第26話 遠足気分
「ご乗車ありがとうございます、次は……」
俺たちはやってきた電車に二人で乗り込み、隣同士で立っている。仙石線はこの時間でも座れないんだな。
「この路線は初めてだ。地下を走るんだな」
「ええ、そうなんですよ」
トンネルの轟音に混じりつつ、夏織さんの不思議そうな声が聞こえてきた。俺も久しぶりに乗ったなあ。野球を観に球場に行くときとか、それくらいしか乗る機会がない。
ましてや東京から出てきた夏織さんは、あまり仙台の鉄道路線を使う機会がないのだろう。地下鉄は別として、普通に学生生活を送るだけならあまり用もないだろうしな。
それにしても……今日の夏織さんは本当に綺麗だ。長袖のワンピースなのに、純白の素材が暑さを感じさせない。麦わら帽子を胸の前に抱える様子は、まるで名作映画に出てくる女優みたいだ。
「ん、何か変か?」
「いえ、別に」
横に立つ夏織さんが首をかしげていたので、微笑みを返した。えーと、どこまで乗るんだったかな。路線図は……。
「怜、この電車はどこまで行くんだ?」
「終点ってことですか? えっと……松島の方まで行くみたいですね」
夏織さんは興味津々といった感じで俺と同じところに目を向けていた。松島、という響きには聞き覚えがあるようで、なんとなく頷いている。
「せっかく宮城に来たのに、私はまだ松島を見物したことがないんだ」
「あっ、そうだったんですか」
松島、か。今日は暑いけど快晴の日。きっと島々が美しく見えることだろう。観光名所もたくさんあるし……。
「夏織さんが良ければ、このまま松島まで乗って行ってもいいですよ」
「えっ?」
「水族館はいつでも行けますから。どうします?」
実際、別に構わないんだよな。せっかく考えていたプランが無駄になってしまうけど……夏織さんが松島に行ってみたいなら、それはそれで良しだろう。今日はこの人に楽しんでもらう日なんだから!
「ありがとう、怜。でも、今日は大丈夫だ」
「いいんですか?」
そう問いかけると、夏織さんはニコッとほほ笑んだ。
「今日は怜がいろいろと考えてくれたのだろう? 私はそれが楽しみだったんだ」
「夏織さん……」
「それに――」
偶然か、夏織さんがこちらを見たタイミングで電車がトンネルを出た。陽の光が車内に差し込んできて、一気に明るくなり――夏織さんの顔がよく見えるようになる。
「松島は、今度連れて行ってくれるのだろう?」
「!」
……そうか、夏織さんはもう「次」を期待してくれているんだ。まだデートは始まったばかりなのに、また俺と出かけたいと言ってくれているんだな。
「ええ、案内しますよ。楽しみにしていてください」
返事をしつつもちょっと恥ずかしくなって、夏織さんから顔をそらしてしまう。この人、恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく言うことがあるからな。変なタイミングで照れていることもあるのに!
妙に何も言えなくなって、俺たちは無言で電車に乗り続けた。さて、あと少しで水族館の最寄り駅だ。デートはここからが本番ってことだ――




