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有象無象は切り捨てるのみ(ドーフェルのダンジョンを目指して)

……………………


 ──有象無象は切り捨てるのみ(ドーフェルのダンジョンを目指して)



「クラウディア君が攫われたと……」


 ディアちゃんのお店でジークさんが残されたメモを見てそう呟く。


「私への報復のつもりらしい。生きているという保証はないな」


 私のせいですと言いました。


「何よ! あんたのせいでディアが攫われちゃったんじゃない! 少しは責任とか感じないわけなの! ディアが今頃どういう目に遭わされているのか……!」


「陛下に対して無礼であるぞ!」


「あんたの方があたしに対して失礼よ!」


 そして、私を放っておいて喧嘩を始めるミーナちゃんとエーレンフリート君である。


 だが、ここは私のせいであるというのは間違いない。メモの内容は明らかに私たちをおびき寄せるためのものだった。時間制限はなかったが、こういうものは時間が経つごとに生存の可能性が低くなっていってしまう。


「辺境の騎士。ドーフェルのダンジョンとやらの場所は知っているか?」


「……知っている。だが、市議会との協議の結果まだ存在は明らかにされていない」


 ジークさんに私が尋ねるのに、ジークさんが渋い表情でそう返した。


「何故だ?」


「危険だからだ。あそこを下手に刺激して、魔物があふれてくるようなことになれば、ドーフェルの自警団や冒険者では相手にできない。故に今は伏せてある」


 ああ。ドーフェルのダンジョンって終盤に解放されるダンジョンだからね。確かに下手に突いて、魔物があふれて来たりしたら、ドーフェルのあの頼りない自警団ではひとたまりもないだろう。


「危険があるならば私が皆殺しにしてやる。場所を教えろ。さもなくば、場所を言う人間が出るまで殺し続けるぞ」


 お願いだから場所を教えてください! と言いました。


「分かった。今は非常時だ。市議会も許すだろう。私が案内する。ついて来てくれ」


 ジークさんはそう告げてディアちゃんのお店を出る。


「ちょっと! ジークさん、あたしたちも!」


「そうだよ、俺だって心配なんだから!」


 ミーナちゃんとオットー君が置いていかれそうになってそう声を上げる。


「ヘルミーナ君、オットー君。本当にあのダンジョンは危険なんだ。何が起きるのか分からない。そういう場所に君たちを連れて行くわけにはいかない」


 ジークさんがミーナちゃんたちの方を向き、そう告げる。


「でも!」


「でもはなしだ。私だけでは君たちの安全を保障できない」


 でも、気持ちはわかるよ、ミーナちゃんたち。


 大事な友達が攫われたんだもんね。黙って見てるだけなんてことはできないよね。


「このものたちの面倒は私たちが見てやる」


 私たちがミーナちゃんたちの安全を確保するよと言いました。


「いいのか?」


「我々が有象無象の魔物ごときに後れを取ると思うか?」


 私がそう告げて背後を振り返るのに、エーレンフリート君、ベアトリスクさん、九尾ちゃん、イッセンさんが力強く頷いて返した。


「我々にとって有象無象の魔物が危険であることなどない。ただ、皆殺しにするだけだ。我が友であるディアを攫った人狼諸共な」


 私たちはそれなりに強いですから大丈夫です! と言いました。


「それでは君たちに頼もう。オットー君とヘルミーナ君を頼む」


 ジークさんはそう告げた。


「任せておくがいい。この小僧と小娘は観光気分でついてくればいいのだ」


 私たちに任せておいてと言いました。


「誰があんたに面倒なんか!」


「ミーナ。ここはジークさんに従った方がいい。お前だってディアが心配なんだろ?」


 ミーナちゃんが声を荒げるのに、オットー君がそう告げて制止する。


「だけど……」


「俺たちは確かに足手まといなんだ。付いていけるだけでもありがたいと思わないと」


 オットー君はそう告げてミーナちゃんの肩を叩く。


「ジルケ、貴様はどうする?」


 ここでまだ方針の決まっていないジルケさんに私は声をかけた。


「……私も行く。戦力はひとりでも多い方がいい……?」


「それはそうだ。戦力はあるだけいい。貴様は足手まといにはなるまい」


 ジルケさんが一緒だと頼りになるよ! と言いました。


「では、決まりだ。案内せよ、辺境の騎士」


 これで誰が行くかは決まりましたとジークさんに言いました。


「ダンジョンは相当危険だということは理解しているね?」


「それは貴様らの基準であろう。我々には危険でも何でもない」


 ラスボスだからきっと大丈夫ですと言いました。


「そこまでの自信があるならば信頼させてもらおう。クラウディア君を救出すると同時にこのメンバーの中から犠牲者を出さないことも私の使命だ。君がそのことに協力してくれることを祈るよ」


「何に祈るというのだ。私は信仰する神など持たぬ。全ては己の力で切り開くのみ。ディアを助けたいと思うのならば祈るのではなく、行動せよ。それが全てだ」


 早速ディアちゃんを救出しに行きましょうと言いました。


「そうだな。行動しなければ。では、行こう」


 そして私たちは北城門から外に出るとドーフェルのダンジョンを目指した!


 ……ドーフェルのダンジョンって物語終盤で解放される探索マップなんだよね。それを今踏み躙ったらどうなるのだろう……。


 ええい。考えていても始まらない。今はディアちゃんを助けに進むのみ!


……………………


……………………


「こっちだ」


 北城門を出て、森に入ってから30分。


 早くも私は方向感覚がマヒしていた。


 どっちにいったら森から出られるか分からないし、ジークさんがどっちに誘導しているのかも分からない。全く以て私のこの方向音痴さはルドヴィカの肉体によるものか、それとも私本来のものなのか分からなくなってくる。


 とにかく今はジークさんについていくのみ。


 迷子になったら私の傍から絶対に離れないエーレンフリート君に泣きつこう。


「あら。それなりの気配がしますわね」


 不意にベアトリスクさんがそう告げる。


「ただの有象無象の魔物だ。相手にはならん」


 そう告げてイッセンさんが前に出る。


「私にも獲物を分けてくださる、イッセン?」


「……好きにしろ」


 そう告げてイッセンさんが剣の柄を握るのに、ベアトリスクさんがその隣に立った。


「来るぞ。己の領分もわきまえぬ愚か者どもが」


 イッセンがそう告げた時、森の中から魔物が飛び出してきた!


 2体は獅子の半身と鷲の半身を持った怪物。グリフォンだ。それもレッサーグリフォンなどではなく、正真正銘のグリフォンだ!


 そして、もう2体は巨大なムカデ。見ているだけで眩暈がしそうな大ムカデだ。


「魔剣“ムラマサ(将軍殺し)”」


 キンッと金属音を立てて、イッセンさんの手から刀剣が抜かれる。


 魔剣“ムラマサ(将軍殺し)”。


 これも黒書武器のひとつだ。


 使用者にMP最大量減少を毎ターン付ける代わりに、絶大な攻撃力を弾き出す武器。


 MPなんて魔術使わないなら関係ないじゃんと思うだろうが、この世界のMPは精神力であり、それが枯渇すると発狂したり、行動不能に陥ってしまうのだ。なのでこのMP最大量減少を毎ターン付ける魔剣“ムラマサ(将軍殺し)”は非常に面倒な武器なのである。


 私は面倒すぎてゲームでは使わなかったけれど、イッセンさんはあんな危険な武器を使って大丈夫なんだろうか?


「いざ参らん」


 イッセンさんは刀剣を鞘に入れたまま魔物に迫ると、そのまま静止した。


 次の瞬間、2体のグリフォンの頭が切り落とされてぼふんと素材を残して消え去った。


「ヘルファイア」


 時を同じくしてベアトリスクさんがそう詠唱する。


 すると、2体の大ムカデの足元から炎が蠢き、2体の大ムカデは丸焼きに。グリフォンと同じようにぼふんと消えて、素材だけを残した。


「すっごーい!」


 最初に反応したのはミーナちゃんだった。


「今の魔術って何? 何なんです? 火属性だけどどうやって覚えたんです?」


 ミーナちゃんは本来の目的も忘れたかのようにベアトリスクさんに質問しまくる。


「ふふっお嬢様にはまだ早いわよ。もっと熟練した魔術師にならないと」


「可能性はあります?」


「魔術はどんなものにも開かれているわ」


 ミーナちゃんが尊敬の眼差しでベアトリスクさんを見ている。


 わ、私だってエーテル属性の魔術が使えるんだよ?


「イッセンさん。今のは東方の技である居合切りというものか?」


「……私はまだ人に教えるような立場ではない」


 ジークさんが尋ねるのに、イッセンさんはそう告げるだけ。


 九尾ちゃんが言ってたけれど、イッセンさんの口下手さはジルケさんを思い浮かべるよね。ジルケさんもだんまりだし。


「ジルケ。臆したか?」


「……いいえ。まだまだ頑張れる」


 そう告げるとジルケさんも戦闘に立った。


「やべー。プラチナ級の戦闘が見られるのかよ。参考になるかな?」


「オットーは弓でしょ。ハルバードのジルケさんが参考になるはずないじゃない」


「いや。間合いの取り方とかさ。とにかく得られるものは得ておきたいんだよ!」


 オットー君も必死だ。


 流石に四天王+ジルケさん+ジークさんとあってはオットー君の出る幕がない。私ですら出る幕がないのだ。これはもう見守るしかない。


「次が来る。いちいち立ち止まって相手をしていては時間を食う。進みながら行くぞ」


「分かったわ、イッセン」


 げっ。まだ来るの?


 と思ったら、森の中からぞろぞろと大ムカデの大群が!?


 この世の地獄か、ここは!


「小僧、小娘。私の背後に下がっていろ。巻き込んでも知らんぞ」


「あんたに言われるまでもないわ!」


 ミーナちゃんとオットー君は大急ぎでエーレンフリート君の背後に隠れる。


「少しばかりこの豊かな自然を傷つけることになりそうだがやむをえまい」


「陛下のためならば木々たちも喜んで倒されるでしょう」


 観光推してるのに環境破壊する魔王とか最悪だよねと言いました。


「全くだ。魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”」


 私は迫りくる大ムカデの大群に魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構える。


「塵と化せ!」


 そして、生理的嫌悪感を込めて思いっきり振るった。


 地面が揺れる。空気が揺れる。大地が揺れる。


 魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”から放たれた波動は大ムカデの大群を一挙に殲滅し、ぽっかりと森の中に何もない空地を作った。……どう見てもやりすぎです。ありがとうございました。


「進むぞ。雑魚には構ってられん」


 ぼふん、ぼふんという音がして大ムカデやらなにやらが素材だけを残して蒸発していくのに、私は魔剣“黄昏の大剣(ラグナロク)”を構えたまま前に進んだ。


 願わくばこれ以上、虫型の魔物が出ませんように……。


……………………

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