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何を恥じるというのだ?〈裸の付き合い〉

……………………


 ──何を恥じるというのだ?〈裸の付き合い〉



 私たちは先にエーレンフリート君にもらった野菜などを持ち帰ってもらいながら、私とジルケさんは銭湯へと向かった。


 しかし、ゲームで銭湯など出てきただろうか?


 昔にやったゲームなので記憶があいまいだ。


 だが、近くに山があることだし、温泉があってもおかしくはない。


 もっとドーフェルの山付近でお湯が沸きだすなら、露天風呂とか作れていい気がするけどなあ。観光開発に打ってつけじゃないですか、温泉。


 問題はこの陸の孤島に等しいドーフェルまでどうやって人たちに来てもらうかだ。


 街道は立派なものが走っている。かつてはドーフェルも交易の中心地だったのだ。その頃の遺産が今も残っている。馬車が路面にぬかったりせず年中走れる街道が、王都までしっかりと伸びているのである。


 しかし、今の交易路は東向き。


 こっちの方にはお客はとんと来ない。これを解決しなければならないというのが現状である。観光地としての素質はあるわけだから、宣伝さえしっかりして、観光客の受け入れ準備を整えればいいと思うのだが。


 如何せん、宣伝広告にはお金がかかる。


 新聞に宣伝を載せたり、チラシを配ったりするだけでも数万ドゥカート。序盤の収入が5000ドゥカート程度と考えると、今からコツコツと貯蓄しておけば、宣伝費用はディアちゃんが出せるだろう。


 私が出さないのかって?


 既に魔王がでしゃばっているせいで物語のプロットが滅茶苦茶なのにこれ以上ゲームを破壊したら、何が起きるか分かったものではないよ。


 というわけで、私は裏方。あくまで活躍するのはディアちゃん。


「……ついた」


「ここが銭湯か」


 そういえばエーレンフリート君がやけに銭湯には反対してたなあ。病気が移るとか、私の弱点を晒すことになるとか。なら、エーレンフリート君も一緒にどう? って尋ねたけれど、エーレンフリート君は拒否して自宅に向かってしまった。


 まあ、魔王軍の人たちも入浴中に襲ってきたりはしないだろう。


 それぐらいの常識はある……はず。


 というわけで、銭湯にゴー!


「おや。ルドヴィカ様」


「ピアポイント?」


 私が銭湯に足を進めようとするのに現れたのはピアポイントさんだった。


「貴様も銭湯に来たのか?」


「ええ。古傷に効くと聞きましたので。陛下も?」


「私に傷などない」


 大陸大猪とやり合ったけれど、怪我はしてないし、古傷もない。


「そういえば、森の方で温泉は見かけなかったか?」


「ありますよ。魔物たちがよく集まっています。効能を比べに来たのですが、ここも森のものと同じようですね」


 おお。森の方にも温泉はあるのか。


「可能な限り魔物を追い払えるか? 少なくとも人間に害をなすようなものだ」


「可能でしょう。人狼の臭いがすれば低位の魔物は寄り付かなくなります」


「そうであれば、そのように手配せよ」


「しかし、何のために?」


 ピアポイントさんが不思議そうに尋ねる。


「私の戯れだ。目的などない」


 この街を盛り上げるためです! と言いました。


「では、畏まりました。仰せの通りに」


 ピアポイントさんは目的も分からないまま魔物を追い払いにいっちゃったんだけどそれでよかったのだろうか。疑問が残る限りである。


「……銭湯」


 それはそうと銭湯に行かなければ。ジルケさんが寂しそうに待っている。


「いらっしゃい、ジルケちゃん。あら、見慣れない子も一緒なのね」


 銭湯はまずは受付カウンターがあり、そこから男女に分かれていた。


「……ルドヴィカ。私の友達」


「まあまあ、ジルケちゃんにも友達ができたのね。それはいいことだわ」


 受付カウンターのおばさんは嬉しそうにそう告げる。


「ルドヴィカちゃん。入泉料は30ドゥカートよ」


「ふむ」


 お手頃価格だな。


 よくよく見ればフルーツ牛乳も売ってる!


 この際、どうやって冷やしているのかとかは気にしないようにしよう。冷蔵庫的なアイテムが錬成されていたとしてもおかしい世界じゃない。


「では、30ドゥカートだ。入らせてもらうぞ」


「ごゆっくり」


 というわけで私たちは女湯に。


 この時間帯はまだまだそこまでお客さんはいない。徹夜明けで、お昼前だからね。この時間帯はガラガラである。


「……銭湯、入り方知ってる?」


「馬鹿にするな。その程度心得ておるわ」


 それぐらいは知ってるよと言いました。


 まずは体をお湯で流して、体を洗ってから、湯に浸かる。


 異世界だから特別な儀式でもあるかなとかも思ったりしたがそんなものはなかった。


 私たちは土埃をごしごし洗って落とし、私は長い髪の毛をジルケさんに纏めてもらってからお湯にゆっくりと浸かった。


 ふう。極楽、極楽。


「これを街の目玉にすればよかろうに何を考えているやら」


「……街のこと、考えているの?」


 私がこれが街の目玉だとお客さん来そうだねと告げるのにジルケさんが尋ねる。


「まあ、それなりには考えてやっている。この街が発展すれば、そこに暮らす私の格も上がるというものだ。損な話ではあるまい?」


 街が発展すると生活が便利ですからと言いました。


「……私は今のままでもいいけどな」


「どうしてだ?」


 ジルケさんが呟くように告げるのに私は首を傾げた。


「田舎町だから人がいっぱいにならない。この銭湯もゆっくり入れる。人が増えるとあれこれと人付き合いしなければならくなるから、いや」


 ああ。ジルケさんには今のドーフェルぐらいがちょうど暮らしやすいんだな。


 私が東京に行ってショックを受けたように、ジルケさんにもジルケさんにとって快適な人口密度というものがあるのか。


「それでも街は発展させなければならん。安心しろ。いきなり人が増えるほど町興しは簡単ではない。徐々に増えるだろう。貴様も今のうちから人付き合いになれておけ。私が付き合ってやるぞ」


 それでも街は発展させなければならないんだ、ジルケさん。


「……ありがと。私も頑張ってみる」


 ジルケさんは湯煙の中で微笑んで見せた。


 それにしても──。


 ジルケさんの胸、大きい。


「いったい、何を食ったらそんなに大きく成ることやらな」


「……?」


 私の言葉にジルケさんがきょとんとしている。


「わー。ガラガラだー」


「でしょ? この時間帯は空いてて──ってあれ?」


 そんな話をジルケさんとしていたら、聞きなれた声が。


「ルドヴィカちゃん」


「錬金術師の小娘か」


 ディアちゃんたちが銭湯にやってきた。


「あれ? ルドヴィカとジルケさんもお風呂なの?」


「まあ、少し大陸大猪の相手をしたら埃がついてしまってな」


 大陸大猪のせいで汗まみれ、泥まみれだったよと答えました。


「大陸大猪の相手をしたの!? 凄いねー……。あれってゴールド級冒険者がパーティーを組んで挑んでも危ない魔物なのに」


 その危険というはあのでか物が群れるから危険だというのだろうか。それとも、あれ単体だけでやべーのかどっちだろうか。私的にはどちらもあり得ると思う。でかいし、群れる。とても危険な魔物だ。


 異世界の農家さんはあんなのの相手をしなけりゃいけないとか大変だよ!


「私にかかればあの程度余裕だ」


 正直やばかったですと言いました。


「でも、依頼主は誰だったの?」


 そうディアちゃんが尋ねる。


「農家だ。名前は忘れた」


「農家のお手伝いをしたんだ。いいことしたね、ルドヴィカちゃん」


 ディアちゃんがそう告げて微笑む。


「いいことだと? 私は自分に身も守れぬ愚か者と身の丈の合わぬものに手を出した愚か者のふたつを懲罰しただけだ。それ以上のことはない」


 いいことしたことになるのかな? と言いました。


「ところで、錬金術師の小娘。成金の娘から受けた依頼はこなせたのか?」


「あっ! 特産品を使ったお土産の件だよね。あれはまだだなあ……。料理なら思い浮かぶんだけど、日持ちするお土産となると」


「それならば私が知恵を授けてやろう」


 いいこと教えてあげるよと言いました。


「北城門を出てから西に行った農家でこの地に特有のハーブが取れる。ハーブティーに加工すればなかなかのものだ。使ってみるがいい」


「わー! ルドヴィカちゃんありがとー!」


 私が告げるのにディアちゃんがガッツポーズする。


「この地の野菜もなかなかいい見た目をしていた。味もそれなりだ。成金の娘が農業で町興しをしたがるのも分からんではなかったな」


「でしょー!」


 農家さんからもらった野菜はつやつやで瑞々しく、美味しそうに見えた。それに実際に農家でご馳走になった食事は美味しいものだった。


「だが、農業での町興しはやめておけ。儲かるものではない」


「ぶー……。やっぱ、あんたはそうなのね」


 ミーナちゃんが拗ねた。


「このような温泉資源があるのだ。どうして観光に使おうとしない」


「え? この銭湯は流石に観光の材料にはならないよ。だって、街の人が日常的に使うものだし、目立つ物でもないし」


「ならば、目立つようにすればいい。森の方にも泉源はある。露天風呂を作るというのも手だろう。貴重な泉源を活かさずしてどうする」


「ろてんぶろ?」


 ああ。露天風呂って概念はないのか。


「野外に作る風呂だ。周囲の景色を楽しみながら、湯に浸かる。風情があるだろう?」


「えー。でも、それって覗かれたりしない?」


「そこら辺はちゃんと考えるに決まってるだろうが」


 ミーナちゃんが告げるのに、私がそう返す。


 まあ、かくいう私も露天風呂をどうやったら覗かれないようにするのかは知らないわけなのですけれどね。


 まあ、柵作って、木を植えたらどうにかなるだろう。


「しかし、野外にお風呂か。確かにこれは大きな商売の匂いがするわね……」


 ミーナちゃんはそう告げて考え込む。


「私が出すのはアイディアだけだ。詳細は自分で考えろ」


 詳細は考えられないのでお願いしますと言いました。


「温泉の都、ドーフェル。いい響きだね。悪くはないかな」


 ディアちゃんがそう告げて湯船の中で手足を伸ばす。


 しかし、ディアちゃんも胸がでかい。ジルケさんには及ばないがそれなり以上のボリューム感。立ち絵で見ていたときはそこまで目立つ感じじゃなかったけれど、こうして裸の付き合いになると目立つな……。


 一方のミーナちゃんはと言えば……。


「ルドヴィカ」


「なんだ」


「私たち、友達だよね」


 ミーナちゃんは平らである。大平原。


 これは親しみが持てる……。


「そうだな。貴様を友として認めてやってもいいだろう」


「うんうん。女の価値は胸の大きさだけじゃないよね」


 私もそう思う。


 ルドヴィカボディは全体的にスリムすぎるのだ。ボリュームが足りてないというか。スリムなのはいいことなんだけどね。


「街の名物にハーブティーと温泉。少しずつ街の振興案が出てきたね」


 ディアちゃんはのんびりとそう告げる。


「さて、そろそろあがろっか。フルーツ牛乳、飲んで一服しよう」


「そうしよっか!」


 おお。風呂上りのフルーツ牛乳。


 私も楽しみだ。


 汗と泥を落としてすっきりしたし、私たちもそろそろお風呂から上がろう。


「では、我々もそろそろ行くか」


 ワクワクしながら私たちもお風呂から上がる。


 それから私たちはフルーツ牛乳を堪能し、それぞれの家に戻ったのだった。


……………………

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