派手な花火だ(ドーフェルの採掘場跡地にて)
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──派手な花火だ(ドーフェルの採掘場跡地にて)
翌朝、私たちは待ち合わせ場所で合流し、ドーフェルの採掘場跡地に向かった。
流石は跡地とついているだけあって、そこに至るまでの道のりは荒れ果てていた。この間のドーフェルの神殿跡地の方は比較的道が綺麗だった気もするんだけど、こっちは荒れ放題だ。夏場に来なかったのが幸いである。
夏場に来たら虫が凄いことになっていただろう。ぞっとする。
「そろそろか?」
「うん。そろそろだね。見えてくるはずだよ」
私が尋ねるのにミーナちゃんがそう告げて返し、前方を見据える。
すると見えてきた。
巨大な露天掘りの鉱山だ。ここがドーフェルの採掘場跡地である。
「わあ。地面がえぐり取られているよ」
「そういう採掘方法なのだろう。さて、目的の品を探すぞ」
「了解!」
私たちは露天掘りの鉱山の縁に沿って進み、ディアちゃんがスコップでカンカンと鉱山の壁面を叩く。すると、素材がポロリと落ちてくる。相変わらずの謎原理。
「手に入ったか?」
「うーん。ダメだね。宝石はいくつか採取できたけど、ほとんど石炭だよ」
石炭と宝石が同時に手に入る鉱山ってあるのだろうか。
「では、もっと下に降りるしかないな」
私たちは縁を歩いて進み、ディアちゃんが地点地点でカンカンする。
そろそろアダマンタイトが採取できてもいいはずなのになかなか手に入らない。
「どうしよう。全然手に入らないよ……」
「こうなったら確実な手段を試すしかないな」
確実にアダマンタイトが手に入る方法がひとつだけある。
私は鉱山の壁面から一番下の場所まで飛び降りると、足を踏み鳴らした。
地面では地響きが響き始め、何かが急速に地面の下から上昇してくるのが分かる。来たぞ、来たぞ。このドーフェルの採掘場跡地において最強の魔物が。
私は音がすぐ足元まで迫った時点で飛びのいた。
私の立っていた場所にぽっかりと穴が開き、そこから鋭い牙を有する魔物が顔を出していた。この魔物こそドーフェルの採掘場跡地の探索マップボスであるランドドラゴンだ。他のドラゴンと違って空は飛ばず、地面に潜って暮らし、獲物の足音を聞きつけると、先ほどのように地下から襲い掛かるのである。
「うわっ! ルドヴィカちゃん、大丈夫!?」
「問題ない。こいつは目が見えない。音にしか反応しない」
そうなのだ。ランドドラゴンは目が退化していてその分聴覚が進化しているのだ。
「私がこいつを引き付ける! その隙に昨日の樽爆弾を使え!」
「りょ、了解!」
私が猛ダッシュでランドドラゴンを引き付けるのに、ランドドラゴンが私を猛追する。そして、私はランドドラゴンがディアちゃんの射程内に入ったことを確認すると、一気に地面を蹴って飛び上がった。
「今だ!」
「ていっ!」
ランドドラゴンは地面に落下してきた樽爆弾に反応して、そちらに食らいつく。
そして、大爆発!
昨日、ディアちゃんに作ってもらったのは高性能樽爆弾。サイズは樽爆弾そのままで威力は巨大樽爆弾の1.5倍という凄い代物なのだ。
……一般人がこういう爆発物を所持できるのは不味くない? とか思わないで。
見事に高性能樽爆弾を食らったランドドラゴンは地面に逃げ込む。
ここからは持久戦だ。
ランドドラゴンは地面にいる間は私の魔剣“黄昏の大剣”も意味がない。ここは奴をあぶりだしてやらなければならないのだ。
「ディア。どこでもいい。樽爆弾を投げまわれ」
「了解! 気をつけてね、ルドヴィカちゃん!」
「フン。私を誰だと思っている」
作戦名“モグラ叩き大作戦”。
音がすると寄ってくるというランドドラゴンの特性を逆手にとって、わざと地上でどんどんと音を鳴らし、出てきたランドドラゴンを高性能樽爆弾をお見舞いする。
私はランドドラゴンを誘導したり、ディアちゃんたちに襲い掛かろうとしたら、切り捨てる役割だ。まあ、ジルケさんとエーレンフリート君がディアちゃんたちの傍にいるから大丈夫だとは思うけれど。
「てりゃー!」
ディアちゃんが声を上げて高性能樽爆弾を投擲する。
ズドーンと音が響き渡り、地面が揺れる。
それと同時に地面の下で何かが動くのを感じた。
「そのままだ。どんどんやれ!」
「あいよー! どんどんいくよー!」
ディアちゃんは高性能樽爆弾を投げまくる。
酷い騒音が響き渡り、地面が揺れに揺れる。
その揺れに耐えられなくなってきたのか、地底の動きが激しくなってきた。
「来るぞ」
私の言葉と同時にランドドラゴンが怒り狂って飛び出してきた! これまで静かに暮らしていたのに上でドンパンドンパンお祭り騒ぎされたら耐えられないだろう。だが、飛び出してきても、君を歓迎するのは獲物ではなく──。
「ディア!」
「えい!」
高性能樽爆弾がランドドラゴンに向けて投げつけられて、炸裂する。それによってランドドラゴンはスタン状態になった。
高性能樽爆弾を作ることをディアちゃんに急がせたのはランドドラゴンを引き付けることと、ランドドラゴンをスタン状態にするためである。ランドドラゴンは聴覚が鋭敏な分、爆発物を食らうと一定確率でスタン状態になる。
普通の樽爆弾なら40%、大型樽爆弾なら60%、高性能樽爆弾なら80%だ。
これで私がディアちゃんに高性能樽爆弾を急いで作るように促したのも分かるというものでしょう? この戦いに置いて高性能樽爆弾はなくてはならないものなのだ。
「叩き切って、それで終いだ」
私はスタン状態になったランドドラゴンに魔剣“黄昏の大剣”を向ける。恨んでくれるな。こんな場所に暮らしていた君が悪いのだからな。
私は魔剣“黄昏の大剣”を振り下ろし、ランドドラゴンを真っ二つにする。それと同時にぼふんと白煙が噴き上げ、ランドドラゴンの素材がごっそりと出現した。私の記憶が確かならば、ここに……。
「あったぞ、ディア。アダマンタイトだ」
「本当!?」
ランドドラゴンは必ずアダマンタイトをドロップする。他にもレアな鉱石をいろいろとドロップしてくれる。探索マップボスの中ではもっとも美味しいボスだと言える。
「他にも素材がいっぱい! ありがとう、ルドヴィカちゃん」
「これを倒したのは事実上、貴様だ。礼など言うな」
ディアちゃんが倒したんだからお礼はいいよと言いました。
「それにしてもこれだけ素材があったらいろいろと作れるね」
「うむ。いろいろと作って見ろ」
ディアちゃんの錬金術レベルも上がっていると思うし、いろいろと成功すると思うよ! これでみんなの装備を更新してラスダン──一歩手前のダンジョンに挑もう。
「それじゃ、ちょうどお昼になったし、お弁当にしようか」
ディアちゃんが素材を集め終えると太陽は真上に浮かんでいた。
夏も秋も終わり、冬が訪れてきたので、太陽が昇っていても寒い。
さて、今日はジルケさんもお弁当を作ってきたそうだけどどうかな?
私はちょっとワクワクしながら、みんながいる場所に向かった。
既にディアちゃんたちはお弁当箱を広げている。
今日はおにぎりじゃなくてサンドイッチか。食欲をそそる見た目をしておりますな。
一方のジルケさんの方は……。
「おおっ! ジルケさんのお弁当凄い!」
ディアちゃんが歓声を上げる。
確かにジルケさんのお弁当は凄かった。
稲荷寿司がずらりと並び、エビのグラタンに、カボチャの煮物に、魚のフライに……。……これってちょっと量、多すぎない? エーレンフリート君は食べないから、実質女子4名で食べることになるんだよ?
「……食べて?」
ジルケさんは稲荷寿司をフォークで刺して私の方に差し出してくる。
「うむ。それなりだな」
パクリと稲荷寿司に食らいつくと、油揚げのジューシーな味わいが広がる。
「九尾にでも作り方を教わったか?」
「……レシピ本を見て作った。食べて?」
ま、不味い。このままではジルケさんの稲荷寿司で窒息死させられる。
「他の物も食うとしよう。そこの煮物など美味そうだな」
「……うん。自信作」
よし。稲荷寿司から興味を逸らしたぞ。
「少しずつ味見させてもらおう。私もそんなに食べる方ではないのでな」
「……残念」
ジルケさんも女の子の許容する食事の量は把握しておこうよ。
「ジルケさん、ジルケさん。そっちの稲荷寿司とこっちのサンドイッチ交換しない?」
「……いいよ」
ディアちゃんがサンドイッチを差し出すのに、ジルケさんが稲荷寿司を渡す。
うんうん。今、最高に女子って感じだぞ。お弁当を交換して食べ合うだなんて。
ジルケさんも少しずつだけど、ディアちゃんたちに慣れていっているし、文句なしだね。この調子で仲良し4人組を作りたいところだ。そして、女子会とか。
うんうん。いずれは女子会もしたいよね。お菓子を持ち寄って、夜遅くまでおしゃべりしたいところだ。きっと楽しいぞ。
私はそんなことを考えながら、ゆったりとしたお昼を過ごしたのであった。
──その迫りくる脅威に気づくこともなく。
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