レッサーバシリスク討伐
……………………
──レッサーバシリスク討伐
今日も今日とてニートではないことを証明するために冒険者ギルドにやってきた。
「めぼしい依頼はあるか、エーレンフリート」
「はっ。ドーフェルの山のレッサーバシリスク討伐の依頼がでております」
おや。誰も引き受けなかったのかな?
「依頼主はあの錬金術師の小娘です」
「ディアが?」
ディアちゃんがレッサーバシリスクに何の用だろう。
と思ったが、このゲームは基本的にディアちゃんが探索マップボスを討伐していくものであることを思い出した。全ての探索マップボス撃破で、ラストダンジョン──の一歩手前のダンジョンが解放されるんだよね。
というわけで、ディアちゃんがレッサーバシリスク討伐を依頼しても何らおかしいことはない。むしろ、それが正解というものだ。
では、私たちもディアちゃんのお手伝いをしようかな。
「レッサーバシリスク討伐の依頼を受けるぞ」
「ですが、陛下。あまり報酬は高くありませんが」
「私は金のために冒険者をやっているわけではない。スリルのためにやっているのだ」
「はっ。申し訳ありません、陛下。では、クエストを受注して参ります」
よし。上手いこと言ってごまかせたぞ。
「……私、今は武器はない」
「今回は貴様は休んでいろ。報酬は分けてやる」
ジト目でジルケさんが見てくるのに私がそう返した。
ジルケさんの武器は今イッセンさんが鍛えなおしているので、ジルケさんは今はクエストに参加できないのである。
「……今度、埋め合わせ」
「分かった、分かった。今度はエーレンフリートを置いて、ふたりでクエストだ」
「……うん」
ジルケさんの表情がぱあっと明るくなる。
しかし、ジルケさんも私のような毒舌魔王弁と付き合っていて楽しいのだろうか。そこはかとなく謎だ。私のどこら辺がいいのか、今度聞いてみたい。
私はジルケさんが好きな理由はいっぱいあるよ。同じボッチ仲間だったし、友達第二号だし、こんな私について来てくれるとかね。
しかし、今日もクエスト受注で昼過ぎになりそうだな……。
私は遅々として進まない冒険者ギルドの受付窓口の列を見てそう思ったのだった。
……………………
……………………
お昼までにはなんとかクエスト受注は終わった。
なので、今度は依頼主のディアちゃんに会いに行く。
私とエーレンフリート君はディアちゃんのお店を訪れたが、ディアちゃんは留守だった。ということはあそこか。
私たちが向かった先は──。
「いらっしゃいませなのじゃ、主様」
大衆食堂“紅葉亭”。
「錬金術師の小娘はいるか?」
「はい。先ほどやってきました。何か御用ですかの?」
「うむ。奴の発注したクエストを受注した。そのことで話がある」
「それでしたらこちらへどうぞ」
私たちは九尾ちゃんの案内で店の奥へ。
「あっ! ルドヴィカちゃん! ルドヴィカちゃんもお昼?」
「それもあるが、まずは貴様の依頼の件だ」
ディアちゃんがテーブルで手を振るのに私がそう応じる。
ディアちゃんのテーブルではミーナちゃんとオットー君が蕎麦を食べている。
「貴様の出したレッサーバシリスク討伐の依頼を受けたぞ。貴様はどうする?」
「あ。ルドヴィカちゃんが受けてくれたんだ。私も討伐に行くよ。そのためにいろいろと準備してきたからね。任せといてよ」
準備っていったい何を準備したんだろう。治癒ポーション?
「あたしたちも一緒にいくよ」
「俺もだ。俺も一応クエストを受注してるからな」
そして、ミーナちゃんとオットー君がそう告げる。
「では、決まりだな。いつ出発する?」
「お昼が終わってから!」
明日辺りになるのかと思ってたけど、随分と早いな。
「何か必要なものでもあるのか?」
「実はね。レッサーバシリスクが山頂だけに留まらず、麓まで降りてくるのを見かけた人がいたんだって。今、山の麓って露天風呂の工事中でしょ? だから、早めに討伐しておきたいなと思って」
おお。自分の利益とは関係ないのになんていい子なんだ、ディアちゃん!
「それに新兵器の威力を試したいしね、ふへへ」
……何作ったの、ディアちゃん?
「それでは昼を済ませたら出発するか」
「おー!」
というわけで、今日のお昼は月見そばを食べ、その後レッサーバシリスク討伐のためにドーフェルの山へと向かったのであった。
……………………
……………………
ドーフェルの山は今日は快晴だ。
麓から山頂までよく見える。この景色を眺めながら温泉に入ったら最高だろうな。
それはそうと、今回の討伐メンバーは私、エーレンフリート君、ディアちゃん、ミーナちゃん、オットー君、ジークさんだ。
そう、ジークさんが加わっているのである。
ジークさんもドーフェルの山のレッサーバシリスクのことは気にしていたようで、ディアちゃんたちが討伐に行くならとついて来てくれることになった。
まあ、レッサーバシリスクなんてレッサーグリフォンが毒を飛ばしてくるようになっただけだし、大丈夫、大丈夫……? 本当に大丈夫?
いざとなれば私の魔剣“黄昏の大剣”を叩き込んでやればいいのだが、そうすると毒液とか飛び散って私たちも被害こうむらない? 大丈夫?
う、うーん。確実なのはエーレンフリート君に魔剣“処刑者の女王”でやっつけてもらえばいいのだが。そこはかとなく心配だ。
「おや。これは陛下。山に登られるのですか?」
私たちは山道に入ろうとしているところでピアポイントさんと出会った。
「ああ。レッサーバシリスクの討伐だ。最近、麓に奴らが降りてきているのだろう。貴様らは見かけたか?」
「いえ。そのような臭いは麓ではしませんが……。レッサーバシリスクの臭いは刺激臭がするため捉えそこなうというようなこともありえませんし」
あれー? いつも森や山の見回りしてくれているピアポイントさんたちが見たことないってことは、本当はレッサーバシリスクは麓の方には降りてきてないの?
悪質なガセネタを掴まされたのか、別の魔物を見間違えたのかどっちだろう。
「万が一ということがある。討伐が終わるまでは見張りをしておけ」
「畏まりました、陛下」
私がお願いするのに、ピアポイントさんは快く引き受けてくれた。
「では、ドーフェルの山。山頂を目指すぞ」
「おー!」
というわけで、私たちは登山、登山。
ここら辺で収集できる錬金術素材は一部の鉱物を除いてカサンドラ先生から譲り受けているだろうし、スルーでいいだろう。ちなみにカサンドラ先生の救済があるのは初回の初心者モードの時のみで、それ以外では発生しないぞ。
「みんな。疲れたら言ってね。冷たい疲労回復ポーションを準備してるから」
流石ディアちゃん。準備万端だ。
最初は見てて危うい子だったが、立派に成長して……。私は嬉しいよ。
と、後方母親面をしてないで、しっかりと探索しなければ。
狼の群れは結局、ピアポイントさんの部下の人たちと一緒に移動したので、残っているのはポチスライム山岳亜種だけだ。ポチスライム山岳亜種程度ならば、大した手間もかかるまい。さらっと蹴散らしてやるぞ。
問題は移動しているかもしれないレッサーバシリスクだ。
このドーフェルの山のレッサーバシリスクも探索マップボスなのでネームド魔物になる。名前は“山の猛毒”。ちょっと強めの魔物なので、先に別の探索マップを解放して、そっちで装備を整えてから挑むのもありだ。
ここでは状態異常の大変さを教えてくれる。
毒の治癒ポーションをきちんと揃えておかないと、毒のせいで大変なことになるぞということを教えてくれるのが、レッサーバシリスク先生だ。これまでは状態異常を与えてくる魔物は出てこないからね。
RPGプレイヤーには常識だろうけれど、この『クラウディアと錬金術の秘宝』は割と初心者向けに作られているゲームだから。……少なくとも序盤は。
後半になると理不尽なくらい強いのがわらわら出てきてパニックに陥りそうになる。そうそう、次に解放されるだろうドーフェルの大洞窟辺りからモンスターが強めになり、ドーフェルの神殿跡地では『本当に倒せるの、これ?』って感じのボスが出てくる。
そして、ラスボスは極めつけの私。
基礎攻撃力1万の魔剣“黄昏の大剣”を振り回し、エーテル属性のバフデバフで2連続攻撃を叩き込んで来たり、エーテル属性の全体攻撃魔術を叩き込んだりしてくる厄介極まりないラスボス。
どう考えてもゲームバランスが私の周りだけおかしい。
「ワン!」
などと考えていたら、ポチスライム山岳亜種が飛び出てきた。
「でたなー! いくよ!」
「応っ!」
ディアちゃんが声を上げるのにオットー君が応じる。
オットー君の弓は“風の弓”だが強化されたらしく色が変わっている。よくよく見ればミーナちゃんの“琥珀の杖”も強化されているようだ。
新兵器ってこれのことだったのかな?
「キューン」
そんなことを考えている間に戦闘はあっという間に終わった。
「私たちも強くなってるね!」
「ディアは何もしてないじゃん」
「治癒ポーションの準備をしてましたー」
「ポチスライム程度に治癒ポーションはいらないって」
ディアちゃんとミーナちゃんが仲良さそうに話し合っている。
「そろそろ山頂だな」
おっと。心臓が引っ張られる感じがするぞ。これはいるな。
「気を付けてくれ、クラウディア君たち。レッサーバシリスクが近い」
「はい!」
ジークさんの警報も入ったし、いよいよ来るぞ!
そして、私たちはいよいよ山頂に到着。
すると──
「キィー!」
レッサーバシリスク、出現!
レッサーバシリスクは威嚇しているのか羽を広げて、甲高い鳴き声を上げている。普通の鶏を10トントラックサイズにしたようなもので、威嚇されるとかなり怖い。
「やるよー!」
そこでディアちゃんがバックの中から明らかにバックの容量以上の品を取り出して、それを掲げると、レッサーバシリスクに向けて投げつけた。凄い腕力だ!
しかし、驚くべきはディアちゃんの腕力ではない。
その放り投げられた品である。
それは巨大な樽。
「巨大樽爆弾!」
ディアちゃんがそう告げるとその大きな樽爆弾は爆発し、周囲に爆風を吹き荒れさせた。爆風がこっちまで響いてくる。これは凄い!
この巨大樽爆弾。樽爆弾開発ツリーのベースである樽爆弾の次に解放されるものであり、樽爆弾より威力のある錬金術武器だ。
ディアちゃん……。最初は樽爆弾の存在すらも知らなかったのに成長して……。
「どーだ! 参ったか!」
ディアちゃんの自慢の新兵器というのは巨大樽爆弾のことであったらしく、ディアちゃんは自信満々に吹き飛ばされたレッサーバシリスクを見ている。
「キィー!」
「うえっ! 効いてない!?」
いや。効いてるとは思うよ。ただ、まだまだ探索マップボスを瞬殺できるだけの威力がないだけで。巨大樽爆弾もそれなりの威力なんだけど、流石にレッサーバシリスクを一撃で葬り去るにはちょっと威力不足だ。
「次の爆弾の準備をしておけ。それまで押しとどめておいてやる」
私、エーレンフリート君、ジークさんが前衛に出る。
「ディアだけにいい恰好させないから! アイスシュート!」
そう告げてミーナちゃんがレッサーバシリスクに水属性の魔術を叩き込む。
「キィー!」
巨大樽爆弾、魔術攻撃と連続攻撃を受けてレッサーバシリスクがキレた。
口から毒液を撒き散らしながら突撃してくる! 怖い!
「させん!」
レッサーバシリスクの突撃をジークさんが防いだ。
お。よくよく見ればジークさんの武器も新調されている。ディアちゃんが作ったのかな? 好感度が上がっているといいね!
ではなく! レッサーバシリスクの突撃を阻止しなければ!
「魔剣“黄昏の大剣”」
私がその黒書武器を抜くと、明らかにレッサーバシリスクが動揺した。
安心したまえ。君をドーフェルの森のレッサーグリフォン君のように黒書武器の威力にものを言わせて吹き飛ばすつもりはないぞ。あくまで主役はディアちゃんだ。ディアちゃんの巨大樽爆弾で思う存分吹き飛んでほしい。
「さあ、さあ、さあ。獣よ。かかってくるがいい」
来るなら来い! と言いました。
「今のうち!」
続いてオットー君が矢をレッサーバシリスクに浴びせかける。
クリティカルヒット! 矢はレッサーバシリスクの眼球に命中した!
「キイイイィ──!」
レッサーバシリスクは激おこ状態だ。
「エーレンフリート、殺さない程度にやるぞ」
「畏まりました、陛下」
私はそう告げるとジークさんと交代してエーレンフリート君とともに前に出る。
加減して、加減して、ほんのりタッチするように。
ズドンッ! と音がして私自身がびっくりした。軽く撫でたつもりが、レッサーバシリスクの片羽が引きちぎれている。なんてこったい。
「流石です、陛下!」
「まあ、造作もないことよ。この程度の相手を料理するなどはな」
ま、まあ、これぐらいの手加減でいいよね? と言いました。
「ディア! いつまでのんびりしている! 次の爆弾を叩き込め!」
「了解! 準備完了!」
ディアちゃんが再び巨大な樽を掲げてレッサーバシリスクに投げつける。
私たちは防御の姿勢を取る。
次の瞬間、巨大樽爆弾が爆発し、レッサーバシリスクが吹き飛ばされる。
「キイィ……」
そして、小さく鳴き声を上げると、ぼふんと白煙を噴き出し、素材だけを残した。
「やったー! レッサーバシリスク、撃破!」
「やったね、ディア!」
ディアちゃんが歓声を上げるのに、ミーナちゃんがハイタッチした。
「それなりだったな、辺境の騎士」
「君は想像以上だったね、ルドヴィカ君」
お疲れさまでしたと私が言うのに、ジークさんが苦笑いを浮かべてそう返した。
「これで安心して温泉が作れるね」
「素材の回収も忘れるな。新しい武器や防具の材料になるぞ」
ディアちゃんがガッツポーズするのに私が素材も大事だよと言いました。
「そうそう、素材も回収してっと」
しかし、この時点でレッサーバシリスク撃破か。
ディアちゃんの成長速度は凄いのでは?
この調子だと次のドーフェルの大洞窟も簡単にクリアしちゃいそうだな。
うんうん。いい感じだ。このまま邪神討伐まで頑張ってほしい。
だけど、私の方はどうしたらいいのかなー?
……………………
面白そうだと思っていただけましたら評価、ブクマ、励ましの感想などつけていただけますと励みになります!




