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美味いと言え(そのクッキーのお味は)

……………………


 ──美味いと言え(そのクッキーのお味は)



 突如として赤いレーザー光線が私たちの姿を捉えると、地響きが鳴る。


「これがルドヴィカちゃんの言ってた──」


「グレートガーディアン!?」


 これまでのガーディアンと違い、4足歩行の異形のフォルムをしたガーディアンが起動し、私たちに武器を向けてくる。


「ピー……ガッガッ。侵入者検知。排除開始」


 グレートガーディアンはそう告げると、私たちに向けて突進してきた。


「ディア! やれるか! それともこれも私が倒すか!?」


「やるよ! 私たちだってやれるから!」


 流石はディアちゃん。主人公だぜ。


「いっくよー!」


 ディアちゃんが巨大樽爆弾を投げつける。


 それでもなおグレートガーディアンは突撃してくる。


「オールウェポンフリー」


 グレートガーディアンのレーザー光線が照準として放たれ、そのレーザー光線に捕捉されたディアちゃんにグレートガーディアンの火力が向けられる!


「やらせない!」


 そこでジークさんが前に立った。


 ジークさんは長剣で次々に放たれるグレートガーディアンの攻撃をいなす。


「ぐう……」


 だが、1発がジークさんの体に命中し、その鎧を破壊する。


「ジークさん! これを!」


「ありがとう、クラウディア君!」


 ディアちゃんがジークさんに上級治癒ポーションを投げ渡し、それを受け取ったジークさんがそれを飲み干す。それで傷は完全に塞がった。流石は切断された腕でも引っ付けるような治癒ポーションだ。回復力は伊達じゃない。


「畜生。こういうときにミーナがいてくれたらな」


 オットー君はそう愚痴りながらも適切にグレートガーディアンの弱点──放熱中の腕を狙って爆薬付きの矢を放つ。派手な爆発が起き、グレートガーディアンの動きが鈍る。


「……叩きのめす」


 さらに追い打ちをかけるようにジルケさんがグレートガーディアンの頭部にハルバードを叩き込む。グレートガーディアンがそれでよろめき、姿勢を崩す。


「今だよ、みんな!」


 一斉攻撃!


 ディアちゃんが巨大樽爆弾、オットー君が爆薬付き矢、ジークさんとジルケさんが刃物による攻撃。それが一斉にグレートガーディアンに叩き込まれる。


 クリティカル!


 グレートガーディアンは壊れかけの状態となり、再びレーザー光線で目標を探す。


「させるかよ!」


 今度はグレートガーディアンが攻撃を放つ前にオットー君が腕を攻撃した。爆発によってグレートガーディアンの腕が損傷し、兵装が封じられる。


 だが、グレートガーディアンは兵装が使用不能になっても武器がある。


 その巨体だ。


 その巨体で体当たりを食らわせられれば、大ダメージだ。


 そして、まさに今それを実行するためにグレートガーディアンは突撃を開始している。前衛のジークさんとジルケさんだけで防ぎきれるのか……!?


「はあああっ!」


 ジークさんが剣を構えてグレートガーディアンに立ち向かう。


「……やらせない」


 ジルケさんもハルバードを手にグレートガーディアンに立ち向かう。


 そして、グレートガーディアンとふたりが激突した。


 ど、どうしよう。助けに行った方がいいのかな……。


「ここから先には進ませないっ!」


 ジークさんは長剣でグレートガーディアンの突撃に応じていた。グレートガーディアンの突撃は強引に止められ、金属の軋む音が響いている。


「何をしている、ディア。今攻撃せずしてどうするか!」


「分かった!」


 ディアちゃんはグレートガーディアンの巨体に巨大樽爆弾を投げつける。


 爆弾が炸裂し、グレートガーディアンが動かなくなる。


「やった……?」


「やったぞ!」


 ディアちゃんがグレートガーディアンの残骸を見つめるのにオットー君が叫んだ。


「ピー……ガッガッ。損傷率90%。自爆シーケンス発動」


「自爆!?」


 え? こいつ、自爆とかしたっけ?


「逃げろ、逃げろ! てったーい!」


「ジークさん! ジルケさん! 急いで!」


 オットー君が逃げ出し、ディアちゃんがふたりに声をかける。


「逃げるぞ、シュラーブレンドルフさん!」


「……うん」


 私たちが慌てて退避した洞窟の中でグレートガーディアンの爆発する音が響いた。その爆発音はすさまじく、鼓膜がやぶれんばかりであった。


「今度こそやった?」


「やったみたいだぞ。素材が落ちてる」


 ディアちゃんがひょいと顔を出すのに、オットー君がそう告げる。


「つまり、これでついにドーフェルの神殿跡地の本殿に行けるわけだね!」


「そういうことだ。行くとしよう」


 ディアちゃんが喜ぶのにボロボロのジークさんが応じる。


「わわっ! ジークさん! 治癒ポーションと疲労回復ポーションを!」


「ありがとう。助かる」


 ディアちゃんが慌ててジークさんにポーションを渡すけれど壊れた装備まではどうにもならない。まあ、あの巨体の突撃を受け止められた人間というだけで凄いけれど。


「では、行こうぜ。ドーフェルの神殿跡地本殿」


 オットー君はグレートガーディアンが守っていた先の道を指さす。


……………………


……………………


「うわあっ! 綺麗だね!」


 ドーフェルの神殿跡地は遠くから眺めるよりも、近くで見上げた方が荘厳だった。


 大理石の石柱が聳え立ち、古代ギリシャの神殿に似た構造物が出来上がっている。


 神殿の中にはここで祭られていただろう神様の石像もあり、それらがまた美しかった。どうしてこの神殿が放棄されてしまったのか分からないほどに立派なものである。ここはいい観光名所になるね!


「安全のために少々補強が必要なようだが、それ以外はそのまま使えそうだな」


「ジークさんはここが何の神殿だったか知ってるんですか?」


 ジークさんが神殿の構造を見ながら告げるのに、ディアちゃんが尋ねた。


「昔、信仰のあった縁結びの神を祭っていた神殿だったそうだ。場所が場所なだけに、人々は離れていったと文献には記されていた」


「え、縁結びの神様……」


 え? ここってそんな場所だったの?


 ゲームではずっとドーフェルの神殿跡地のままで、特に名称がついたりすることはなかったんだけど、これからはドーフェルの縁結びの神殿跡地になるわけだな……。


 跡地というのが寂しい……。


「ふう。疲れたなあ。これから観光客のために魔物避けをして、それから道を整備するんですよね、ジークさん?」


「市議会はそう考えている。数少ない観光名所になるからね」


 オットー君が手ごろな石材に腰かけて告げるのにジークさんがそう返した。


「美容の温泉と縁結びの神様の神殿。これはカップルの観光客が増えるね」


「ミーナも同じこと言いそうだ」


 ディアちゃんが気合を入れて告げるのに、オットー君が苦笑いを浮かべて返した。


「それじゃ、ここら辺でお昼にしようか。流石に神殿の中は神様に失礼だから、そこの丘で食べよう。お弁当、気合入れて作って来たからね」


「ふむ。期待せずに待っておくとしよう」


 楽しみだね、お弁当と言いました。


「ささっ、みんなの分、作って来たからね」


 流石はディアちゃんだ。私はクッキー焼くだけで手一杯だったよ……。


「それではいただきまーす!」


 献立を確認したが、やはり肉詰めのピーマンが入っている。ディアちゃんは本気でジークさんを狙いに行っているね。食後のデザートはアーモンドクッキーかな?


「……お弁当、美味しいね」


「確かにそれなりだな。それなりだ」


 ジルケさんが告げるのに、私は美味しいよねと返した。


「このおにぎり、ディアの飼ってるポチスライム柄だな」


「可愛いでしょ? ポチが可愛いからお客さんが寄ってくれたりするんだよ。あんまり吠えない子だし、ポチスライムの寿命って60年近くあるから安心だよね」


 え? ポチスライムってそんな長生きするの?


 タ、タフなんだな、ポチスライム……。


「ジークさん。お弁当、どうですか?」


「ああ。とても美味しいよ。私はピーマンの肉詰めが好きでね。クラウディア君の作ったものも美味しいよ。昔は子供っぽいかもしれないがピーマンが苦手でね。母が作ってくれたこのピーマンの肉詰めで克服したものだ」


 ああ。ジークさんにとってピーマンの肉詰めはおふくろの味なのか。なるほど。


「気に入ってもらえたなら何よりです。頑張って作りましたからね」


 ディアちゃんがパーフェクトコミュニケーションというように満面の笑みだ。


「……私もお弁当、作ってくればよかった」


「またの機会に、だな」


 果たしてジルケさんは料理はできるのだろうか。


「じゃあ、最後にみんなでお参りしてから帰ろう」


「縁結びの神様にか?」


「幸運と結び付けてくれるかもしれないじゃないですか」


 ささっというようにディアちゃんがみんなが食べ終えたお弁当箱を片付けて、みんなを神殿跡地の方に向かわせる。


「ジークさんはちょっと残ってもらっていいですか?」


「うむ。何だろうか?」


 お? いよいよかな?


 私たちはお邪魔虫にならないように神殿跡地に進むもう。


「ああ。そうだった。ジルケ、エーレンフリート。これをやる」


「これは……」


 唐突に私が紙袋を手渡すのにエーレンフリート君が首を傾げる。


「貴様の所望していた甘き誘惑だ。私の手造りだぞ。感謝しろ」


「おお……。陛下御自らの手で作られたものをいただけるとは……」


 エーレンフリート君は今にも泣き出しそうだ。


 でも、私が欲しかったリアクションはそういうのじゃなくて、ちょっと赤面してくれるとか、私のこと抱きしめてくれるとかそういうのなんだけどね。


 ま、エーレンフリート君が嬉しそうだしいいか。


 でも、私の真意にはちゃんと気づきなよ!


「……ありがとう、ルドヴィカ」


 そして、ジルケさんの方は見事に赤面して私を抱きしめてくれた。


 違う、違うんだ、ジルケさん。ジルケさんへのそれはそういう意味じゃないんだ。


「一生大事にするから」


「賞味期限が来る前に食え」


 頓珍漢なことをのたまうジルケさんに私が突っ込んだ。


「なあ、なあ、俺の分は?」


「ない。貴様はパーティーが違うだろうが」


 ごめんね、オットー君。君の分はないんだ。


「ケチだな。あ、ディアが戻ってきたぜ」


 ディアちゃんとジークさんがこちらに戻ってくる。


「ディア。縁結びの神様にお参りしていく必要はありそうか?」


「ま、まあね! これからもいろいろあるわけだしさ!」


 その反応から見るにジークさんへのプレゼントは成功だったな。ジークさんも心なしか頬を赤らめている。ひゅーひゅー。


「では、参っていくとしよう。私は神などには頼らぬがな」


 嘘です。神様めっちゃ頼りにしてます。


 私たちはそれぞれ神殿に向けて一礼すると元来た道を戻っていったのだった。


……………………

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