。事務だから残業もめったにさせないし、金銭面では今と同じくらいは出すって言ってくれているし、悪い話じゃないと思うんだけど……」
ここぞとばかりに営業モードで喋りだす本田さん。やばい、本気で売り込もうとしている。
質問を挟む余地もないくらいに滑らかなその喋りは立て板に水どころか渓流のごとくよどみない。向かいの千紗もポカンとした顔でただ流れに身を任せるしかない様子。
「……で、どう?」
期待たっぷりの瞳で押し切られ、結局あたしはそのお知り合いの会社に話を聞きに行くことになった。




