ちゃちなゲームだ(都市開発は大変です)
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──ちゃちなゲームだ(都市開発は大変です)
「ハーゼ交易代表取締役のハインリヒ・フォン・ハーゼと申します。どうぞよろしく」
「うむ」
この人がミーナちゃんのお父さんか。似てるような、似ていないような。
まあ、名刺を差し出されたので受け取っておく。名刺文化は異世界にもあった。
「それで、ミーナから聞いたのですが、この街の開発について提案があられるとか。我が社としてもドーフェル市の発展には社運がかかっていると言ってもいいですから、どんな些細なことでもお聞きしたいと思っています」
そう告げてハインリヒさんが椅子に腰かける。
「そのようなことが聞きたいのか。私はこの街が更地になろうと、天高く塔がそびえる街になろうと興味はないが、私の意見を求めるというのならば教えてやらんでもない」
本当に些細な提案しかないですけどと言いました。
「まず、この街は田舎だ。だが、それこそが利点だ。王都を見ろ。人で溢れて、異臭と犯罪が蔓延っている。そのような不健全な都市に暮らしている人間はそれに満足しているわけではない。仕方なく、その身を置いているだけだ」
「ふむ。確かに王都はあまりいい環境とは言えませんな。ビジネスをするには人が多くて機会も多いのでしょうが、暮らしていくにはドーフェルぐらいの田舎がいいものです」
人が多い都市はいろいろと面倒なことが多いですよねと言いました。
私も九州の真ん中から東京に行った時はショック受けたものだ。よくあんな人、人、人、人の人込みに我慢できるなって。電車は息が詰まりそうだし、街を歩いているだけでも疲れるし、基本的にあまり人が多くない土地の方が私には住みやすいのだろう。
「この街はとんだ田舎町だが、発展する潜在力はある。適度な交通インフラ。適度な広さの都市面積。豊かな自然環境。これから都市を開発していくとするならば、王都のような都市を目指すべきではない。あのように汚れた空気の街など滅ぼした方が世のためだ。このドーフェルにはドーフェルなりの発展の仕方がある」
ドーフェルは田舎だけどいろいろと揃ってますよね。これなら王都みたいとまではいかなくともそれなりに発展できるんじゃないかなと言いました。
「と、おっしゃいますと?」
「観光だ。王都のような汚れた土地に辟易した者たちを招き入れる。この豊かな自然環境を売りとし、大都市から観光客を誘い込むのだ。ここは自然だけはどこよりも豊かであり、人間も無理やりにはそれを開拓しようとはしていないからな」
観光を発展させるのがベストな選択肢ですよ! と言いました。
「ふむふむ。ですが、自然と売りとするとなると、他のことはできなくなりますな。私どもとしては最近穏やかになったドーフェルの森を開拓して、独自のブランドを冠する農作物などを作っていこうかと考えていたのですが」
「やめておけ。どうせ東方の猿真似であろう。東方の品と張り合っても勝てん。愚かな民衆どもはたとえ効果や味が同じであっても本場のものを求めるからな。このドーフェルで東方と同じものを作ってもただの劣化版で終わりだ」
東方の作物を育てられる環境ではあるけれど、独自ブランドにするのは大変だよと言いました。実際にゲームでも独自ブランドの開発に成功したのは数品だけで、まるで採算が取れない結果に終わっているのだ。挑戦するのはいいけれど難しいよ。
「それもそうですな。ブランド作りというのは一朝一夕でできることではありませんからな。農業への投資はこれまで通りに留めておいた方がいいのかもしれませんね」
「お父様! そんなに簡単に諦めていいの? ドーフェル独自のブランドができれば、交易路も東からまた南に向くって言ってたのに。それに東方と同じ品でも東方より安ければ、いいブランドになるじゃない」
ハインリヒさんが困った表情を浮かべるのに、ミーナちゃんがそう告げた。
多分、ブランド開発でドーフェルを盛り上げるつもりだったんだろうな。けど、農業は商業レベルとのバランス取りが難しいし。農業をある程度発展させて地方名物ぐらいのレベルならどうにかなるかもしれないけど。
「安いブランドに価値などない。ブランドは高級であるからこそ価値があるのだ。粗製乱造のブランドなど、この製品はゴミですと宣伝しているようなものだ。ブランドとは高品質であり、購入する者の自己顕示欲を満たすものでなければならん。それを安物のブランドだと。ちゃんと商売人としての教育は受けたのか、小娘」
ブランドは高品質だといいんであってブランド作りに固執すると失敗するよと言いました。私自身、ブランド作りなんてやったことがないので分からないが、魔王弁から繰り出されるブランド理論は通ぶってるぞ。
「その通りです。ミーナ、安いブランドというものはあまりいいイメージを持たれない。人間は商品の価値を判断するときどうやって判断すると思う? 値段を見るんだ。値段が高ければいい商品に違いないとな。だから、実際は薬効のない東方からの品まで不老長寿の秘薬などと持て囃されて売れているのだよ」
「けど……」
どうやらブランド開発の発案者はミーナちゃんだったらしい。凄く落ち込んでいる。
「考え直すことだな。今、ドーフェルの森は落ち着きを取り戻した。やがて、ドーフェルの山も落ち着くだろう。その時、自然が残っていれば観光地となることができる。だが、開拓してしまい、木々を切り倒し、家畜の糞を撒き、泥臭くなった環境だけが残るのであれば、もはや手遅れだ。風の囁きは聞こえなくなる……」
もうすぐドーフェルの山も攻略できるからそこから観光を頑張ろうと言いました。
どうも魔王の私は観光に思うところがあるようで、私が適当に喋ってるのに次々と情報が継ぎ足されていく。本当は魔王じゃなくて観光プランナーになりたかったのかな?
「両方は無理。どちらか一方というわけですな。しかし、お土産品に特産物を用意するのはどうでしょうか? ブランドとしては貧弱ながらも、豊かな自然で育った品としてある程度付加価値をつけて販売すればお土産になると思うのですが」
「悪くはなかろう。自然だけを売りにしてもダメだからな。自然も重要だが、商業としてもある程度環境が整わなければ、いくら交通インフラが整っていても、利益を生み出さない。そういう意味でのブランドは悪くはない」
観光だけじゃなくて商業も発展させないとなかなかこの街も発展しないよと言いました。いわゆる、特化都市攻略というのもあるのだが、観光だけを特化させても得られる収入は限られるので商業への投資も推奨されている。観光と商業の合わせて、1+1=10の勢いにしなければならない。
まあ、商業に投資と言っても商業勝利のゴールである金融証券取引所の建設まで投資する必要はない。観光でぼちぼち稼ぎながら、余ったお金を商店街や市場、大衆食堂に投資していけばいいだけだ。
「しかし、観光地としてのドーフェルは今は無名ですので、これからアピールしていかなければなりませんな」
そうなのだ。観光勝利の要因には宣伝という要素があるのだ。
これが馬鹿にならない出費であり、ディアちゃんは稼ぎを次々と吸い上げらることになる。けど、宣伝しないとそもそも観光地として認知すらされないという罠。なので、頑張ってPR予算に投資していかなければならない。
「その点は金に任せるしかないな。低俗だが、新聞にでも広告を載せることだ」
お金の問題になりますと言いました。
「いや。それにしても今回は参考になりました。ご足労戴きありがとうございます。これからもよろしければご意見を伺いたい」
「フン。商売ならば貴様らの縄張りだろう。どうして門外漢の私に意見を求める?」
これは疑問に思っていたのだ。
私がゲームの時の知識でアドバイスできるとしても、そんなことをハインリヒさんたちは知らないわけで。まるで専門外の、娘の友達の友達でしかない私に意見を求めてきたのはなぜだろうか。ちょっと納得できない。
「娘からお名前をお聞きしました。エスターライヒと。エスターライヒ王室の最後は悲惨なものでしたが、彼らが生み出したものは美しさや荘厳さを有しています。その末裔の方であれば、今もそのセンスをお持ちではないかと思ったのです」
ああ。エスターライヒ王室の話か。
エスターライヒ王室は8月革命の混乱の中で滅んだ──ということになっているけれど、王室関係者は何名かローベルニア王国に亡命しており、ローベルニア王国は亡命者を受け入れいているのだ。なんでもローベルニア王国の王室とエスターライヒ王室には婚姻関係があったとかで。こういうところはヨーロッパ的だと思う。
……しかし、私がエスターライヒ王室の末裔ではなく、もしかすると100年以上生きてるかもしれない化け物だということには気づかれていないようだ。私自身、つい最近知ったばかりだからね。それにまだ100年以上生きているって証拠はないし。
「エスターライヒの名はあまり出すな。その名にはいい気分はしない」
「いろいろと事情があられるようですね。できれば表に出ていただきたかったのですが、そうであればなるべく伏せておきましょう。ですが、やはり王室の方のセンスは優れている。これからもどうぞハーゼ交易をよろしくお願いします」
これで本当に生き延びているエスターライヒ王室の関係者が私の存在に気付いたら、いよいよもって大変なことになってしまう。
「むう。王室の何が偉いっていうのよ」
ミーナちゃんはそっぽを向いている。機嫌を損ねちゃった……。
ディアちゃんの友達とは仲良くしておきたいのに……。
「これで用事は終いか? 帰るぞ、エーレンフリート」
「はっ、陛下」
観光にはあれだけ雄弁だった私もミーナちゃんとの関係を修復するための言葉は出てこず、気まずい別れになってしまった。
後でちゃんと仲直りできるといいけど……。
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