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薄汚い街だ(王都に到着)

……………………


 ──薄汚い街だ(王都に到着)



 途中の馬屋で休憩しながら進むこと3日。


 ついに王都が見えてきた。


 高い城壁に囲まれた立派な都市に見える。中央に聳えているのは王城だろう。


 遠く見ただけで田舎町のドーフェルとは全然違うことが分かる。こんな立派な都市からドーフェルのような田舎に本当にお客さんが来てくれるのだろうか?


 まあ、何はともあれまずは職人さんを送り届けよう。


 私たちは王都の城門に向かう。


 すると、なんと城門では列ができていた。


 飲酒運転の検問でもやってるのかなと思ったけれど、そういうわけではなさそう。


「何か事件でもあったのかな?」


「さてな。下等な者どもは些細なことで騒ぎすぎる」


 ここまで大騒ぎするなんてどういう事件だろうと言いました。


 これでかなり待たされるかなと思ったけれど、そういうこともなく列はスムーズに進んでいった。入り口で何かトラブルがあっただけかな?


「次の馬車!」


 城門を守る衛兵さんの声で私たちの馬車が城門の前に出る。


「訪問の目的は?」


「王都の職人を送り届けに来た。それからドーフェル市の観光促進だ」


 衛兵さんが尋ねるのに私が素直にそう告げる。


「ふむ。それだけだな? 身分証は?」


「これだ」


 私は冒険者カードを見せる。


「確認した」


「何かあったのか?」


 衛兵さんが私の身分証を返すのに、私はそう尋ねる。


「王都に吸血鬼が出没したらしい。だから、警備を厳しくしているところだ。だが、こんな昼間に吸血鬼が出歩くはずもないか。ハハハ!」


「そ、そうだな」


 出歩いてますよ、私のすぐ後ろで。


「行っていいぞ。揉め事は起こさないようにな」


 とりあえず私たちは職人さんたちを送り届ける。


 職人さんたちからクエスト達成書をもらうと、私たちは宿屋に向かった。


 宿屋“狼亭”。


 私たちはチェックインを済ませ、荷物を部屋に置くと部屋のひとつでエーレンフリート君を取り囲んだ。


「エーレンフリート。吸血鬼が出没したそうだが、心当たりはないのか?」


「残念ながらありません、陛下。私以外で生き残っている始祖吸血鬼は2名。そしてその眷属は数百に及びます。とてもではありませんが、全てを掌握するのは困難です」


 エーレンフリート君は私たちに取り囲まれて困った表情を浮かべた。


「貴様は絶対にかかわっていないと断言できるな」


「はい、陛下。陛下の命令なく動くことはありません」


 ふう。なら、問題ではないな。


「ですが、生き残りの始祖吸血鬼2名が動いたとなれば面倒です。連中も腐っても始祖。私と同等に近い能力を持ちます。もちろん、陛下にとって敵ではないということは分かっているのですが」


 いやいやいや。


 エーレンフリート君、相当強いでしょ? それが2名敵対しているってわけ?


 それも今回動いているかもしれないって? やばいじゃん! ピンチじゃん!


「エーレンフリート。もし、動いていたとしたら貴様で処理できるか?」


「ひとりは確実に。もうひとりは分かりません」


 エーレンフリートでも渋い表情を浮かべる相手か。これは相当不味いな。


「ねえねえ。私たちが手伝おっか?」


「戯け。貴様のようなへっぽこ錬金術師に始祖吸血鬼の相手ができるものか」


 ディアちゃんが暢気に告げるのに私が首を横に振った。


「これは我々の問題だ。我々で片付ける。それより貴様らはドーフェルの宣伝をするのだろう。準備をしなくともいいのか? 怠惰であるならば成功はないぞ?」


「まっかせといて! 今日の日のためにいっぱい石鹸も作ってきたし、宣伝のためのチラシも作ったし、頑張って宣伝して来るよ」


 ディアちゃんはそう告げてパンパンとショルダーバックを叩く。


「ならば、貴様らはそれを抱えて宣伝に行ってこい。私とエーレンフリートは吸血鬼について探りを入れてくる。私の支配する世界で身勝手な真似をしている連中がいるのは許されぬことだからな」


 みんなの安全のために頑張ります! と言いました。


「分かった。それじゃ、私たちは宣伝に行ってくるね。実を言うともうこの王都の広告代理店の人と契約してて、その人たちに会って、具体的な宣伝案を決めるんだ」


「そうか。頭の回りはそこまで鈍くはなさそうだな」


 ディアちゃん、しっかりした子だな。


「ルドヴィカちゃんたちは吸血鬼対策頑張って! 私たちも頑張るから!」


「ああ。そうしろ」


 そう告げて私とエーレンフリート君はディアちゃんたちを見送った。


「さて、我々も動かなければならないな。この薄汚い王都のどこに吸血鬼が潜んでいることか。ここは奴らにとって獲物に困らない土地だろう」


「その通りですね。獲物には困らないでしょう。この大都市でひとりふたり行方不明になってもまともな捜査は行われないでしょうから」


 ううむ。王都の人口は半端じゃなく多いんだよな。


 10万、20万だっけ。この城壁の内側にそれだけ暮らしているんだから大変だよ。


「衛兵から話を聞きだせればいいのだが」


「陛下。もし、吸血鬼がいて、連中が食事を行っているとすれば行方不明者の捜索クエストが出ているかもしれません。冒険者ギルドを当たっては?」


 ナイスだ、エーレンフリート君!


「では、早速冒険者ギルドに向かうぞ」


「はい、陛下」


 というわけで、私達は冒険者ギルドへ。


 しかし、王都というのは……。


「薄汚い街だな」


 建物も、人も、道も、ドーフェルと比べると薄汚い。


 ドーフェルはここより人口が少なかったためか、そこまでゴミゴミとはしてなかったんだけど、王都は人、人、人で、人で溢れかえっていて、そのせいかあちこちが汚いのだ。臭いし、汚いし、さっさとドーフェルに帰りたいな。


「少し人間を減らしますか?」


「放っておけ」


 減らしますかじゃないよ、減らしますかじゃ! さらっと物騒なことを真顔で言わないでおくれ。


 私とエーレンフリート君がそんなやり取りをしていたときだった。


 街中で心臓が引っ張られるような感触に襲われた。


 まさか、街中に本当に吸血鬼が!?


「エーレンフリート」


「はい、陛下」


 私たちは心臓の引っ張られる方向に向かう。


 さてさて、吸血鬼は出没したのだろうか?


「う、うわー!」


 おおっと! 何か騒ぎになっている! やはり吸血鬼が!?


「どけっ!」


 すいません、通りますと言いながら私たちは悲鳴の方向に。


「化け物だ! 化け物が出た!」


 やがて人の流れが逆流してくる。


 私たちが人込みを描き分けて進んだ先には──。


「アァー……」


 ゾンビだー!


 口の周りを血だらけにしたゾンビが3体、建物から出てきていた。


 何故ゾンビだと分かるかというと、まず顔が青白くて血の気がなく、ついでに体にあれこれと致命傷に近いものが刺さっていながら動いており、加えて目玉がぼろんしているからである。こういうのゲームで見た!


「お嬢ちゃんたち! 危ないぞ! 逃げろ!」


「フン。雑魚は引っ込んでいろ。この程度の化け物、私が片付けてやる」


 そう告げて私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を引き抜き──。


 いや、街中で魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を使ったら不味くない? 一目で黒書武器だって分かるし、何より周辺被害が不味くない? 大丈夫?


 いやいや。大丈夫。私は牧場で牛さんを傷つけることなく、透明ポチスライムをみじん切りにしたのだ。その要領でいけばいける!


「叩き切って、それで終いだ」


 どうか周辺被害が出ませんように……。


 私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構えると、ゾンビたちに向けて突進した。大丈夫、ゾンビは慣れてる。ゲームでは何体も撃破してきた。……剣じゃなくて銃でだけれどね。それでもそこまで変わるはずが……。


「アアアァァァ……!」


 ひいっ! 呻き声がリアルすぎて怖い!


 よく見ると凄いグロいし! よく見なければよかった!


 し、しかし、焦るな、私。焦って周辺被害を出したら打ち首かもしれないぞ。あくまでゾンビだけを倒すのだ。落ち着いて、落ち着いて。ふう。


「いくぞ」


 私はセーフモードで魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を振るう。


 一気にゾンビ3体が真っ二つになり、臓物を撒き散らして倒れる。うげ。


「ん? まだ遊び足りぬか?」


 ま、まだ生きてるー! 動いてるー!


「エーレンフリート」


「はっ」


 こういう時はエーレンフリート君に投げよう!


「魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”」


 エーレンフリート君は黒書武器を抜くと地面をのたうつゾンビに突き立てた。


 ゾンビは生命力を魔剣“処刑者の女王(ブラッディ・メアリー)”に吸収されて行き、やがて動かなくなった。エーレンフリート君は同じ要領で他の2体も仕留める。


「片付きました、陛下」


「うむ。何か分かったことはあるか?」


 正直、私はほとんど役に立ってなかったのに、魔王弁は偉そうだぞ。


「……見知った臭いがします。この屍食鬼たちからは、私の知っている臭いがするのです。あの女が付けていた品のない香水の匂いが」


「ほう。つまり、相手は始祖吸血鬼か?」


「恐らくは」


 やべーのがきちまったぞ。


 せめてホームであるドーフェルで戦うならともかく、全く見知らぬ王都で戦うというのはちょっとつらい。土地鑑もないし、どうしたものだろうか。


 ここはさっさとドーフェルに逃げ帰った方がいいのでは?


 王都のことは王都の人に任せよう。きっと強い騎士団とかがどうにかしてくれるさ。


 私は知らなーい。私のせいじゃないもん。悪いのはどこかの始祖吸血鬼だもん。


 なんてことは言えないよねえ……。


 明らかに始祖吸血鬼たちは私を襲撃しにやってきているわけで、私のせいなのは間違いないもんなあ。責任は取らないといけない気がする。


 それにこのままドーフェルに逃げても追いかけられるだけだろうし。ドーフェルで誰かがゾンビにされたりしたらたまったものじゃないよ。


「エーレンフリート。ここで奴らを仕留めるぞ」


「はい、陛下」


 というわけで、王都でヴァンパイアハンターをやることになりました。


……………………

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