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レッツ、邪神討伐

……………………


 ──レッツ、邪神討伐



 私たちは慎重に第10階層に繋がる階段を下りて行った。


 その先にあったのは祭壇。


 いや、祭壇というよりも石棺だ。


 中に何が入っているかの想像はできている。


「気をつけろ。奴は既に目を覚ましている」


「い、いよいよだね!」


 そう、いよいよだよ。


 これで物語はハッピーエンディングなんだ。


 そして、石棺の蓋が石の擦れる音を発しながら開く。


「──来るぞ。構えろ」


 私はそう告げて魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構える。


 石棺の蓋が完全に開き切り、蓋が石棺から転げ落ちる。


「いよいよというわけだな」


「やってやるよ!」


 ジークさんとミーナちゃんも剣と杖を構える。


「オオオォォォ──!」


 石棺から雄たけびが響き、それが私たちの鼓膜を揺さぶる。


「どうやらお目覚めのようだな、邪神ウムル・アト=タウィル」


 私がそう告げるのと同時に、邪神ウムル・アト=タウィルがその姿を見せた。


 その姿はヴェールを被った巨人だ。


 ヴェールの向こうがどうなっているかはまるで分からず、緑色の肌をした巨体がのっそりと石棺から姿を見せる。大きさは全長50メートルはあるだろう。今はこのサイズだが、この禁忌のダンジョンから解き放たれれば確実に巨大化するのが分かっている。


「汝ら、我が信仰者なりや?」


「戯け。貴様を殺しに来たものだ」


 邪神ウムル・アト=タウィルが尋ねるのに、私はそう告げて返した。


「愚かな。神を殺そうなどとは。今からでも改心して我を崇めるがいい」


「貴様をあがめて何のメリットがある、邪神ウムル・アト=タウィル。貴様ができるのはただの世界滅亡だけだ。そして、それをなすとすればそれはこの私だ。このルドヴィカ・マリア・フォン・エスターライヒこそが世界を滅ぼす」


 そう告げて私は邪神ウムル・アト=タウィルに魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”の剣先を向けた。邪神ウムル・アト=タウィルは考え込むように、顎に手を置いている。


「汝も世界の終わりを望むか」


「私は世界に黄昏をもたらすもの。貴様とはレベルが違う」


 最大強化の魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”があればラスボスの一歩前のラスボスである邪神ウムル・アト=タウィルを10ターンキルできる。だが、そのためにはまずディアちゃんが行動を起こさなければならないのだ。


「ディア! 賢者の石をかざせ!」


「了解!」


 私が告げるのにディアちゃんが賢者の石を高らかと掲げる。


 そこから発された無数の光が、眩く周囲を照らし出し、その光は邪神ウムル・アト=タウィルにも襲い掛かった。


 その次の瞬間、邪神ウムル・アト=タウィルの体を覆っていた透明な何かがボロボロと崩れ始め、邪神ウムル・アト=タウィルの巨体が揺るがされる。


 これで邪神ウムル・アト=タウィルを守っている結界は除去完了!


「ほう。それは忌々しい賢者の石か。汝らは本気で私を滅ぼすつもりのようだな」


「本気も本気だ。さあ、滅べ、哀れな信仰者なき神よ。加速(アクセラレーション)!」


 私はそう告げると同時に自分にバフをかける。


 これからは早急に邪神ウムル・アト=タウィルを叩きのめす。


 形だけのラスボスと真のラスボスの違いを思い知らせてやろう!


「黒き錆よ。黒き霧よ。我が敵の魂を蝕め」


 私が加速して一気に邪神ウムル・アト=タウィルの懐に飛び込もうとするのに、邪神ウムル・アト=タウィルがそう詠唱してきた。


 不味い。この魔術は確か──。


 私は自分に掛けられていたバフが消滅し、その速度がガクリと落ちるのを感じた。


 それと同時に邪神ウムル・アト=タウィルの拳と私の魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”が交錯し、私は辛うじて魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”の刃を邪神ウムル・アト=タウィルに叩き込んだが、吹き飛ばされた。


「やってくれる」


 さっきの魔術はこちらのバフを無力化するものだ。


 そして、素の状態では私と邪神ウムル・アト=タウィルの速度はほぼ互角。相手がこちらのバフを消し去り、攻撃を入れるのと私が自分にバフをかけ、相手を攻撃しようとしたのは同時であったのだから。


「ルドヴィカちゃーん! もう始めていいの?」


「ああ。この信仰なき神にたっぷりと爆薬をプレゼントしてやれ」


 後ろからディアちゃんが尋ねるのに、私は姿勢を立て直しながらそう返した。


「なら、いっくよー!」


 ディアちゃんが後方から高性能樽爆弾で攻撃を仕掛ける。


「あたしたちも続けー!」


「応っ!」


 続いてミーナちゃんとオットー君が攻撃を仕掛ける。


 ボコボコとダメージが入っていき、邪神ウムル・アト=タウィルの体がよろめく。


「我々も陛下に続け!」


「……ルドヴィカを傷つけた奴、許さない」


「ここで倒さなければ!」


 エーレンフリート君、ジルケさん、ジークさんも攻撃に加わる。


 斬撃が叩き込まれ、邪神ウムル・アト=タウィルの巨体がさらに揺らぐ。


 だが──。


「汝ら、この程度か? この程度で我を滅するなど笑止千万」


 まるでダメージが入っていないかのように邪神ウムル・アト=タウィルは姿勢を整えなおし、私たちの方を向く。


「降り注げ。黒き刃」


 不味い! エーテル属性の全体攻撃だ!


「全員、耐えろ!」


 本来ならば防御姿勢を取っておくべき場面であったが、今からでは間に合わない。


「きゃあ!」


「ぐうっ!」


 降り注いだ黒い刃を前に、ディアちゃんたちが悲鳴を上げる。


「なかなかやってくれるではないか。お返しだ。降り注げ。無垢なる刃」


 私はお返しにエーテル属性の全体攻撃をやり返す。


 邪神ウムル・アト=タウィルの全身に白い刃が突き立てられ、邪神ウムル・アト=タウィルがわずかによろめいた。


 そして、そこに追い打ちをかけるように私が切り込む。


 まずは第一撃!


「ぐおおぉぉ……」


 袈裟懸けに切られた邪神ウムル・アト=タウィルはうめき声を漏らしながらも、拳を振り上げる。そして、その巨大な拳を私に向けて振り下ろしてきた。


「そう何度も同じ手をくらうか」


 私はステップを踏んで、邪神ウムル・アト=タウィルの攻撃を回避する。


「ディア! 今の間に全員を回復させろ!」


「りょ、了解!」


 ディアちゃんは先ほどのエーテル属性の全体攻撃を受けた面々にポーションを飲ませていく。今のディアちゃんなら3倍の回復量だ。


「やらせはせぬぞ。消滅するがいい。宇宙に存在せし、門の果てより来たりしもの」


 邪神ウムル・アト=タウィルがそう詠唱すると同時に、空間が捻じれ、その空間の中から何百もの触手がディアちゃんに向けて迫る。


「やらせるか」


 私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”による斬撃で全ての触手を叩き切る。伸びてくる気持ちの悪い触手を完膚なきまでに叩き切った。


「いつまでひとりで我と戦っていられるか? 汝の仲間は今も倒れたままであるぞ」


「貴様ごとき、私ひとりで倒しきれるわ」


 今のところ、私は邪神ウムル・アト=タウィルをひとりで押さえているけれど、このままひとりで勝つのは難しいだろう。やろうと思えば10ターンキルできる邪神でも、今の友軍を守りながら戦うやり方では限界がある。


 だが、ディアちゃんたちがいたからこそ、ここまでこれたわけで。


 さて、どうしたものだろうか。


「行くぞ、孤独な娘。貴様の魂を葬り去ってくれよう」


「やれるものならばやってみるがいい」


 挑発に挑発で返してしまったが、やれるだろうか。


「蠢く黒き炎よ。我が敵の魂を焼き尽くせ」


 続いて放たれたのはエーテル属性の単体攻撃魔術。


「その程度!」


 こなくそー! やってやるー!


 私は津波のように押し寄せる炎に対して“黄昏の大剣(ラグナロク)”を振るった。剣先から生じた波動が炎を食い止め、消滅させる。


「反撃だ!」


 私はそのままの勢いで魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を思いっきり振るい、邪神ウムル・アト=タウィルに剣先から生じた波動を叩き込んだ。


「面白い。なかなかではないか」


「どこまで笑っていられるかな?」


 私は斬撃を叩き込む続ける。


 1発、2発、3発、4発と。


「汝は確かに危険なようだ。全力で排除する」


 邪神ウムル・アト=タウィルはそう告げると、地面を思いっきり叩いた。


 そこから生じた亀裂が私に向けて突撃してくる!


 だが、ここを守らないと後方のディアちゃんたちが……!


「ルドヴィカちゃん! もう大丈夫だよ!」


 後方からディアちゃんの声がする。


「全員、回復完了! 心置きなく戦えるよ!」


 私が時間を稼いだ甲斐があったのか、ディアちゃんたちは全員が回復していた。


「思いっきりやりかえしてやるんだから!」


「……容赦はしない」


 ミーナちゃんとジルケさんが武器を構える。


「畜生。まだまだやれるからな」


「我々ならばやれる」


 オットー君とジークさんが告げる。


「陛下のために。そして、陛下を傷つけし無礼者に裁きを!」


 エーレンフリート君も立ち上がってそう告げる。


「一斉攻撃だ!」


 ディアちゃんの高性能樽爆弾からミーナちゃんの魔術、オットー君の矢とジークさんたちの斬撃が一斉に邪神ウムル・アト=タウィルに叩き込まれる。


「人間がここまでやるというのか。人間にはこれほどの可能性があったというのか」


 邪神ウムル・アト=タウィルはよろめきながらそう告げる。


「その通りだ。あまり人間を舐めてくれるなよ、信仰なき神めが」


 私はそう告げると、魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を大きく振り上げて、思いっきり振り下ろした。剣先から生じた波動が邪神ウムル・アト=タウィルを揺さぶり、斬撃の痕跡を刻み込む。


「ディア! トドメだ!」


「了解! いっくよー!」


 そして、ディアちゃんが邪神ウムル・アト=タウィルに向けて高性能樽爆弾を放り投げる。高性能樽爆弾は思いっきり炸裂し、邪神ウムル・アト=タウィルを吹き飛ばした。


「なんたることだ。この我が倒されるとは。このようなことがあっていいというのか」


 邪神ウムル・アト=タウィルはそう告げながら、白い霧になって消えていった。


「やった! 倒した!」


「やったぜ!」


 ディアちゃんたちが邪神ウムル・アト=タウィルの素材だけが残る現場を見て、歓声を上げた。みんな疲労たっぷりなはずなのに、元気いっぱいだ。


『時は来た』


 ふいにどこからかそんな声がするのに私が周囲を見渡す。


『お遊戯の時間は終わりだ。いよいよ以て、この世界を我がものとする』


 この声は……。


『その体、返してもらうぞ』


 この声は(ルドヴィカ)の声だ。


……………………

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