まあ、悪くないのではないか?(露天風呂完成です)
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──まあ、悪くないのではないか?(露天風呂完成です)
私たちが銭湯に向かっていたときだ。
「あ。ルドヴィカちゃん!」
「錬金術師の小娘と成金の娘か。どうかしたのか?」
私たちはディアちゃんとミーナちゃんに遭遇した。
「ついに露天風呂が完成したんだって! 今から入りに行くんだ。ルドヴィカちゃんたちもどう? 一緒に行かない?」
「ほう」
もう完成していたのか露天風呂。
まあ、ミドガルドシュランゲもレッサーバシリスクも退治されたし、安心して工事が行えただろう。これでドーフェル市の観光促進が捗るね!
「よかろう。一緒にいってやる。ジルケ、貴様はどうする?」
「行く」
即答か、ジルケさん。
「それじゃあ、露天風呂に向かってレッツゴー!」
ディアちゃんテンション高いなー。
かくいう私も楽しみですけれどね!
というわけで私たちは目的地を変更して、再びドーフェルの城門の外へ。
ドーフェルの城門を出てから歩くこと20分で露天風呂に到着だ。
露天風呂は前来た時と違って、きちんと休憩所が整備され、脱衣所があり、温泉内は外から見えないように柵がされている。
しかし、ドーフェル市からここまでの道のりはまだ整備されていないぞ。
まあ、そこら辺はちょちょいのちょいだろう。
そう思いながら私たちはまず休憩所を覗く。
「おお。ヘルミーナとお友達の皆さん」
「お父さん? こんなところで何しているの?」
休憩所ではどういうわけかハインリヒさんが座っていた。
「いや。実際に入浴したお客様から感想を聞きたくてね。ヘルミーナとお友達の皆さんも入ってみたら、感想を教えてください」
ハインリヒさんは商売熱心だな。
「考えておいてやろう」
感想は後ほどと言いました。
私たちは休憩所を通過して脱衣所へ。
脱衣所では服を脱ぐわけだが──。
「でかいね」
「ああ。見るも無残にでかいな」
ミーナちゃんと私の視線はディアちゃんとジルケさんに向けられていた。
銭湯の時に判明していたのだが、ディアちゃんもジルケさんもでかい。どこが? と尋ねるような間抜けはいないだろう。脱衣所で生まれたままの姿。そこで目にするものはひとつだけである。
「ふー。最近、暑いよね。汗かいてしょうがないや。露天風呂で汗が流せるといいんだけれど。本当に最近暑いからなー」
確かに最近は暑い。
夏の熱気がこのドーフェル市を襲っている。とは言っても、九州の真ん中育ちの私にとってはこれぐらいの暑さはどうってことない。むしろ、冬の方が心配だ。九州の真ん中はそこまで寒くなることもなかったからな……。
「夏服を仕立ててはどうだ? 貴様に金の余裕があるならば、ベアトリスクの店で仕立ててやるぞ。私の友として値引きも検討してやってもいい。貴様のような下賤なものであったとしても夏は暑いものだからな」
「あ、あのお店か。あのお店って各地から貴族の人たちが来てるし高いんじゃない?」
「高いな」
ベアトリスクのドレスはどれもびっくりするほど高い。
でも、ディアちゃんは私の友達だし、値引きしてもらえると思うよ!
「うーん。今は温泉の宣伝費にほとんど使っちゃったから、また今度機会があれば」
「そうか」
ディアちゃん。そこまで宣伝に力を入れてるなんて……!
今度、サプライズで夏服プレゼントしよう。そうしよう。
「じーっ」
「なんだ、ジルケ。貴様も夏服が必要か?」
ジルケさんがじっと私を見つめるのに、私がそう告げて返す。
「……少し、気になる。実を言うと今度、晩餐会にでなきゃいけないかもしれない」
「ほう。貴族の集まりか?」
「そう」
ジルケさんも貴族だったもんね。ちなみにミーナちゃんも立派な貴族だよ。
……どちらも貴族なのに冒険者という危ない職業をやってるな。お転婆が多いのかなこの世界の貴族令嬢の皆さんたちは。
「ならば、ここ一番のドレスを仕立ててやらねばな。私の友がみっともない恰好で晩餐会に出て、笑われたとなればこの私に対しての侮辱にもなる。貴様にはしゃんとした恰好で晩餐会に出席してもらうぞ、ジルケ」
「そこまで畏まった場ではないのだけれど……」
私に任せといてと言うのに、ジルケさんがちょっと困った表情を浮かべた。
「どのような場であろうとも、だ。それとも金に不自由しているのか?」
「……そういうことはないけど」
「ならば、任せておけ。ベアトリスクが貴様を一流の貴族に仕上げるだろう」
ジルケさんってスタイルいいし、きっとドレスが似合うと思うな!
「……考えておくね」
「そうしろ」
さてさて、このドレスは見た目は素晴らしいのだが、着たり脱いだりするのが大変で困る。冒険者を始めてからはひとりで着脱できるものをベアトリスクさんには選んでもらっているけれど、それでも脱ぐのは一苦労。
下着も凝ってて、見えないところまでお洒落! なのはいいけれど、私はジャージ生活の方が楽でいいかもしれないと密かに思った。
しかし、魔王様がジャージ姿というのも締まらない。
何はともあれ、服を脱ぎ終えたので露天風呂にゴー!
「ほう」
どんなものかなと思ったが、まさに日本の露天風呂という感じだ!
石造りの浴槽で、男湯と女湯は仕切られ、森を抜けた先の景色は山!
最高の露天風呂だ!
「景色が綺麗ね。こんなに綺麗になるなんて思ってなかった」
ミーナちゃんが感心した様子でそう告げる。
「早く入ろう! お風呂につかりながら眺めたらもっといいよ!」
「まずは体を洗え」
ディアちゃんが湯船に突進しそうになるのを私が止めた。
「ああ。そうだった。興奮のあまり忘れてたよ」
そう告げてディアちゃんが洗い場に向かう。
「ああ! これ、私が作った石鹸だ! ここにおいてくれたんだね!」
「ディアのその石鹸、凄く評判いいらしいよ。ハーブの成分がお肌にいいとかで。それにアロマ効果もあるとか。これからはそれを作るので大忙しかもよ?」
「これはこのハーブを育ててくれた農家の人に感謝しないと」
へー。そういえばベアトリスクさんも街で噂の石鹸があるってことを言ってたな。もしかして、観光の目玉商品出来ちゃった感じ?
これはいい兆候だ。悪くないぞ。観光地に特産品。後は宣伝さえしっかりすれば、お客さんはやってきてくれるはずだ。
「確かに悪くはない石鹸のようだな」
おお。肌に染み込むようなハーブの感触。洗ったところがつやつやになる。
「でしょ? さて、私は体を洗ったから一足先に失礼」
「あー! ミーナちゃんずるいー!」
そんなに急がなくても露天風呂は逃げないよ、ディアちゃん。
「ジルケ。貴様は髪を少し整えたらどうだ?」
私は髪を編み込むのに苦労していたジルケさんを見てそう告げる。
「……面倒くさい」
分かる。とても分かるよ。
長年ボッチだと、どうせ私がお洒落しても誰も見てくれるわけじゃないしーって気分になるよね。私もそんな気分で伸ばしっぱなしだったし。
だが、ジルケさんは貴族の娘さん! それも今度晩餐会がある!
これはちゃんとしないといけないよね。
「今度、私の家に来い。ドレスの採寸を計るのと同時に髪を整えてやる。せっかくドレスを新調しても髪がそれでは無駄だ。私の友ならば私の友らしくしろ。貴様はいい素材を持っているのだから、有効に使わぬのは宝の持ち腐れだぞ」
「……分かった」
渋々という風にジルケさんが頷く。
さて、私たちも体を洗ったので露天風呂にゴーだ!
ちゃぽんと肩まで湯に沈み、そこから雄大なドーフェルの山の景色を眺める。
うむ。実にいい。
景色は雄大だし、夏の露天風呂も乙なものだ。私的には露天風呂は冬とかの外気との温度差があるときの方が好きだけれど、夏にさんさんと太陽の光を浴びて入る露天風呂というのも悪くないというものだ。
遠くで虫の音が聞こえ、鳥の鳴き声が聞こえる。それ以外は静か。
「はあ。リラックスできるね」
ディアちゃんがとろけたような表情でそう告げる。
「悪くはないな。まあまあというところだ」
私もとろけた気分でそう告げる。
「これって絶対観光名所になるわよね……」
ミーナちゃんもとろけた表情で感想を述べる。
「……とてもいい」
ジルケさんもとろけている。
そんなこんなで私たちは露天風呂でまったりととろけながら露天風呂を満喫した。
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