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地獄に近い場所だな(我ら洞窟探検隊)

……………………


 ──地獄に近い場所だな(我ら洞窟探検隊)



 ディアちゃんの準備が整うまで私たちはクエストをこなして待機。


 心なしか護衛依頼が増えてきている。行商人の依頼だ。


 このドーフェルの周辺はピアポイントさんたちが守ってくれているから安全だとして、このドーフェルから離れると危険なのだ。


 山賊や魔物。そういうものに出くわすらしい。


 とは言え、私たちは今はドーフェルを離れられないのでこの依頼は受けられないよ。


 ちなみに、ディアちゃんの洞窟探索は依頼にはなっていない。


 個人的な依頼なので冒険者ギルドは介入しないのだ。


 冒険者ギルドもクエストをこなしていくと冒険者レベルが上がって、より危険なクエストに挑戦できるらしいけど、このドーフェルじゃ如何せん冒険者の絶対数が少ないので、ほとんど関係ないのが現状だ。


 ちなみに私とエーレンフリート君はシルバー級冒険者でジルケさんがプラチナ級。


 私たちもプラチナ級冒険者になってみたいけれど、冒険者としてレベルを上げに来たのが目的ではないので、今は二の次だ。


「ルドヴィカちゃーん!」


 私たちが冒険者ギルドの掲示板を眺めているとディアちゃんが飛び込んできた。


「準備できたよ! いつでも出発可能です!」


「結構だ。しかし、貴様も運がいい。私たちが依頼を受ける前にやってくるとはな。貴様にも風の囁きが聞こえてきたか?」


「風の囁きはまだ聞こえないかな」


 ごめん。適当言ってるだけなんだ。


「それでは十二分に準備して出発だ。行くぞ」


「準備はばっちり。オットー君が支度を手伝ってくれたから。ミーナちゃんも来るよ」


 えらく大所帯での捜索になるな。


「ならば抜かりはないな。ドーフェルの大洞窟はドーフェルの森の洞窟とは比べ物にならないはずだ。十二分に気をつけろ。では、いくぞ」


「ルドヴィカちゃん。ドーフェルの大洞窟は南門より北門から出た方が早いよ?」


 うん。なんとなくね。そんな気はしてたんだよね。


……………………


……………………


 ドーフェルの大洞窟はドーフェルの北に10キロ程度の場所にあった。


 森の中に入ってしばらく進むと、真っ暗な口を開いたドーフェルの大洞窟が姿を見せる。いかにも危険そうな探索マップだ。


 実際のところ、ドーフェルの大洞窟からは魔物のレベルも上がってくる。装備をちゃんと整えておかないと、まともに探索することはできないぞ。


「では、いざドーフェルの大洞窟へ!」


 ディアちゃんの号令で我々はいざドーフェルの大洞窟に。


 ドーフェルの大洞窟は真っ暗かと思ったら、それは入り口だけで洞窟内はうっすらとした明かりがともっていた。なにやら岩が光りを発しているような……。


「あー! 魔法石だ! こんなにいっぱいあるなんて!」


 魔法石!


 説明しよう、魔法石とは!


 魔力の豊富な地質で魔力が長年の年月をかけて圧縮されたものである。魔力に富んでいるので上質なものは装備品に使えたりするぞ。うっすらと青色に輝いているのが、魔術の力を感じさせるというものだ。


「採取しておけ。今後の強化で必要になるかもしれんぞ」


「了解! 採取、採取っと」


 ディアちゃんが採取している間、私たちは周囲を見張る。


 不審な魔物はいないか。いや、魔物に不審も何もないか。


 とにかく、危険そうなものを要チェック。


「……来た」


 ジルケさんがそう告げると洞窟の奥の方からワンワンといういつもの鳴き声が。


「ワン!」


 出た! ポチスライム洞窟亜種!


 ポチスライム洞窟亜種は通常のポチスライムの2倍の体力を有する。それに加えて攻撃力も2倍だ。その上にこのポチスライム洞窟亜種は毒のカビを撒き散らすのだ。ここに来て通常モンスターが状態異常を仕掛けてくる。


 まあ、でも所詮はポチスライムなのでサクッと倒してしまおう。


「行くぞ。魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”」


 この黒書武器を抜くと、ポチスライム洞窟亜種たちが狼狽える。


「ここはあたしに任せて! ストームウィンド!」


 ミーナちゃんが後方から詠唱するとポチスライム洞窟亜種たちは嵐の中に吸い込まれ、そのままぼふんと白煙を噴き出して素材だけを残した。


「やるな、ミーナ」


「へへーン! あたしも日々鍛錬しているわけだからね」


 オットー君が褒めるのにミーナちゃんがどやっという顔をする。


 私も褒めたい。褒めたいのだが、何か言うと右斜め後方に言葉がねじ曲がって、結果として褒めてないことになるのでここは大人しくしておく。本当に私の魔王弁ときたら、生活に支障をきたすレベルなんだから。


「この調子でバリバリ進むわ!」


「待ってよ、ミーナちゃん! まだ採取が終わってないから!」


 ミーナちゃん、今日はテンション高いな。


「ギャッギャッ!」


 不意に気味悪い音が聞こえたと思うと、洞窟の向こうから蝙蝠の大群が!


「気持ち悪い! ファイアーダンス!」


 ミーナちゃんはそう告げると杖を振るって炎の渦を叩き込む。


 すると、今度は炎上した蝙蝠が洞窟内を暴れまわる!


「ええい! 何をしてる!」


 私は飛び回るエンチャントファイア状態の蝙蝠を打ち落としていく。


 ジルケさんとエーレンフリート君も確実に蝙蝠を迎撃し、オットー君も弓で蝙蝠を1体、1体撃墜していく。


 そうして過ぎること15分。なんとか犠牲者なしで突破できた。


「ミーナ。お前、使う魔術は考えろよな」


「だって……」


 分かる。分かるよ。あんなに蝙蝠出てきたらびっくりするもんね。


 なので、今回も私は何も言わない。私が口を出すと面倒なことになると決まっているのだ。ミーナちゃんにはこれ以上嫌われたくない。


 そう、ただでさえいろいろあってミーナちゃんからの好感度はギリギリなのだ。これ以上下手な真似をして好感度がマイナスになることは避けたい。


「……今日は何も言わないんだ?」


「何がだ?」


 と思ったらミーナちゃんの方から声をかけてきたー!


 ちょっと待って! 私は細やかな心配りとかできないから、慰めるとか無理だよ!


「いつもならアホとか馬鹿とかいうじゃん。今日は何も言わないの?」


「言って欲しいのか?」


 頼むから余計なことは言わないでくれよ、私。


「そんなことない。ただ、言われないなら言われないで相手にされてないような気がするだけ。あたしなんて眼中にもないってこと?」


 ううむ。それっていろいろと不味い傾向では……。


「では、言ってやろう。さっきの判断は愚の極みだ。戦場をまともに見ずに、一時の感情で人を殺せる魔術を放ったのは大間抜けだ。あやうく我々まで巻き添えを食らうところであった。さっきの魔術は阿呆の魔術だ」


「そうだよね……。個人的にも失敗かなって思ってたんだ」


 エンチャントファイアされた蝙蝠さんが飛び回ることになったのは擁護できない。


「しかし、その前のポチスライムたちを屠った魔術はそれなりのものだったぞ。評価してやる。そのまま鍛錬を積めばそれなりの魔術師にはなれるだろう」


「え?」


 私がポチスライムの方はよかったよと言うとミーナちゃんが目を丸くした。


「あんた、人のこと褒められたんだ……」


「何をたわけたことを。褒めてなどおらぬ。今後も鍛錬を積めと言ったのだ」


「いやいや。今のは褒めてるよ」


 私の言葉にミーナちゃんが笑顔を浮かべる。


「それじゃあ、これからもよろしくね、ルドヴィカ!」


 ミーナちゃんはそう告げるとまた元気になってディアちゃんのとこに駆けていった。


「騒々しい娘ですね」


「あの年頃の娘とはそういうものだ」


 エーレンフリート君はそう告げるのにミーナちゃんもお年頃だしと返す。


「採取完了! いろいろ採取できたね! 奥に進もう!」


 ディアちゃんの採取も完了し、私たちは洞窟の奥へ。


「オオオオォォォォッ!」


 そして、洞窟の奥に進むこと30分で突如として咆哮が響いた。


「な、なになに!?」


「気をつけろ。ここはレッサーワイバーンの縄張りだ」


 そうである。ここはレッサーワイバーンの縄張りなのだ。


 暗闇から赤く輝く瞳が現れ、低い唸り声が響く。


 そして、青く輝く魔法石の明かりに照らし出されて、レッサーワイバーンが姿を見せた。以前、私たちを襲ったレッサーワイバーンよりも大きく、獰猛そうな表情をしている。その周囲には食い殺された何かの骨が転がっていた。


「あわわわ……。これは強そうだよ……」


「だから言ったであろう。装備を整えておかねば危険であると」


 ディアちゃんが震えた声を発するのに、私もビビりながらそう告げた。


「そうだね。でも、準備はできてる!」


「いくぞ!」


 ディアちゃんがそう告げ、オットー君が弓を構える。


「いっくよー! フロストバイト!」


 ミーナちゃんの詠唱で地面から虎バサミのように氷の刃がレッサーワイバーンを挟んだ。レッサーワイバーンは拘束から逃れようとするが氷の牙がなかなかほどけない。


「これでも食らえ!」


 オットー君は矢を放つ。


 レッサーバシリスクの素材で作られた矢で相手を毒状態にする弓を使っている。オットー君の放った矢は見事にレッサーワイバーンの目に命中し、レッサーワイバーンが大音響の悲鳴を上げて、悶える。


「食らえっ! 巨大樽爆弾!」


 そして、ディアちゃんが追い打ちをかけるように樽爆弾を投げつける。


 樽爆弾が炸裂し、レッサーワイバーンが黒煙の中でもがくのが見える。


 火炎放射がきたのは次の瞬間だった。


「ジルケ! エーレンフリート! 押さえろ!」


「はい、陛下!」


 私たち前衛はワイバーンの攻撃からディアちゃんたちを守る。


「オオオォォォッ!」


「畳むぞ!」


「……分かった」


 レッサーワイバーンの火炎放射が途絶えたところで私たちが殴りかかる。


 魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”はセーフモードで使用。この洞窟内でフルパワーで行使すると、どんなことになるのか想像もしたくない。


 ジルケさんの一撃が、エーレンフリート君の一撃が、私の一撃がそれぞれ叩き込まれ、レッサーワイバーンが姿勢を崩し、そのまま地面に倒れた。


 そして、ぼふんと白煙を立ち上らせると、素材だけを残して消滅した。


「勝ったー! 勝ったよー!」


「当たり前だ。これぐらい余裕で勝てるだろうが」


 大喜びするディアちゃんに私はやったねと言いました。


「やったね、ディア!」


「やったな」


 ……みんなここで達成感を味わっているけれど、この奥に進むとレッサードラゴンがいるということはまだ黙っておいた方がいいだろうか。


 そうなのだ。ドーフェルの大洞窟の探索マップボスはレッサードラゴンなのだ。


 これはあくまで前座。この奥にも洞窟が続いているから分かるよね?


「まだ油断はするな。この先にも敵はいる。風の囁きがそう告げているからな」


「よし。気を付けていこう! 油断大敵!」


 ディアちゃんがそう告げるとミーナちゃんたちも気合を入れなおして、ドーフェルの大洞窟をより奥に向けて進んでいく。


 途中で鉱石や薬草、コケなどを採取しながら、私たちはドーフェルの大洞窟の最奥を目指して進んでいく。ちゃくちゃくと最奥が迫るのに、私は心臓が引っ張られるような感触を覚えていた。


 道中の敵のレベルも上がっており、ポチスライム洞窟亜種だけではなく、洞窟大蛇などの危険な敵がほいほいと現れる。


 私たちはそれを撃破しながら前進を継続。


 洞窟の明かりは魔法石の明かりが頼りで、途中にある崖などから落っこちないように用心しながら前進していく。


 そして、ついに洞窟最深部を私たちは前にした。


 金属製の重々しい扉が閉ざされており、いかにもこの先に何かありますというのが示されている。分かりやすい親切設計だ。


「いよいよだね」


「いよいよだな」


 ディアちゃんが告げるのに私がそう告げて返す。


「……何かいるけど、何?」


「レッサードラゴンというところだろう。見て見なければ分からないがな」


 ジルケさんが尋ねるのに私が扉に手をかける。


「いくぞ。準備はいいな?」


「オーケー!」


 よし、では突入!


 私たちは扉を大きく開いて、洞窟最奥に足を踏み入れる──1


……………………

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