モラトリアムの終焉 2
久しぶりに包まれた父の腕は、もう怖くなくなった。ゆっくりと身を退かれたら、今日のところはそれで話を終わりにするつもりなのだと思っていた。
「落ち着いたか?」
そう問う声に含まれた過剰な気遣いは、望に軽い疑問を浮かばせた。自分は最初から動揺などしていない。
「大丈夫」
「そか。ほんなら、ちょいソファで落ち着こか」
父にそう促され、ソファに腰を落とす。くつろいでしまえば寝てしまうと言った張本人の面差しに浮かんだのは、疲れに混じって睡魔とは違う別の何かを漂わせていた。
「お前は、芳音のどこまでを知っている?」
「え、どこまでって」
望には穂高の質問の意味が解らなかった。伏目がちに望の挙動を伺う目は、明らかにこちらの何かを推し量っている。結局望がだんまりを決め込むと、穂高は苦々しく目を閉じて自分の両膝に肘をついた。その先に頭を乗せて俯く姿は、何かを考えあぐねて葛藤しているように見えた。
「あいつに自傷癖があることを知っているか」
「ジ、ショウ、ヘキ?」
ジショウヘキという言葉の漢字が思い浮かばない。望は初めて聞く言葉に小首を傾げた。
「自らを傷つける、癖。原因は人によりけりだが、芳音の場合はストレスなどの外的要因のほかに、遺伝的な要素も否定し切れないと藪先生が診断している」
芳音が初めてその兆候を見せたのが中学一年生のとき。それぞれの小学校区が集まる中学校で、小学校のときと同じように家庭の事情をからかう生徒がいたらしい。
「克美が小学時代のからかいを心配して芳音に極真空手なんぞを教えたせいで、逆に相手を叩き潰すことが出来なかった。握った拳は、そのままコンクリートの壁に向かった。生活指導の教師が複数で取り押さえたときには、手指の骨折と手首から肘に掛けての筋切断だったそうだ。学校へは愛美さんが代理で赴いた。克美には友人とふざけていて階段から落ちたことにした」
「うそ……荒れていた、とは聞いていたけど、学校をサボってマナママのところに入り浸っていたとか、そんな程度のことしか、私、聞いてない」
望が幾分か震えた声でそう答えると、穂高は予測どおりと言いたげに大きな溜息をひとつついた。
「弁解と言われたら返す言葉もないが、望には泰江がついてるからと安心して、そっちに気を取られていた。それについてはお前に申し訳なかったと今でも思う」
そう前置きした穂高から話されたのは、当時の守谷家の状況を愛美から聞いた穂高が業を煮やして藪を訪ねた、ということ。赤木が医師免許を取得したのも説得に有利な条件になると考えた穂高は、彼の名前で克美の正式な診断書を出して、芳音の保護者として不適任だと証明しろと迫ったらしい。
だが、藪は即答で穂高の命令に近い提案を断った。その理由が。
『攻撃性が内へ向いてるのは、保守的な母親らだけから教育されて来た結果でしかない』
『辰巳の遺伝子を引き継いでいる芳音に同じ気質がないとは言い切れない。そんな彼を、元来向こうっ気の強い穂高が引き取ったらどうなるのか、容易に想像がつくだろう』
「――ってな、辰巳のカルテを見せられて、そしたらもう引き下がるしかなかった」
「辰巳さんのカルテ……って、何が書いてあったの」
望が尋ねた途端、穂高の表情が苦痛でゆがんだ。苛立つ彼の手が煙草に伸びる。望はそれに釣られて立ち上がり、カウンターから灰皿を取って穂高の前に差し出した。
「今で言うところの、パーソナリティ障害。当時はその分野の研究が浅くて、特に日本では概念自体が認められていなかった。藪先生の独学の末に出した“可能性”としての診断だがな。幼少時の虐待が引き金になる場合もあるらしい」
症状としては、慢性的空虚感、自傷などの自己破壊行動、二者択一の二極思考、他者との分離不安、ほか。
「ただし辰巳の場合は、パーソナリティ障害と断定しかねる要素もあったらしい」
ちり、と煙草の焼ける音が無駄に鼓膜を刺激した。穂高の声が少しだけ遠くなる。自分の心が次に発せられるであろう言葉を拒否したがっているのだと、望は他人事のように声の遠い理由を分析した。
「辰巳ほどではないとはいえ、芳音にも似た兆候があった。中学生にしては自己確立が曖昧過ぎる点、繰り返される自傷、そのくせ克美には絶対にバレないよう細心の注意を払う冷静さも持ち合わせていた。克美に内心では反発しつつ、分離不安も抱えていたのだろう、というのが藪先生の見解だ」
そんな芳音を、望は知らない。いつも笑ってバカを言って、そして時々泣き虫で。
「芳音は、芳音よ。辰巳さんじゃない」
やっとの思いで出した反論が、あまりにも抽象的な希望的観測でしかない。言った望自身が心許ない心境にまで追い込まれた。
「当然や。環境的要因がゼロやったさかい、道を外れずにここまで来れたと思っている。が、辰巳と克美の間に生まれた芳音を抱え込むということは、爆弾を抱えるに等しいということ。お前に言われるまでもなく、俺は芳音を充分に客観視した上で反対している。なぜなら」
――お前に、一生その爆弾を抱えていく覚悟などあるはずがないからだ。
「爆弾……かく、ご」
おうむのように穂高の言葉を繰り返す自分が情けなかった。なぜ即答しない、ともうひとりの自分が憤る。その一方で、綺麗事を言えるわけがないと言い訳も浮かぶ。
「人ひとりを抱え込むには、並大抵の覚悟では済まへん。今聴いたばかりの上、二十歳にも満たないお前にそんな覚悟があるとは到底思えん」
並大抵ではない覚悟を決めて翠を――心の病を抱えた人を支えて来た父の言葉は、深く、重い。そして切実な思いとともに望の心に圧し掛かった。
「正直、あまりにもこっちの予想からは斜め上をいかれていたさかいに、百パーセント感情抜きにした上での反対とは言われへんのかも知れん。せやけど、それを差し引いたとしてもお前と芳音の意向を汲む心境にはなられへん。今はそれが俺なりの返答や」
どちらを優先するしないと比べられないほど、どちらも我が子として幸せに暮らして欲しい。よくある親の願いの言葉。内情にそんな想いを上乗せされて、ずしりとした重石のように望を沈めた。
「お前に芳音は荷が勝ち過ぎる。甘やかして来た俺と泰江の責任ではあるが」
公正な目で見守って欲しいという要望には、これまでと変わらずにいることで応えているつもりだ、と話を締めくくられた。
「すぐに納得する必要はない。無理やり感情を殺したところで、お前まで壊れるだけや。ただ、闇雲に反対しているわけじゃないことだけ解っといてくれたら、それでいい」
小さな少女を慰めるように、大きな手がくしゃりと望の頭を撫でた。
「芳音には、感謝してる。俺に望を返してくれた。だからこそ、認められん。いずれあいつの悔やむときが来る。俺は、自分のせいでと悔やむ芳音を見たくもないし、辰巳を失くした克美のようになっていく望も見たくない」
ぬくもりが望の頭から遠ざかる。
「どちらにも、幸せになって欲しい。お互いを犠牲にすることなく、な」
俯いたままの望を残し、穂高はテーブルからグラスを手にして立ち上がった。遠のいてゆく父の気配。キッチンから水の流れる音がする。
(幸せに? 芳音がいないのに? 犠牲って、何?)
父の言葉を反すうしても、納得出来ない自分がいた。
(確かに自分の知っている芳音がすべてではない。だけど、それは全部“決まっている”ことなの?)
そんなことを、一体誰が決めたのだ。そんな理不尽な憤りが渦巻く。誰がそんなシナリオを作っているのか。それは過去の経験や別の人の生き様から得た情報。可能性は可能性であって、確定事項ではない。芳音自身は、これまでどうだったのか。望は圭吾や綾香、愛美など、知る限りの人からの情報を必死で辿った。
(ああ、そうか。アレのことだ。きっと、それもパパの言っていることのひとつ)
ひとつの芳音自身にあった出来事を思い出した望はようやく寝室へ戻り掛けた父を呼びとめることが出来た。
「パパ」
「あ?」
怪訝な声に弾かれ、顔を上げる。見上げた先でいたわるような視線を向ける穂高のまなざしが、望の目にはひどく不敵で傲慢なものに見えた。
「綾華姉ちゃんとケイちゃんは、私たちのこと、知ってるの」
あくまでも感情を出さずに淡々と告げる。咄嗟に思い浮かばなかった名前の主を思い出そうとしているのか、穂高の顔がわずかにゆがんだ。
「ケイちゃんは芳音と幼馴染で、中学まではずっと芳音と仲が悪くて喧嘩していたくらいなの。だけど今は芳音の親友よ。綾華姉ちゃんも、私たちのこと知ってから私の知らない芳音のことを教えてくれた」
昨年の春、十二年ぶりに再会した芳音は、望と別れて綾華や圭吾と合流したあと、堕ちた望の自業自得なのに「自分のせいだ」と自分を責めて自分を傷つけた。それがたった今穂高から聞いた病気に関係する行為だとは知らず、でもその事実だけは望も知っていたと穂高に伝えた。
「でも、私が信州で過ごした夏から今まで、芳音は一度もそんなことをしてないわ。克美ママに作り笑いすることもなくなった、ってマナママも言っていた。ちゃんと親子喧嘩するようにもなった、って。綾華姉ちゃんは“ありがとね”って言ってくれたわ。パパが芳音のお陰で私が私に戻れたって思うなら、パパが芳音をそういう風に受け留めたままでいるのなら、私がそれを変えてみせる。私を私にしてくれた芳音に、同じものを返したいの」
気づけば望はソファから立ち上がり、ためらうことなくまっすぐに父と対峙していた。見上げていたせいで上がっていた顎が必然的に引く格好になる。虚勢が本物の自信に変わったと自覚した途端、自然と望の面に笑みが浮かんだ。
「パパ。昨日まで不治の病だったものが、たったひとつの新薬で不治の病ではなくなることなんて、いくらでもあるじゃない。可能性イコール確定、ではないのよ」
――芳音にとって辰巳さんがマイナスの可能性なら、私はプラスの可能性になりたい。
「未来は自分で作るものだと思う。だから私も芳音も、欲張ることにしたの。欲しいものは全部、手に入れる。誰かを犠牲になんかしない形で」
そう宣言する望とは対照的に、穂高の表情が苦々しげに曇った。ゆるやかな弧を描く望の唇から紡がれたのは。
「すぐ納得して欲しいなんて思ってないわ。無理強いしても、パパの心配が増えるだけだもの。ただ、闇雲にのぼせ上がっているわけじゃない、ってことだけ知っていてくれたら、それでいいの」
父の言葉をそのままなぞらえた。どんな思いで絞り出したのかを承知の上で。笑んだ口許とは裏腹に、まなじりから切実な想いが伝い落ちた。
「心配してくれてありがとう。でも、ママがそうだったように、最後まで諦めない自分でありたいの。お母さんみたいに、守り続けたいの。……芳音は、ママやお母さんにとってのパパと同じくらい、私にとって大切な人だから」
それが穂高への殺し文句になった。
「勝手にしい。せやけど、俺の目が黒いうちは絶対に認めへん」
言い終わるよりも先に背中を見せた父は、近所迷惑なほど大きな音を立てて寝室に閉じこもった。望は、父が耳たぶまで赤くなったのを見過ごさなかった。ただ、怒りで赤らめたのか、望の率直な言葉に照れた赤なのか、そこまでは解らなかった。
戸締りを済ませて自分の部屋へ。レポートの続きをする精神力がもう残っていなかった。パジャマに着替えて携帯を片手にベッドへ潜る。時刻は深夜の一時になろうとしていた。
「今日はバイトがあった日だし、まだ起きてるかな」
以前よりはマシになったものの、どうしても自分からコールする勇気がない。都合が悪いだけと頭では解っていても、「今はちょっと」と通話を断られるのが怖い。それは相手が芳音に限ったことではないのだけれど。
『コールしてもいい?』
結局、自分との折り合いの結果、メールでこちらからアクションを掛ける選択に落ち着いた。そしてほどなくマナーモードにしている携帯電話が震えた。
(芳音のこういうところが、すごく好き)
自分で思い浮かべた言葉に望自身が恥ずかしくなって、通話ボタンを押す直前に小さな溜息が零れ落ちた。
『ナイスタイミングー! 俺も電話しようと思ってたとこ』
耳をすませば、いつもと変わらない声。穂高の懸念を笑ってしまえるくらい、元気で快活な芳音の明るい声。望の口許が自然とほころび、いつもどおりの穏やかな落ち着いた声で答えることが出来た。
「なに?」
『おま、用事がなかったら電話しちゃダメなのかよ』
拗ねた声が、望のくぐもった笑いを誘う。
「そうじゃなくて。私、大した用事で電話しようとしたわけじゃないから、そっちの用事が先かな、と思って」
『大した用事じゃない、って?』
「うん、この間の騒ぎのこと。もう腫れは引いたかな、って」
騒ぎとは、先日、辰巳にゆかりのある人を一緒に訪ねたときのことだ。辰巳が東京に戻ってから会った人物を一緒に訪ねた。とあるホストクラブのオーナーが辰巳の知り合いだったらしいが、その店のフードコーディネーターがこうありたいと思う望の夢を先往く人だったのだ。その道の人として憧れてもいたので、その人に会えればと思って同行した。その際に色々と誤解が誤解を呼んでのひと悶着があり、結果的に芳音が面会相手をブチ切れさせて渾身の力で頬を殴られた。
『ああ、うん。もう全然へーき。あのくらいなら圭吾としょっちゅうやり合ってたし、怪我のうちに入らないじゃん』
そう言って照れくさそうに笑う。だがついさっき耳に入れたばかりの情報が、芳音のそんな声にフィルターを掛けた。
(演技なのかな。隠してる、のかしら……?)
ぐるぐると回るそれらの疑問は、望に顔をしかめさせた。
「ここだと、藪先生に診てもらうことが出来なくて不便でしょう。ほかに処方されている薬もあるんじゃない?」
そんな形で不審を孕んだ疑問を解消しようと足掻いてみる。
『へ? 別にないよ。なんで?』
問い返して来る声に濁りや焦りはない。では、藪は本人に無断で経過観察をしていた結果を穂高に伝えたということなのか。
「今日ね、パパが帰って来たの。私たちのことも含めて、いろいろ話したわ」
受話器の向こうがシンと静まり返った。張り詰めた雰囲気がこちらにまではっきりと伝わって来る。
『ホタは、なんて?』
「子離れ出来ないから反対しているわけじゃない、って」
芳音について打診されたことを省き、穂高から辰巳の既往歴と経歴について聞いた内容を掻い摘んで話した。
『マジ? それは知らなかった』
「うん。パパが反対するのは、辰巳さんの子だから、芳音もいつ同じ状態になるか解らないというのが理由みたい。私はそんなの決めつけることじゃないと思ったから、先のことなんて誰にもわからない、って伝えたのね。そしたらパパ、拗ねて部屋に閉じこもっちゃったんだけど」
『うん、いいじゃん。拗ねさせとけ、拗ねさせとけ』
という単純明快な答えのあとに、心から可笑しそうな大笑い。望はそんな芳音の反応に言葉を失った。
(これ、笑い飛ばせること?)
考えていたあれやこれやの言葉――普段ならば決して口になど出来そうにない素直な思い――は、また伝える機会を失った。
『あー、さんきゅ。でもホタの手の内がわかって助かった。意外と頭固くてベクトルも偏ってるんだな』
芳音はまったく芝居じみた様子もなく、まだ笑いを交えて嬉しそうに語り続けた。
『なまじっか経験値が高いと、そっから無理やりにでもカテゴリ分けしたがるよな。それってオトナの落とし穴だよなー』
「落とし穴」
『そ。自分が偏見で見てると思ってないんだよ絶対。データ見てあーだこーだ言ってるから間違いない、とか信じ込んでる。けど、実際もしも俺の中に辰巳のヤバイ要素があったとしたら、多分それが表に出るのって、いっちばんタゲられてた中坊ンときのはずだよな。でも実際には俺に前科なんてないしさ、極論思考だとしたら迷うことなく辰巳のクローンになってただろうしさ。でも、なってないだろ?』
誰かさんのお陰で、という声だけが、突然小さな呟きになった。
「私……何か、した?」
『俺は俺、ってゆってくれた』
「それって、当たり前のことじゃない?」
『そうだけど……。でも、北城とのんが一緒に歩いている姿を見たときだけは、俺ヤベエ、って思った。だから、のんの手を取って逃げた』
その名が出た瞬間、背筋に寒いものが走った。そのころの最低な自分を思い出したから、というだけが理由ではない。
『逃げたのは、北城の報復を恐れたからじゃなくて、理性が飛ぶ前に自分とのんを守りたかった、自己防衛みたいなもん』
芳音の語る内容とともに、届く声音に舌が凍った。
“あんたこそ、姉貴の、何?”
北城にそう問い質したときの、ひどく冷たい機械的な声を思い出させられる。一目で芳音だと判ったのに、その一瞬だけは自分の知っている芳音だとは思えなかった。
「ごめんなさい」
思わぬ方向へ話が飛んでしまった。望は今ごろになって初めて、自分が思っていた以上に北城が芳音にとってNGワードになっていると思い知らされた。
「私、余計なこと言ったわ。もうこの話は」
かろうじて出せた制止の声は、わずかに震えていた。それをさらに遮る声が受話器の向こうからマシンガンのように飛んで来た。
『あ、いやえっと、ごめん。全然、ほら、だからつまり要は、ホタの心配を取り除けばオッケーってだけの話じゃん、って言いたかっただけで、えっと、うー、だから、えーと……のんも、笑っとけ!』
支離滅裂な言葉の羅列は、いつもの声音で紡がれた。挙句の果てには命令形だ。芳音が滅多に出さない命令形。自分の言動に制限を掛けるその物言いを放たれれば不機嫌になるくせに、相手が芳音だとどうしようもない気持ちになって泣けて来る。
「……うん」
芳音の命令形は、いつだって優しい。いつもは譲ってくれるくせに、望が迷うときに限って命令形の言い方をする。子どものころから変わらないそれは、彼の本質以外の何ものでもない。
机上の理論など、そしてカテゴリ分けもクソ食らえ。決して上品ではないそんな言葉が望を浮上させた。
「そうね、笑っとく」
力強く、繰り返す。電話の向こうから、くすりと笑う声と「立ち直り、ばかっ早ッ」という憎まれ口が返って来た。
『あ、話変わるけどさ。次のグループ課題のテーマが“ローカロリーで美味い女性向けのレシピ”なんだけど、それの両立って、どうよ? なんかコレ! みたいなオススメの店とかある?』
欲張りな片割れは、学期末のテスト課題をどうしても首位で締めたいらしい。
「そうね。中華は意外と盲点でアイディアの評価がアップするかも」
『あるのか! 中華のくせに!』
「くせにって」
『だって油まみれの料理ってイメージあるじゃん』
「まあ、そうね。っていうか、中華料理のお店って行ったことある?」
『……ない、です』
「やっぱり」
その夜、望は随分遅くまで未来の相棒と最高のダイエット中華について語り合う時間を楽しんだ。




