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ならば作ればいい(壊れた鎧をどうしよう)

……………………


 ──ならば作ればいい(壊れた鎧をどうしよう)



「うーん。ルドヴィカちゃん。アダマンタイトの採れる場所って知ってる?」


「随分と藪から棒な話題だな。いったいどういう理由だ?」


 私たちがディアちゃんのお店にポーションを買いに来たのに、ディアちゃんがぼんやりしながらそんなことをのたまった。


「この間のドーフェルの神殿跡地の戦いで、ジークさんの鎧、壊れちゃったでしょう? できれば私が新しい鎧を準備してあげたいなって思うんだ。それで防具屋さんでレシピを貰ってきたんだけど、アダマンタイトだけが足りないんだ」


「ふむ」


 アダマンタイトはこの世界でもっとも硬い鉱石だ。


 貴重な代物であり、市場にもなかなか出回らない。


 だが、心当たりが全くないわけでもない。


 何せ、私はこのゲームのプレイヤーだったのだからね!


「ドーフェルの採掘場跡地ならあるかもしれぬな」


「ほうほう。ドーフェルの採掘場跡地」


 ドーフェルの採掘場跡地はドーフェルの神殿跡地の次に解放される探索マップで、鉱石系アイテムがガンガン採取できるいい場所だ。魔物のテリトリーになったから放棄されたらしいので、今でも鉱物資源が眠っている。


 ここにいけばアダマンタイトでも手に入るだろう。


「場所は?」


「……分からん」


 南の方ってことだけは分かるんだけど、具体的な位置までは……。


「やっほ。ディアにルドヴィカ。何話しているの?」


「あ。ミーナちゃん」


 私たちが頭を悩まされていると、ミーナちゃんがやってきた。


「ねえ。ミーナちゃんはドーフェルの採掘場跡地って知ってる?」


「ん。確か南にある廃墟よね。知ってるわよ」


 おお。流石地元民。私より詳しい。


「そこにアダマンタイトを取りに行こうと思うんだけど、ミーナちゃんよかったら案内してくれないかな?」


「いいけど……。アダマンタイトなんて何に使うの?」


「ジークさんの鎧が壊れたから新しいのを作ろうと思って」


 ディアちゃんがそう告げると、ミーナちゃんがにやりと笑った。


「そっかー。そういうことかー。そんな友人の頼みとあれば聞かざるを得ないね。このミーナ様が一肌脱ぎましょう! ドーフェルの採掘場跡地に出発だ!」


「な、何を連想してるの、ミーナちゃん。私はジークさんの鎧が壊れたから……」


「じゃあ、私がジークさんに告白してもいい?」


「ダメ」


 ディアちゃん、即答である。


「ディアも素直になりなよ、うりうり。そうじゃないと横から取られちゃうぞー。ジークさんは街一番のイケメンなんだから」


「も、もー。ミーナちゃんはすぐにからかうから嫌い」


 ミーナちゃんがディアちゃんのほっぺをつつくのに、ディアちゃんがそっぽを向いた。このふたりもなかなか仲がいいな。


「じゃあ、出発は明日ね。お弁当準備しておくから」


「面子は誰が集まる?」


「オットー君は今、クエスト受けてるからー……」


 ディアちゃんたちの視線が私たちの方を向く。


「我々ならば構わんぞ。付き合ってやってもいい」


「よし。ルドヴィカちゃんがいればばっちりだ」


 私って頼りにされてる? されてるよね?


「じゃあ明日の朝8時に南門に集合ね。遅れないように」


「おー!」


 というわけで、ドーフェルの採掘場跡地に向かうことになった。


 私たちはその場で解散となり、私は久しぶりに四天王のみんなの様子を見てこようと、商店街、職人通り、大衆食堂を覗いていくことにした。私も最近はニートを脱して、冒険者として細々ながら稼いでいるので忙しかったのだ。


 商店街は本当にお店が増えた。酒屋やお土産物屋などがオープンしている。食器を扱っているアンティークのお店なんかもあったりする。


 そんな賑やかな商店街でもベアトリスクさんのお店はすぐに分かる。上品な雰囲気と高級感ある品格のお店だもの。今日も貴族のものらしい馬車が止まっている。お客さんがいるのかな。まあ、覗くだけ覗いていこう。


「邪魔するぞ」


 私はそう告げてお店の扉を開ける。


「流石! 流石だわ、ベアトリスクさん! これならば愛するセドリック様も振り向いてくださるわ! 今度の夜会の主役は私よ!」


 きゃーきゃーと騒いでいたのは、前にも来たことのある絵にかいたがごときお嬢様だった。相変わらずブロンドの縦巻きロールである。どこかで流行ってるの、それ?


「いえいえ。お嬢様はそれだけでも魅力的ですわ。我々どもはその魅力をささやかながら引き立てることができればと思っております」


「そ、そうかしら? そうよね! 私の魅力もあるわよね!」


「はい。当然です」


 騒がしいお嬢様をベアトリスクがよいしょしている。


「それではこれをお願いするわ。いくらでも言ってちょうだい」


「では──」


 さりげなく大金が動いた気がするが、お嬢様もベアトリスクさんも気にしていない。それって私がクエスト10個達成しても手に入らないお金だよ。


「それではまた来るわ!」


「ええ。またのお越しを」


 お嬢様は私たちに気づくことなく出ていった。


「随分と騒がしい客が来るのだな」


「あの方は例外ですわ。ほとんどのお客様は静かなものですわよ」


 私が告げるのに、ベアトリスクさんが苦笑いを浮かべた。


「それより陛下。今回は何かご用事で?」


「ん。部下たちが仕事をしているのか確認するのも主の仕事であろう。そういうことだ。貴様の方に問題はなさそうだな」


 ベアトリスクさんのお店はちゃんと回っているね。問題なし!


「ところで陛下」


「妙なドレスならば着ないぞ」


 ベアトリスクさんが怪し気な笑みを浮かべるのに私が即答した。


 全く! ベアトリスクさんってば私がお店に来るたびに変なドレス着せようとするんだから。あんな痴女ドレスはごめんだよ!


「今回は普通のものですわ。全く以て普通ですの」


「本当だな?」


「陛下に嘘などつきませんわ」


 怪しいけれどそこまでいうなら乗るしかない。それにベアトリスクさんにはこれと言って褒美も与えてないしな。大人しく着せ替え人形になるしかないか。


「いいだろう。着てやる」


「では、陛下。こちらへどうぞ」


 私はトトトと試着室に通された。


「これですわ、陛下! 似合っておいでですわ!」


「……ベアトリスク。これはドレスですらない。下着だ」


 下着だった。決めてきわどいブラとガーターベルトにショーツ。


 もうドレスですらないじゃん! ただの下着じゃん! 馬鹿には見えない服とか!?


「そう言いませんでしたかしら?」


「言ってない。全く、エーレンフリートがいるのにこのような格好をさせるな」


 エーレンフリート君は壁の方を向いて心を無にしている。健気だ。


「エーレンは空気のようなものですわ。お気になさらず。それよりそちらのお嬢様はどう思われます?」


「……似合ってる」


 ベアトリスクさんがジルケさんに尋ねるのにジルケさんがサムズアップして返した。


「全く。戯れは終わりだ。着替えるぞ」


「下着はそのままでどうぞ」


「下着も着替える」


 貧相な体形の私があんなきわどい下着をつけても布の無駄遣いだよ!


「残念ですわ」


「貴様も妙なものを作ってないで仕事に励め。期待しているぞ」


 これでもベアトリスクさんは我が家の稼ぎ頭なのだ。頑張ってもらわなくては。


「重々承知しております。それでは陛下、またのお越しを」


 というわけで、ベアトリスクさんのところの見回り完了。


 ベアトリスクさんは順調と。


 次はイッセンさんのところを見てこよう。


……………………


……………………


 イッセンさんの鍛冶場を目指して職人通りへ。


 職人通りもいろいろと増えて布地職人や染め物職人などの看板が出ている。いよいよもってドーフェルの賑わいも頂点に達しつつあるのかもしれない。


 私たちは賑やかになった職人通りを歩み、鍛冶場“鉄の魂”の扉を叩く。


「邪魔するぞ」


 私が扉を開けるとフランクさんが受付で寝ていた。


「起きろ」


「は、はい!」


 私が告げるのに、フランクさんが慌てて起き上がった。


「ああ。ルドヴィカさん。イッセンさんにご用事ですか?」


「そうだ。奴は今、何をしている?」


「冒険者のための剣を鍛えていますよ。この街も冒険者が増えましたからね」


 ほうほう。冒険者も増えてるのか。


 そう言えば、最近受付の列の流れも遅くなっている気がする……。冒険者が増えたなら、受付カウンターも増設してほしいものなのだが……。


「では、様子を見させてもらうぞ」


「集中されているみたいですから、邪魔しないようにお願いしますね」


 私たちが鍛冶場に向かうのに、フランクさんが心配そうにそう告げた。


「イッセン、調子はどうだ」


「これは我が主。仕事の方は順調です」


 イッセンさんは作業中だったが、私の問いに応じてくれた。


「ところで、イッセンよ。私の剣を鍛えなおすことはできるか?」


 私が今のところ謎になっていた問題を解決することにした。


 すなわち、私の魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”が最終強化段階にあるのかどうかだ。私のこの魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”は初期でも基礎攻撃力1万という化け物じみた力を持った武器だが、最終強化では攻撃力5万となる。


 あのキメラを瞬殺したり、ガーディアンを瞬殺したりしているのを見ると、どうにも私の魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”は最終強化を行われているように感じられる。


 そこのところを専門家のイッセンさんに聞いておきたい。


「……これはこれ以上鍛えなおす必要などありませんな。研ぐ必要すらないでしょう。これか完璧な状態にあります」


 やっぱりかー。そんな気はしてたんだよねー。


 しかし、どうやって鍛えたんだろう。私に隠された錬金術の力がってことはないだろうし、ディアちゃんと出会ってから強化を頼んだ覚えもないし……。


 謎。全く以て謎。


「手間を取らせて悪かったな。これからも仕事に励むがいい」


「はっ」


 私の言葉にイッセンさんが頷く。


 さて、謎が増えたぞ。


 私は本当に100年生きているのか。そして、どうして魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”は最終強化状態にあるのか。分からないことだらけだ。


 ひとつ言えるのは、私たちはなんだかんだで人間の生活に馴染んでいるということ。


……………………

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