これが光りというものか(賢者の石の錬成)
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──これが光というものか(賢者の石の錬成)
「美味かったにゃー」
九尾ちゃんがサクッと牛さんを締めて、魔術で熟成させて、丸焼きにしたものをエンシェントドラゴンは一口で味わった。こちらが手間暇かけたわりに本当にあっさりと食べ終えてしまったので、これは追加の課題が来るのではと我々は懸念を抱いた。
「では、血液あげるにゃー。尻尾の方をザクッと切るといいにゃー」
だが、どうやらエンシェントドラゴンは先ほどの牛の丸焼きで満足したようで、ふよふよと浮かびながら、尻尾をふりふりと振る。
ならば、いただくとしましょう!
私は魔剣“黄昏の大剣”を誇らしげに構えた。
「あ。それは痛いから包丁辺りでたのむにゃ」
まあ、そうですよね。魔剣“黄昏の大剣”で尻尾を斬った暁には、このエンシェントドラゴンは尻尾を失う羽目になってしまうというものだ。
「九尾。なるべく痛みのないように血を取ってこい」
「畏まりました、主様」
九尾ちゃんはエンシェントドラゴンの鱗の間にサクッと包丁を突き立てると、採取した血液をディアちゃんが使っているガラス瓶の中に収めた。
「ではな、龍よ。もう会うことはないだろう」
「それはどうかにゃ? 君が本当に世界に黄昏をもたらすつもりならば、また出会うこともあるかと思うにゃ。そして、その時は敵同士だにゃ」
ないない。私はもう世界に黄昏をもたらすつもりなどないのだ。
「その時は貴様の首を刎ね飛ばしてやる。ではな」
「また会う時の君が楽しみだにゃ」
エンシェントドラゴンは最後まで猫のような鳴き声でそう告げると、尻尾を振ってドーフェルの神殿跡地から去っていった。
これでディアちゃんの賢者の石錬成に必要な材料は集まった。
後はディアちゃんが錬金術の秘宝ともいえる、賢者の石の錬成に成功するかどうかである。私としては疑いたくないが、賢者の石の錬成がとても難しいものであることは事実。上手く一発成功してくれればいいのだけれど……。
私が悩んでもしょうがない! 私は素材を集めるのみだ!
後はディアちゃんにバトンを託す! ディアちゃんが錬成に成功してくれることを祈って! ディアちゃん、頼んだぜ!
文字通り、世界の存亡は君の双肩にかかっているぞ!
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「ディア。エンシェントドラゴンの血液だ。これで最後の素材か?」
私たちはディアちゃんのお店の扉を開いてそう尋ねた。
「うん! それで最後の素材だよ! エリクサーの錬成には成功したからね!」
ディアちゃんはガッツポーズで出迎えてくれた。
エリクサーが錬成できたならば、後は必要な素材を混ぜるだけだ。
「じゃあいくよー!」
ヘルムート君がとんとんじゅーじゅーと支度をして、準備の済んだものをディアちゃんが錬金窯に放り込んでいく。
「ぐーるーぐーるー♪」
ディアちゃんはリラックスしている。私はこの錬成の成功率にかかわれないとしても、酷く緊張しているというのに。ディアちゃんは鋼の心臓を持ってるな。
「ぐーるーぐーるー!」
そして、ディアちゃんの掻き混ぜ速度が一気に加速すると──。
ぼふんと白煙が噴き出し、ディアちゃんの手には……。
「完成ー!」
おお。あのカサンドラ先生が持ってきたのと同じ虹色の鉱石がディアちゃんの手の中で輝いていた。形はまるっとしていて、大きさは拳ぐらい。
「やったー! できちゃったよ、賢者の石! どうしよう、どうしよう!」
「落ち着け。まずはそれを置いてから興奮しろ」
ディアちゃんがうっかりと賢者の石をがしゃーんしそうで怖いよ。そこまでのドジっ子ではないと思うのだけれど。
「後はこの完成した品をカサンドラ先生に渡すだけだね」
ディアちゃんはそう告げて、ガラス瓶の中に賢者の石を封入した。
「だが、使うのは貴様になると思うぞ。それに使った処女の血は貴様のものだろう?」
「え? そうだけど……。ってことは私が邪神うるうるあとあとの封印に行くの!?」
「ウムル・アト=タウィルだ。賢者の石はその血を封じた人間でない限り、力を発揮しない。貴様がやらなければ、他の誰もできない」
そういうことなのだ。賢者の石は最近流行りの生体認証機能付きで、賢者の石の作成に使われた処女の血の持ち主にしか反応しないのだ。まあ、ディアちゃんは主人公だし、ディアちゃんが邪神を封印しなくて誰が封印するんだって感じだけどね。
「せ、責任重大だー……」
「大丈夫だよ、ディア! 私たちも手伝うからね!」
ディアちゃんが顔を青ざめさせるのに、ミーナちゃんがそう告げる。
「そうだぜ、ディア。俺たちもその邪神うむうむたうぃーの封印を手伝うからな」
オットー君もディアちゃんを励ますようにそう告げる。
「当然、我々も手伝うぞ。この世に終わりをもたらすのは邪神ウムル・アト=タウィルなどではなく、このルドヴィカ・マリア・フォン・エスターライヒだ」
私も一緒に励ましておいた。……励ましになっているのか、これ。
「ありがとう、みんな! 私も頑張っちゃうよ! 打倒うむうむあとあと!」
「おー!」
というわけで、無事に賢者の石の錬成に成功。
後はこれを見たカサンドラ先生がどういうリアクションをするかだ。
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カサンドラ先生はディアちゃんが宿屋に依頼達成を知らせに向かうとやってきた。
「これは確かに賢者の石だね。間違いないよ」
カサンドラ先生はディアちゃんの錬成した賢者の石を見てそう告げた。
「レシピは?」
「処女の血液、エンシェントドラゴンの血液、ユニコーンの血液、水銀、エリクサーです。ルドヴィカちゃんに教えてもらったんですよ!」
ディアちゃんが自慢げに私の方を指し示してくる。
は、恥ずかしいな。ゲームの時の知識をちょっと教えただけで、実際に錬成したのはディアちゃんなのにさ。自慢するのは私じゃなくて、ディアちゃんの腕前だよ。ディアちゃんのこれまでの頑張りが、賢者の石の錬成成功のカギになったんだよ。
「ふむ。それだけの知識があるとは。王立錬金術アカデミーでも何の資料も残っていなかったというのに。流石としか言いようがないな」
だから、褒めるならばディアちゃんを褒めてあげてー。
「ディアもよく頑張ったね。レシピが分かっていても賢者の石を錬成するなんて、そう容易いことではなかっただろう?」
「滅茶苦茶緊張しました! けど、いつも通りにやったら錬成できたんです!」
ディアちゃんが興奮気味にそう告げる。
ディアちゃん、いつも通りに見えていたけれど、実際は緊張してたんだ。よく頑張ったな、ディアちゃん。流石は主人公だぜ。
「それで、この賢者の石って私しか使えないそうなんですけど」
「……ああ。この手の人間の血液を使った代物はそういう作用がつく。しかし、ディアに邪神を封印してもらうわけにはいかないしね。どうしたものか……」
流石のカサンドラ先生も弟子を危険地帯に送り込むほど常識のない人ではなかった。ちゃんとディアちゃんのことを考えてくれている。
考えてくれているけれど、現状賢者の石が使えるのはディアちゃんだけで、邪神ウムル・アト=タウィルを倒す手段を持っているのはディアちゃんだけなんだよね。
「私、頑張りますよ! 頑張って邪神うむうむあとあとを倒しますよ! 任せておいてください、カサンドラ先生!」
ディアちゃんが血気盛んにそう告げる。
「それじゃあ、ディアに任せようかな」
なんとカサンドラ先生がそんなことを!
「これまでの冒険で成長したっていうのは分かるよ。ディアももう子供じゃないんだね。だけれど、危ないと思ったらすぐに帰ってくるんだよ。決して無理はしなくていいからね。私にとってはディアが無事に戻ってくることが一番大事だ」
そう告げてカサンドラ先生がディアちゃんを抱きしめる。
「カサンドラ先生……。はい! 私、頑張りますから!」
ディアちゃんもカサンドラ先生を抱き返してそう告げた。
「じゃあ、任せたよ、ディア。邪神ウムル・アト=タウィルの封印ないし抹消」
「はい!」
というわけで、私たちは邪神ウムル・アト=タウィルと戦うことになった。
ここまで来たら、もう私もディアちゃんたちの仲間だと思うけど、これからどんな風に分岐しているのだろうか。ディアちゃんの敵には回りたくないものだ。
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