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居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について  作者: 古野ジョン


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第32話 お見通し

 ピロピロと少々間抜けな効果音が響き渡り、バッティングセンター中がざわめいた。突き刺さるような弾丸ホームラン、それを純白のワンピースに身を包んだ美人が放ったのだから――驚くのも当然ではある。


「おおっ、何か鳴ったぞ! これはなかなか気持ちがいいな!」

「気持ちがいいっていうか……なんでそんなに――」

「ふんっ!」

「嘘!?」


 うわっ、また行った! グシャッというボールが潰れるような音が響き、再び鋭い打球が飛んでいく。軟球でそんな音を鳴らす人間、初めて見たな……。


「楽しいぞ、怜っ! いいところに連れてきてくれたな、感謝する!」

「そ、そうですか……」


 夏織さんがバットを振るたび、華麗にワンピースが揺らめく。カーンと快音が聞こえてきて、その度にオーディエンス(いつの間にか集まっていた)から歓声があがる。なんだこれ、一足早い甲子園がやってきたのか?


 その後も、夏織さんはヒット性の打球を飛ばし続けていた。教えたわけでもないのに、程よく力の抜けた理想的なフォーム。うーん、これが生まれ持つ才能というわけか。


「あれ、球切れか」

「終わったみたいですね」


 さっきまで腕を振り続けていたマシーンがぴたりと動きを止めた。どうやら規定の数を打ち終えたらしい。


「いやあ、本当に楽しかった!」

「凄いなねえちゃん!」

「あんなに飛ばしてる女の子、初めて見たよ!」


 観客からの喝采を浴びながら、夏織さんは満足げな表情でケージの扉を開け、こちらに戻ってきた。その額にはかなりの汗がにじんでいる。気にならないくらい楽しんでいたということかな。


「楽しんでくれたみたいで何よりです。どうします、ゲームでもしますか?」

「怜は?」

「へっ?」

「怜は打たないのか?」


 首をかしげ、持っていた金属バットをこちらに渡してくる夏織さん。……考えてもいなかったな。


「僕はいいですよ。夏織さんが楽しんでくれれば、それで」

「私だけ楽しむのは嫌なんだ。怜も打ってくれ」

「えっと……」


 本音では、打ちたくなかった。本当に、純粋に夏織さんに楽しんでもらえればそれでよかったのに。


「本当にいいんです。僕、下手ですし」

「怜」

「えっ?」


 いつになく真剣な夏織さんの声色に、思わず顔を上げる。綺麗な瞳で、真っすぐに俺の目を見つめて――一言。


「打ってくれ」


 ……その目は、まるで「分かっているぞ」と言わんばかりだった。夏織さんは曲がったことが嫌い。俺が下手な嘘をついていることもお見通しなんだろう。もしかして、あの日のことも――いや、今はそれはいいだろう。


「分かりました」


 後は何も言うまい。夏織さんからバットを受け取って、打席に入った。財布から百円を取り出して、機械に入れる。


「頑張れ、怜!」


 ガラス越しに、夏織さんの応援する声が聞こえた。俺はバットを構えて、アーム式のピッチングマシンを見つめる。間もなく放たれた第一球を目で追って――


 さっきの夏織さんと同じように、ホームランの的にぶち当てた。

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